第三十五話 紐解かれる謎
私の初撃は魔人に直撃……、したはずだった。
なのに、刃は魔人の体を擦り抜けただけ。
物理、魔力、空間断絶の力を持ってしてもダメージになっていない。
「どうして?」
『なんでだと思う?』
「ララちゃん、ほっぺから血が……」
「痛ッ……」
「ララが簡単に傷付けられるなんて……」
『ララお姉ちゃん。お姉ちゃんの力はそんなもの? がーっかり!』
魔人が私にそう言った直後、私の痛覚が狂ったように悲鳴をあげる。
体が壊れてしまうのではないかと思う激痛に私は膝を着く。
「うぅぅあぁぁあぁあ……」
「おい、ララ」
私と同じ闇属性のニアは、支援も攻撃も行えていない。
お姉ちゃんは……。冷静に詠唱。次の瞬間。
「……詩詠、回復・支援。メルト!」
お姉ちゃんが苦痛で藻掻く私に詩を贈る。
……ああ。ふわふわに溶けていく。体が軽い。痛みがない……。
お姉ちゃんが、回復と支援で私を救ってくれた。
「お姉ちゃん、ありがとう」
「どこかの黒いのより、よっぽど役に立つからね!」
こんな時までニアを意識しているのは、お姉ちゃんらしい。
それにしても、危なかった。大きな魔力反応を隠していない魔人。
なのに、攻撃に気配がなかった。というか、何をされたかも一瞬すぎてわからなかった……。
「ちッ。イッてやがれ。今回の私の出番はせいぜい護りの強化くらいだろ」
……そもそも、瘴気の森に入って早々から思っていた違和感。
なぜ、お姉ちゃんだけいつも通りなんだろう?
同化。霧。風……。
そういうことか。
この瘴気は触れたものを侵食。その記憶や、力を具現化する力。
それを利用している魔人。
風の力を宿すお姉ちゃんの場合、体に纏う風で瘴気に侵食されないということ。
そして、この大気を司る力で瘴気を再び浄化することができればきっと……。
「これは勘だけど、風の力が突破口になるかもしれない。お姉ちゃん、魔人の周りの瘴気だけ払えるかな?」
「任せておいて!」
「私の推測が正しければ……」
お姉ちゃんが風の力を魔人に向ける。
私もそれに合わせてもう一度斬撃。
「氷華」
さらに、氷の魔法で追撃……。
『お~。お見事! 少しビックリ。でもね、まだまだ。足りないなぁ』
無理、だったかな……?
「どうしたら。ララ、メルト。なんか手はないのか」
「黒いの、しっかりしろ。今ので気付くだろ普通」
魔人は斬撃を魔力防壁と防御結界で弾き、魔法を魔力で相殺した。
そこに活路を見出せたことをお姉ちゃんはニアに言いたいに違いない。
魔人は回避行動をとった。この事実に答えがあるのだから。
とはいえ、さすが上位種。一筋縄ではいかない。
私の攻撃に合わせて気配を感じさせない反撃までしている。
おかげで私も手足に軽い怪我を負わされた。
「ようやく見えた突破口。私たちはこんなところで負けない」
『せ~っかく、私を倒すチャンスだったかもしれないのに。手を抜いてたね、ララお姉~ちゃん』
正体不明の敵を最初から全力で仕留めにいくほど、私は無謀じゃない。
だけどもう、終焉はみえた。次の一撃で必ず仕留める――。
魔人の初撃は堪えたものの、アリヴィアのあの重たい攻撃に比べたら圧倒的に足りない。
「チャンスではあったね……。この戦いで、私は貴方と刃も魔法もほとんど交えていない。貴方から受けた一撃は堪えた。初めて見た魔人に驚きもした。それでも、所詮はこんなもの。終わりにしてあげる」
さようなら……。幸せになれなかった姉弟の想いごと、私が断ち切る!
『できもしな……』
魔人は何か言いかけていた。だけど、もはや私の耳には届いていない。
「終焉を刻む刃を……。ごめんね……」
手応えはあった。
周辺に綺麗な光彩が散りばめられたことで戦いの終わりを確認。
魔人の消滅と共に瘴気も消え去っていく。
後味の悪い結末。情報のひとつも得られていない……。
なぜ、魔人単体でここにいたのか。
いろいろと分からないことばかり。
「ララちゃん。終わったね。ちょっと危なかった。リュミちゃんの心が瘴気に溶け込んでいて良かったね」
えと……、なんのことだろ? なんて思っていたら、不思議な声が耳に入ってきた。
……お姉ちゃんたちありがとう。
……やっと、ゆっくり眠れる。この地方には……。
ここで声は途切れ、赤い宝石が目の前に現れた。
そして、私たちの前でまるで連れて行ってといわんがばかりに瞬く。
私はその宝石を手に取ったあと大事に胸の辺りに抱えて、周囲にこう問いかける。
『待って。貴方は一体?』と……。
私の声はもはや届くことはなかった。
お姉ちゃんの謎の行動も知りたい。
でも、今はとてもそんな気持ちにはなれない……。
その後、アリヴィアから依頼を受けた親書をシャルロットのコルベットに届けた私たちは、その場で同時にシャルロット街道で起こった不思議な出来事の報告も行った。
そして、本件のアリヴィアへの報告を彼に委ね、シャルロットを発った。
それからしばらく経ち――。
私たちは、いよいよティラミスに足を踏み入れようとしていた。
今回で、第一章は終了です。
次回より、第二章「科学研究都市ティラミス」が開始となります。
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