第五話 決意と旅立ち
ここまでで第一章が終わります。
後書きに『物語の始まり(第五話まで)』を詠った詩を掲載しています。
孤独の静寂と暗闇に包まれた村は視界も悪く、その様子を探るのも困難だった。
戦いを終えた私は、村の捜索を断念。
私達の家の辺りに戻ると、そこにあったはずのものは全て跡形もなく燃え尽きていて何も残ってはいなかった。
狩りの日には外出しない母さんが灰となってしまっていることは明白だった。村に生存者がいないことも気配からして明らか――。
……せめて皆のお墓だけでも建てて弔いたい。
でも、小さな村とはいえ全員分のお墓を建てるのも困難。
目の前の現状に出来ることもほとんどない。
そして、私が下した決断は――この村がこれ以上荒されないようにすること。
私は魔法で集落ごと消し去ることにした。
そして、ここでの出来事全てを終わらせた――。
その後、私は休憩を取り、感慨にふけっていた。
この村の最期を見届けた夜、冷たい雪が肌に残る感覚だけが私に生きた心地を教えてくれていた。
でも、それも、もう……終わり。
「そろそろ、出発しよう……」
幸い、小さな頃から働いてきた私は生計を立てる術を知っている。だから、きっと何とかなるはず。
行く宛はない。それでも先ずはこの国の首都に村の消滅の届け出をしに行ってみるつもり。
子供の私でも首都で話を取り合って貰えるだろうか。考えても仕方ない。
ついでに、私の非居住推奨区域での生活許可の継続申請もしないといけない。
首都の街並みを見てみたいって思っているのが本音かもしれない。
時間はたっぷりある。焦らずに考えてみよう。
非居住地域は、私たちの村のように国から許可を取得して俗世を離れて自然と暮らす人々や、居住区域で犯罪を犯すなどしてそこに居られなくなった人たちが生活する場所。
国から許可を得ている人たちは罪人ではないから、本人が望みさえすれば、どの居住区域での暮らしも認められるだろう。
「リアン、アリヴィア、行こうか」
この子達とは、二人が大きくなったら、星砂糖の森へ一緒に行くと約束していた。
その夢を叶えたかった私の想いもあって、二人だけは特別に約束の地で眠りながら私を見守って貰うことにした。
「ちょっと狭いけど我慢してね。少しの間だけだから、いつものように二人で良い子にしていてね」
私は、綺麗に拭いてあげた二人を運搬用魔具に入れて一緒に村を出た。
返事があるはずもなかったけれど、二人がいつものように『大丈夫だよ』っていってくれたような気がしていた。
「とっておきの場所にいくからね――」
雪が舞う凍えるような寒さの闇夜に、私達は星砂糖の森の奥地へと向かって歩き出して行った。
村の襲撃から丸一日。
私達は薄暗い森の奥にある小さな碧色の綺麗な泉の畔に美しい花々が咲き乱れる絶景の場所に辿り着いた。
桃猪狩りの時には必ず立ち寄っている私のお気に入りの場所。
「二人ともありがとね……」
この子達は最期まで私を信じて運命に抗った。
そして、それは叶うことなく儚く散ってしまった。
そう思うと、少しだけ切ない気持ちもする。
「これから……、どうしようかな。私、独りぼっちになっちゃったね」
二人が描いた夢は終わってしまった。
――でも、私の物語はまだ続いている。
「夢……。そうだね。リアンもアリヴィアも、運命に立ち向かったんだよね」
そう、だよね。
例えどんな結末を迎えたとしても構わない。
答えはすぐ目の前にあったんだ。
私も、二人みたいに信念を貫いて、最期まで運命に抗えばいい。
私が力の代償に対価として支払わされた夢。私が失ってしまった私の憧れ――。
私は、運命だからと、ありのままの現実を受け入れたまま抗うことをしなかった。
躊躇い、迷い、中途半端にしながら『夢』に憧れを抱いて過ごしてきた。
でもそれは、私の甘えに過ぎない。
私にほんの少し勇気があれば、いつだって運命に抗えたはずだから。
こんなに小さくても、この子達は最期まで勇猛果敢に運命に立ち向かってみせた。
「リアン、アリヴィア――。私も、運命に立ち向かってみせる」
二人は私の誇りだ。
出逢えて本当に良かった。
翌日の朝、私は二人のお墓の前でお別れの挨拶をしていた。
「またくるね。二人一緒だから寂しくないかな?」
二人には、永遠の眠りの世界でだけは寂しい想いをさせたくなかった。
いつかは私も辿り着く世界。けれど今は違う。
だから今は、二人が幸せであって欲しいと願うしかない。
私は暫く二人に想いを語り、運命に抗うことを誓った。
――時間が流れて、新たな決意を胸に私は旅立ちの刻を迎える。
始まりの鐘が鳴らされた。
私は今、走り出したばかり。ゴールなんてないかもしれない。
それでも、どんな試練が待ち構えていようとも、立ち止まらずに進み続ける。
例え心が折れても、例え世界が明日終わっても、絶対に負けない。
絶対に諦めない。
最期まで立ち向かってみせる――。
「じゃぁ、行くね」
二人にさよならを告げ、私は、最初の一歩を踏み出す。
薄暗い森には、美しい光の華が咲き乱れていた。
その淡い黄金色の花びらが風に舞い散っては煌めいている。
冷たい突風が吹く度に、野に咲く花々が揺れ、木々の葉もざわめいていた。
それは、二人の代わりに森が届けてくれた餞に違いない。
この世界には、謎が満ち溢れている。
誰もが解き明かすことのできないであろう謎に。
そして、それが何よりも私にとっての大きな希望だ。
この世界は、私が思っているより酷くないのかもしれない。
さぁ、始めよう。
私の、新たな物語を――。
瞬く星 蒼い月 空に舞う風の花
瞳の奥で儚く揺れる 涙で歪んだ世界
果てしなく遠い 遥か時の彼方
星の奏でた旋律 空に音は響かない
静寂の暗闇に 祈りは届いた
いつか交わした約束 君と立てた誓い
運命に抗い 手にした希望の欠片
先が見えない絶望 だけどもう諦めない