第三十三話 ミストヘイズ
シャルロット街道から森に入って三時間ほど。
何度か魔物の襲撃に遭いながら辿り着いた目的地。
獣道を抜けたその先に待っていたのは瓦礫の集落。
その姿に言葉を失った。
リュミエールに案内された集落には街灯一つ灯っていない。
人々が暮らしているとは到底思えない。
人が往来していたと思われる道にも草が伸び放題。
まだ人が住めそうな建物にも生体反応もない。
集落……というよりも『廃墟』。第一印象は、正にそれだった。
深い霧が闇夜に溶け込み、不気味な雰囲気を醸し出している――。
ひと気の無い静かな廃墟。
私達の足音の他には獣か魔物か分からない薄気味悪い鳴き声だけが時々聞こえて来る。
うーん……。魔力が上手く探知できない。この深い霧のせい? 或いは他の何か……。
想像しても私には答えが見出せなかった。
暫くして、リュミエールの足が止まる。
「着いたよ……。私の家……」
「お邪魔、するね」
「邪魔するぞ!」
「黒いのが邪魔……。こほん。お邪魔します~」
「おい、メルト。こんな時にまで……」
相変わらず、お姉ちゃんとニアには緊張感すらない。
「どうぞ……」
リュミエールはそんな二人にはお構いなし。
このガタガタパーティはある意味バランスが取れているような……??
(おい、メルトにララ。リュミエールはここで本当に暮らしているのか? 部屋は荒れ放題。炊事、洗濯、掃除どれひとつされている感じがしねぇぞ)
まさしく正論。狐にでも化かされている気分。
皆が思っていたことをニアが思念で言葉にした。
ことはそれだけでは収まらない。
全員が正確な状況の把握ができていない中、ニアの思念通話に反応したかのようにリュミエールが、
「気になる?」
なんて一言を間髪入れずに発したものだから、ニアも、『へ!? 何のことだ?』と、驚き、慌てふためいていた。
さらにお姉ちゃんが続く。
「おい、ニア。失礼なことを言うな。そりゃぁ、私もそう思ったけど……。リュミちゃんごめんね」
この異常さを気にも留めていない様子のお姉ちゃん。
無茶苦茶な展開になっている。
問題はそこではなく……、ニアの思念通話を読み取ったかのようなリュミエールの言動。それが現実だったこと。
お姉ちゃんの謝罪を気に留めることもなく、リュミエールも話を続ける。
「教えてあげる……。これは『同化』の魔法……」
「同化……? どんな魔法……?」
思わず私も疑問を口にしてしまったものの、その謎は時間もかからずに解き明かされることになる。
リュミエールが突然突拍子もないことをやってのけたからだ。
「この家も、集落も、みんなみんな、み~んな、まやかし…………。」
淡々とした口調でリュミエールがそう告げたかと思うと、リュミエールにいきなり襲われた時みたく、気配を感じさせないまま『それ』が起こった。
「え……?? …………な、に、これ……?」
そう答えたことが私の精一杯の反応……。
他の皆も言葉を失い、ただただ唖然としていた。
このことが目の前の異常さを如実に物語っていたのだった……。