第二話 決意の光と失意の闇
高台から見下ろすエンシェントジュエルの街並み――宝石のように煌めく屋根、透明感のある石造りの塔。
それらが整然と並び、まるで地底の海に浮かぶ光の島々のように、静かに光景を包み込んでいた。
その中心に堂々とそびえる宝石城――アリヴィアは深呼吸し、石段を踏みしめながら城門をくぐる。
城内は落ち着いた活気で満ちていた。
光が差し込む大広間の床は淡い瑠璃色に輝き、規則的に並んだ柱の間を柔らかな日差しが縫うように流れている。
ここには鉱山の張りつめた静けさとは異なる温度があった。
中央からシフォンに派遣されたばかりのアリヴィアはジュエルソウルを監視する任務を受け、初めてこの地を訪れた。
前任者の退任と時期が重なり、偶然にもその役を担うことになったものの、彼女の力が求められていたこともまた事実だった。
案内役のミスティアは、軽やかな歩みを維持しつつ、視線の端でアリヴィアを確かめるように振り返る。
柔らかい髪の光沢や肩の傾きまでも、アリヴィアは逃さず観察する。
(守るべきものがある……家族、都市、そしてこの光景。私とは違う世界に生きている――)
大広間を抜けた先、城の奥に広がる居住区。
窓から差し込む光は淡い宝石色に反射し、壁や床に温かい色彩の輪を描く。
穏やかな陽だまりに響く笑い声、食卓の準備、ささやかな声のやり取り。
この街の至るところすべて、どれもが『守られた温かさ』を示していた。
その光景に、アリヴィアの心は締めつけられるように重くなった。
家族を失い、命を脅かされたあの日。赤い悪魔の襲撃。奪われた日常。
死を待つだけの孤独と恐怖――『凍りついた時間』が胸の奥で疼いた。
(……私の世界とは、まるで違う……)
ミスティアの所作や気配からは、都市と家族を守る責任が自然に現れていた。
アリヴィアはそれを認めながらも、内心で少しの嫉妬にも似た感情を抱く。
失われた日常を思い出すたび、胸の奥に鋭い痛みが走った。
それでも、表情を変えず歩みを進めるアリヴィア。
互いに存在を手探りで確認しながら、二人は静かに城内を進む。
微細な視線や仕草、光に揺れる髪や衣の陰影を通して互いの性格や心情を読み取り、沈黙の中で理解の糸を紡ぐ。
鉱山での出会いの余韻と、宝石の光に満ちた城内での価値観の差――二つの世界を隔てる空気の中で、アリヴィアは冷静に、慎重に、目の前の少女と光景を見つめ続けた。
胸の奥で微かに疼く不安。消えることのない過去の影。
アリヴィアは自身の意思を鋭く研ぎ澄ませ、光と闇が交差するその空間で静かに決意を固めていった。