第09話:ギリギリの理科室
次の日、いつも通り登校する。俺と琴葉は割とくっついている一方で、姉ちゃんは察せられることのないよう、控えめだった。
放課後。
「本当にこんなんでいいのか?」
「いいよー。でも、1ヶ月に一回くらいは、私との時間を作ってほしいな」
「わかったよ」
そんな話を、姉ちゃんの部屋でした。姉ちゃんが割と寛容で、上手くやっていけそうだ。
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6月になった。ある日の放課後、俺は理奈に呼び出され、理科室にいた。
というのも、仲良くなってから週に1回くらいのペースで、俺は天文学について理奈と語り合っているのだ。
「拓海君は、こことは別の世界が存在するって信じる?」
「うーん。微妙だな」
「確かに、そういったおとぎ話のようなものは沢山あって、どれも信頼できない」
「だよな」
「でも、私はとある記事を見つけた。鉄 紫さんという方の記事なんだけど、これがすごく引き込まれたんだよ」
「へー。どんな記事なの?」
「それが、この世界とは別の世界って話だよ。根拠は凄く薄くて、論理的には信用できない。おとぎ話とあまり変わらない」
「じゃあ、どうして?」
「なんだろう。まるで本当にあるかのような気がした。天文学……というか理科の世界で『気がした』なんて信頼できないのはわかってる。それでも、一応一つだけ説得力のあることは、私にも言える」
「というと?」
「無いという証拠もない」
「まあ、確かにな」
「それに、そう考えたほうが面白いじゃない?」
「良い考え方だね。そうしたら、確かに俺も信じたいと思えてきたな」
「でしょ!? だから、いつかこの不思議を解決したい。できれば、そんな世界が『ある』ことを証明したい」
「素敵な夢だね。俺も応援するよ」
「ありがとう!」
「おう!」
「……それでね」
「ん?」
理奈の声が、急に小さくなった。
「あの……実はもう一つ、私の中で解決したい事象がある」
「なに?」
「その……。拓海君と話していると、私は心拍数上がってしまう。体温も微妙に高くなっている気がする。これは、なぜ?」
「……」
数秒の間、静まり返った理科室がそこにあった。
「これは、『好き』と言われている感情なのかもしれない」
「……」
理奈は、顔を赤らめてそう言った。
「……! 私ってば、何を!?」
「いや、別に否定すべきものじゃないだろ。誰かを好きになることは、悪いことじゃない」
「……」
「俺は嬉しいよ。理奈がそう言ってくれて」
「本当に? でも、私はこの気持ちをどう表現したらいいの?」
そう言う理奈の顔は、今までに増して可愛かった。
「付き合う?」
俺は今彼女がいる。しかも二人も。にもかかわらず、その可愛さに魅かれてしまった。
「それは、いわゆる『彼女』になると言うもの? 『でーと』とかいうのをする?」
「それじゃ、だめ?」
「それでいいのかな。私にはよくわからない。とりあえず、ここで話すのも気が引けるから私の家に来てもらえる?」
「理奈の家!?」
「だめ?」
「いや、全然いい……というかむしろ嬉しいというか何と言うか……」
「とにかく、いいの?」
「うん」
携帯から家族に遅くなると連絡を入れた。そうして、理奈の家へ向かった。
「ここ、理奈の部屋?」
「うん。今は両親はいないから、叫んでも問題ない」
「いや別に叫ばないけど(笑)」
「……それで、拓海君は私の彼女になってくれるの?」
「いいよ。じゃあさっそくだけど、今週の休み……じゃなくて、えーと、来週かな。二人で出かけない?」
三人目を掴んでしまった。しかも、デートの約束まで結んだ。これはヤバい。だが今更引けない。
「どこへ?」
「どこでもいいよ。理奈が行きたい場所で。特にないなら、俺がいくつか候補を出すけど……」
「……そう。付き合ってる二人は、そうやって出かけるものなの? さっきも少し言ったけど、私そういうの全然知らない。だから……」
「そうだな。まあ一緒にお出かけするっていうのは、定番だよ。分からないことがあったら、その都度教えるから心配しないで」
「ありがとう。でもそれは、なんのためにするの?」
「なんのため? そりゃー、一緒に同じ所に行って同じものを見ることで、関係が深まるというかなんというか」
「なるほど、関係を深めることが目的……」
「そうだよ。確かに、今はイメージが湧かないかもしれないけど、やってみたら楽しいよ」
「拓海君はそういうのをしたことあるの?」
まずい。俺が他の人間と付き合っていることが悟られる。何とか誤魔化さなければ。
「そりゃ、俺だって初めてだよ。全部知ってるわけじゃない。だから、二人で頑張って行こう!」
「わかった。拓海君がそこまで言うのなら。でも、私はやっぱり、好きな者同士というのは、こういうことをするものだと思う」
そう言って、理奈は白衣を脱ぎ始めた。
「……?」
続けて、その下にある制服も脱ぎ始めた。
「ちょちょちょちょちょ!! 何してるの!?」
「やっぱり生物の本能に従うのが一番かと」
「ふぇ!? 何言ってんの!? 一体何をするつもり!?」
「交尾」
「それはやめて!! 年齢制限かかるから止めて!!」
「何を言っているの??」
カッッッッット!!
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「データとして分かってはいたけど、やっぱり痛いんだ」
「すまない。暴走しすぎた」
「いいよ。快感もあったから」
こうして俺は、ブラックコーヒーをさらに黒く染めていった。
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