第三十七話 終わらない過去
本題に移る直前にベリーが苺の紅茶を運んできた。
調度良い頃合いだと満場一致で一旦休憩を入れることとなった。
ベリーが淹れてくれた温かな苺の紅茶は格別。
お姉ちゃんが淹れてくれるココアとどっちが美味いかは甲乙つけがたい。
「これ、美味しい。お父さんに言って、メルティにもおいてもらいたいな」
「そうか、気に入ってくれたか。私の一番のお気に入りだからな。欲しいならメルトになら仕入れ先への口利きをしてやっても良いぞ」
「わぁ、ス~ちゃんありがとう。嬉しい」
類は友を呼ぶ。もうすっかり仲良しな二人。
ちょっと妬けるな……。
「それで、そんな話をしている場合ではないでしょ?」
あ、いけない。強い口調になっていたかも……。
「って。おい、ララ。お前なんかあったか? 少し怖いぞ」
えと……。気を付けよう。
「何もない……」
「わーったよ。そういうことにしとく。ったく……」
「おぉ、我が妹よ。妬くでない」
さ、さすがお姉ちゃんだ。バレてる。
「紅茶が冷めましたらまたお申し付けください」
「ベリーちゃん、何回でもお願いしちゃう」
「おいメルト、お前ベリーが可愛いから言ってるだろそれ」
ベリーも確かに可愛い。
小柄で華奢にみえるけど、私よりもふくよか……。
どうして私の周りはこんなにも可愛いにあふれているのか。
嬉しいけど複雑。
「だってだって。超可愛いし。栗色ショートの髪にゴシックのカチューシャ、白いお肌に薄紅ほっぺ……。ぷにぷにだ」
いつの間にか自然にベリーをべたべた触っているお姉ちゃん。
その気持ちは分からなくないけど……。
「メルトさんダメですって……」
『ダメ』と言いながらも、満更でもないベリー。
その仕草にも、なんというかぐっとくるものが……。
って違う違う。本題本題……。
「……そろそろよいか」
ストロー博士達との距離も近くなった頃合い。
博士が正しい方向に話の舵を切った。
驚いたのは、その時のストロー博士の口調。
それはもう、まるで別人。何重にも封印された殺意が漏れ出したような怖い声。
暗く、重たく、そして、とても冷たいものだった……。
「うん……。お願い」
「ラクラス、お主が纏う死の祝福。神の寵愛は重たいな」
「どういう……こと?」
いきなりそんなこと言われても意味が分からない。
「お主らは、リュミエールとトレゾル。このミルフィーユ国でその言葉が何を意味するか分かるか?」
誰一人首を縦に振らない。
張り詰めた緊張感。誰もがただただ黙ったままストロー博士の方を見ている。
その重たい空気のなか、口を開いたのはお姉ちゃん。
「多分、誰も知らない。知っているのは、リュミちゃんが悪い子じゃないってことだけ」
「そうか……。リュミエールとは『光』を指す言葉。トレゾルとは『宝物』を意味する」
名前に込められた想い。どんなご両親だったのだろう……。
ストロー博士が話を続ける。
「……。ふぅ……。端的に話そうか。二人は『レイ・スロスト』の子供達だ」
う、うそ? そんなことって……。