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その娘を観察することにした

 私はベッドですやすやと眠っている、その娘をよく観察することにした。


 かなり以前だが、ロンドンで出会った高名な探偵が「すべては観察だよ」と言っていたのを思い出した。彼に言わせると、観察こそが真実にたどり着く最善の方法なのだ。


 髪の毛は黒くて艶がある。長さは肩にかかる程度で、前髪は下ろしているがやや短めにカットしている。

 顔立ちはかなり整っている。目を閉じているのではっきりとはわからないが、東洋人と西洋人のハーフかもしれない。


 しかしそれよりも問題なのは、顔立ちと体形から察するに、この娘は思っていたよりかなり若いようなのだ。

 まず間違いなくティーンエージャーである。もしかするとミドルティーンかもしれない。

 まさかローティーンということは・・・?


 若い娘というより完全に少女である。

 まさか、私はこの少女と不適切な関係を持ったのではあるまいか?


 世間では私たち一族はどうやら性的に不能であると思われている節がある。

 それはおそらくゴシックホラー映画などで、私たちの吸血行為があたかも性交渉の代替行為であるかのように描かれたせいではないかと疑っているのだが、馬鹿にしないでもらいたい。私たちにだって食欲と性欲の区別はちゃんとあるのだ。


 これは私の能力のひとつでもあるのだが、人間の女性を強く惹きつける魅力がある。本来その能力は捕食のために備わったものであるが、当然私だって美しい女性に出会えば恋に落ちることもあるし、性的な関係になることだって少なくはない。


 しかし、それにしてもこの少女はマズい。いくらなんでも若すぎる。

 もし私が彼女と関係を持ったのであれば、それは倫理的に許されることではない。

 かつては悪の化身みたいに恐れられた私が倫理を語るのも滑稽ではあるが、私にだって社会的な立場というものがあるのだ。


 しかしただ狼狽えていても仕方ないので、観察を続けることにしよう。


 この少女は寝間着などに着替えてはいない。どうやら普段着のまま眠りに落ちたようだ。

 トップには鮮やかなピンク地に安っぽいラメ入りのロゴが描かれた、タイトなラインのTシャツを着ている。ボトムは短くカットオフされたデニム生地のホットパンツを履いている。


 ここで私は少し安堵した。

 彼女はしっかり衣服を着用しているし、私もタイから取り寄せたジム・トンプソンの生地で仕立てたシルクのパジャマをちゃんと着ているし乱れも無い。

おそらくこの少女とは不適切な関係を結んではいないはずだ。


 Tシャツとホットパンツから伸びている手足は細くて長い。全体に痩せていて胸のふくらみもあまり大きくはないが、これは年齢的にまだ未熟なせいかもしれない。


 ここまで観察してはっきりとわかったことがある。

 ひとつは私はこの少女を観察しているうちに、とても暖かい気持ちになっていることだ。

 つまり、私はこの少女に確かに愛情を持っている。


 もうひとつは、それにもかかわらず私はこの少女に対して性的な衝動をまったく持っていないことである。


 このふたつの事実から導き出される少女の正体はひとつしかない。


 彼女は私の娘である。


 ええと、私の娘の名は・・アニータ、ローラ、ナターシャ、スージー、メイリン・・いや、彼女たちじゃ年齢が合わない。もっと近年の日本の記憶を思い出さねば。


「名前は美羽ミウだよ、パパ」


 ぱっちりと目を開けて、私の娘がそう言った。

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