第三十四話 未知なるもの
「う……そ……」
それは、まばたきをする間も許されない一瞬の出来事。
空間が裂け、裂けた空間が硝子片のように飛び散り、やがて異界の門が開かれる。
目の前に現れたのは、リュミエールの顔をした赤い瞳の人型魔族、『魔人』。
気配もなく現れたこの魔人がこれまでの奇妙な出来事の元凶。
魔族故に、人が織り成す全てを違和感なく再現出来なかったのかもしれない。
これで合点がいくというもの。
姿を現した目の前の『それ』は、もはや気配を隠すことをしなくなった。
いつの間にか建物は消え去り、ここで最初に見た廃墟が現れている。
この状態がミストヘイズの現在の真の姿に違いない。
心なしか、瘴気も薄くなっているような気もする。
そんなことよりも、目の前の魔人。
この気配は危険。
相手の実力は未知数。
魔人から感じとれる気配が実力相応のものなら、私なら何とかできるかもしれない。
いまの時点で、ニアとお姉ちゃんでは正直荷が重い……。
(おい……、ララ。大丈夫か? コイツはヤバイ……な)
「ララちゃん……」
「うん……」
『えへへ。愚かな人間と闇精霊さん。余興は楽しめた?』
魔人の声は先程までここに居たリュミエールの声そのもの。
なのに、声から伝わる雰囲気は別人。
凍てつくような冷たさを発している。
「貴方の目的は何? 何でこんなところに魔族の上位種がいるの?」
『お姉ちゃんたちにお話する理由なんてないよ』
(私が時間を作るからお姉ちゃんとニアは逃げて。魔人は私も初めての敵。気配だけでも危険なことは二人とも気付いているはず)
……私の思念通話なら同化に対抗できるかもしれない。できなければその時。
二人は、私の意図を察して、ただ頷いただけ。これなら……。
『お好きにどうぞ。逃げられるならね。ああ、久しぶりに遊んでもらえる』
「念話が聞かれている……。同化には敵わないみたいだね……。仕方がない」
この魔人は、リュミエールを素体にしているとしか思えない。
仕草、言葉遣い、見た目。
魔人がもともとはどんな姿をしていたかという想像は難しい。
一体何の意図があってこんな酷いことを……。
「ララ、どうすんだ?」
「あの子を倒すだけのこと」
『嬉しい……。遊んでくれるんだね。お姉ちゃんたちだ~いすき』
リュミエールの姿をした魔人は、今にも襲ってきそうな様子。
「最初から本気でいくね。どんな危険があるか分からないから……。二人は支援を」
『もう……、お話は済んだかな? 誰から遊んでくれるの?』
瞬時に力を開放した私。
間髪入れずに魔力鎌『月下夢幻』で先制の一撃を放つ。
……と、私から仕掛けたのがこの戦いの幕開け。




