第四十八話 古の魔導石職人
エンシェント・ジュエルに戻った私達一行は、直ぐに宝石城のシドのもとを訪れ、ジュエルソウルの討伐成果と新たな脅威を報告。討伐で得た真氷蒼石と、ルインが収集したジュエルソウルの分析結果を踏まえ、今後の対応について話し合った。その結果、しばらくこの街に滞在することが決まる。
持ち帰った真氷蒼石は未加工であり、魔力伝導率を高めるには職人の技が必要。ルインの収集物についても解析に時間がかかるとのことだ。さらに、長旅と戦闘の疲れが全員に蓄積していることも重なり、七日間ほどの休養も取る運びとなった。
幸い、滞在場所の心配はない。アリヴィアやミスティアのおかげで、城内の客間を宿として利用できることになっていた。王族の客人として、食事や衣服の洗濯まで配慮され、私たちは十分に快適な環境で過ごせる。
休養の間、『少なくともこの街でしかできないことをしよう』と各々で行動すると決めた私達。
私とお姉ちゃんは、まず真氷蒼石の加工を依頼するため、魔導石職人のもとを訪れる計画を立てた。アリヴィアはジュエルソウルの分析が終わり次第、別行動を取る予定だという。
翌朝、私とお姉ちゃんはミスティアから教えてもらった職人の店へ早速向かうことにした。彩り豊かな宝石で飾られた街並みを歩くひとときは、この上なく心地好い。
「ララちゃん、ここだね。着いたね!」
「うん。この伝統と趣を感じる空気感……」
目の前に立つ建物は、歴史と風格を感じさせる佇まいだった。緊張感を抑えながら深呼吸をする私は、未知への期待に胸を膨らませる姉ちゃんと一緒に、店の中へ入ろうと歩みを進める。
石造りの建物に設置された魔力扉は、青く輝く魔導スイッチで開閉する仕組みとなっていた。手をかざすと扉が静かに開き、広がるのは工房と煌びやかな宝石達が並ぶ棚。夢のような光景が私たちを迎えてくれた。
「うわぁ、キラキラしてて魔力が満ちててワクワクするね! ララちゃん、私、しばらくここに住んでいい? ねぇ一緒に住んじゃおう!!」
「えと……。それは、目の前にいる店主に聞いてみたらどうかな?」
「い、いつの間に!?」
興奮気味のお姉ちゃんは、職人が目の前に立っていることに気づいていなかったみたい。お姉ちゃんの慌てる様子に、職人は優しい微笑みを浮かべていた。
「お嬢さん方が、姫さんが話していたラクラスとメルトだな。オレがこの店の主、ヤマ・ジンだ。ジンと呼んでくれ」
職人服に身を包んだ中年の男性は、柔らかな雰囲気を持つ穏やかな人物だった。私達は自己紹介をした後、持参した真氷蒼石の加工を依頼した。
「事情は聞いているし、お代も姫さんから預かっている。後は安心してオレに任せて欲しい!」
「ありがとう、ジン。お願いするね」と、私。
ジンは宝石加工の手順について簡単に説明した後、私達の腕に着けていたお揃いのブレスレット型の魔導通話機にふと目を向けた。
「メルト、その腕につけている魔導通話機だが……、通信傍受を防ぐ機能と、音声の乱れを抑える機能が弱いな」
「そうなんだ。確かに音声が良くないことは多いかな?」
「ならついでにメンテナンスしておこう。それと、追加の代金は要らんよ」
「え、いいの?」
「いいさ。姫さんが友人と呼ぶような娘達だ。それに、ふたりの仲の良さを見ていると、オレと嫁の若い頃を思い出すからな。あ、勿論、今も嫁とはとっても仲が良いぞ」
「ありがとう!」
ジンは、魔導石の加工だけでなく、魔導具技師としての腕前も超一流だった。そして、何よりもその人柄にはとても感服させられた。
ミスティアから『古からの技術を受け継ぐ職人』と聞いていたことについても、実際に会ってみてその言葉の意味を理解した。
「ラクラス、何か他に質問はあるか?」
私は、以前から考えていた魔導通話機の改良案について相談することにした。
「ジン、この魔導通話機に新しい機能を持たせることはできないかな?」
「新しい機能? 具体的には?」
「大きな容量を必要とする魔導通信機の機能の一部を魔導通話機でも利用できないかなって。魔導通信機の技術が応用された魔導通話機なら理屈としては可能じゃないかと思ったから」
「原理的には可能だが、技術と素材が足りない。だが、その発想はいい。将来、実現できる日が来るかもしれないな。なぜそんなことを聞いたんだ?」
「私には、魔導研究者になりたいという夢がある。導力、魔導石、魔石等の多くの知識と専門的な技術を身に付けて、生活を豊かにする魔道具や機械の設計や開発に携わりたい。この世界で暮らす人々の為になることをしたい。沢山の人に夢や希望、感動を届けたい」
「そりゃぁいいな。夢が叶うようにオレも応援するからな」
「ありがとう!」
「オレのとこでいいならいつでも頼ってくれ。姫さんも遠方からの友人の来訪にきっと喜ぶに違いない。まぁ、なんだその、孫娘達が来てくれたみたいでオレも嬉しいし。だから、また皆で元気な姿を見せに来て欲しい。約束だからな」
ジンとの交流を通じて、私は夢の実現に向けて新たな希望を得た。
真氷蒼石の加工が完了する夕方まで、私達は町の観光を楽しむことにした。煌めく街を巡るなか、未来への一歩を踏み出す気持ちが高まっていく。
やがて宝石街の灯りが夜空に溶け込んでいく頃、私達はまた新たな物語を紡ぐ準備を整えていた。この町で得た絆と希望が、未来を照らす大切な光になると信じて――。