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夢幻の少女ラクラス  作者: 明帆
第一部 夢探し編 - 第六章 対極の二人
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第二十七話 金色対白銀

「おい、ララ。気を付けろ。これは尋常じゃないぞ。ヤバイなんてもんじゃねぇ」


 私とアリヴィアの再会を黙って見守っていたニアが私に警告する。


「仮想空間展開……」

「結界!?」

「安心して。今日お姉ちゃんがここに来ることを中央は知らない。私は休暇扱いとなっている」


「何の真似?」

「答える必要はない。それより、私に壊されないように必死で抗った方がいい。結果は変わらないけれど……」


 話は通じそうにない。一体アリヴィアに何があったのだろう。


 私を殺すつもりではないということだけは分かる。と、すれば精神操作か記憶操作か。

 そういった類の魔法で私の心を壊そうとしているとか……。


 って、そんな余裕はなさそうだ。完璧なまでに乱れがないアリヴィアの魔力の流れが不気味さを漂わせている。


 本能が危険だと訴えている。既にこの世の終わりが始まる予兆を示している。

 紛れもない本物の覇者が放つ()()()がこの場を支配している。


(いざとなったらニアだけでも逃げて……)

(おい、そんなことできるわけないだろ!)


 次元が違う。今までに超えてきた死線がちっぽけに霞む位圧倒的な支配が眼前に広がっている。


「私にはアリヴィアと戦う理由がない」

「怖いの? 大丈夫。直ぐに終わらせてあげる」


「どうしても戦うしかないの? 話せば分かることもあるはず」

「それができたなら、私だって――」


 もう、覚悟を決めるしかない。


「どっちにしたって私がアリヴィアに勝つしか前に進む道がないというのなら、私はそれを現実にする。もし、大切な人と戦うしか道がないとするなら、その先にある呪いの運命さえ壊してみせる」


「この結界はどちらかが戦闘不能にならない限り解除できない。私の力にも耐えうる強度を誇るもの。戦いは避けられない」


「アリヴィア。私はこんなやり方はどうしても受け入れることはできない。それだけは忘れないで」

「言葉を交わすのは終わり。あとは力と力で語り合いましょう」


「魔力解放……。月華夢幻(ゲッカムゲン)……」


 私は、仕方なく鎌を構え、重たい気持ちでアリヴィアに対峙する。


不死滅楽剣(フシメツラクケン)……」


 アリヴィアの手にも白い刀身の剣が握られる。対して彼女(アリヴィア)は私とは真逆に表情ひとつ変えず、一糸乱れず身構えている。


 次の瞬間。刹那に交わす太刀。

 キィーーンッ! とお互いの武器がぶつかる音と共に戦いが始まる。


 最初の一太刀はほぼ互角……、ではない。

 アリヴィアの太刀は私の右の脇腹をえぐっていた。鋭い切り口からは赤い血が勢いよく噴出している。


「くっ……」


(ララ。大丈夫か。お互いの太刀筋が全く見えねぇ。すまん、あたしでは力になれない。無理だけはするんじゃねぇゾ!)


 私はとっさに患部に治癒の魔法をかけ、直ぐに応急処置を行う。


(うん。これは本当に危ないかも。ニア、ごめん。目の前の戦いに集中する。余裕がない)

(おぅ。集中を乱して悪かった。黙っておくが心配しているということを忘れるな)

(分かった。ありがとう)


「初手で実力差は分かったはず。大人しく沈んで欲しいな。抵抗しなければ苦しくしないから……」


「私は死を司る。生を司るアリヴィアとは対極の存在。だから対抗できる力を持っている」


「お姉ちゃんの力は、魂に救済を与えなければ恐怖でしかない。けれど、死は安らぎという快楽も与えてしまう。対して私の生の力は根源や自我が壊れようが生きる屍のまま安らぎさえ与えない……」


「快楽だけ与えて生かす方法だってあると思う。それが幸せだとは決して思わないけれど……」


「そうかもしれないね。私は、死の淵を彷徨う誰かを救うことはできても、その代償に永遠の安らぎを奪ってしまう。私は何度倒され、何度死を与えられてもそれを凌駕し、生き続ける力を持っている。死と生どちらが強いか、そんなの明白。無論、私を倒せる者が身近にいればの話」


 苦しみながら生き続ける屍にされるなんてとても残酷……。


 アリヴィアの二の太刀が振られる。太刀筋が見えない。感を頼りに鎌で捌くも空振り。

 無数の剣閃が私の胴を貫いてしまう。急所は意図的に外されている。


「……。全然、痛くなんてない。何度貫かれても私が生きている限り治して戦うだけ。剣術で劣るなら魔法はどう?」


「試して……みる?」


 アリヴィアの海色の瞳の冷たさが増す。凄い重圧……。

 吐き気と寒気で身体がおかしくなりそう。


「こちらから行かせてもらう! 罪の監獄の中で苦しみと悲しみの音色を奏でてもらう。ギルティ……プリズン」

「寛容な私ならこうする。罪なき世界、イノセント……ワールド」


 両者の対極の魔力がぶつかる。


 大勢は……。

 アリヴィアが圧倒。物理でも魔法でもアリヴィアの実力に及んでいない。


 どうしよう……。どうしたら……。本当にまずい……。


 次の瞬間、身体に鋭利な痛みが走る。


「痺れ……る」


 私が集中を欠いた一瞬の隙をアリヴィアは逃さない。


 アリヴィアの剣が私の太腿の中心に刺さり、アリヴィアがその剣を(エグ)りながら抜いていった。


「傷みがあるのは生きている証拠。これがもし心臓を貫いていたらお姉ちゃんは暗闇の中に堕ちてたね――。その方が楽だったかな?」


「私は永遠に止った時の中で安らぐより、痛くても、苦しくても、辛くても、ひと時の幸せを感じながら大切な人達と生きたい。まだ死ねない」


「これが私とお姉ちゃん二人だけの戦いでなければ、他の人達は私に生気を抜かれていたところ。自らの弱さで沢山の命が失なわれていたね」


「……………」


 正論だ。返す言葉がない。勝者は常に正しい。


 戦いは基礎能力の高さだけで決しない。基礎能力の差が大きな体勢差を着けるとしても、頭脳で勝っていたり、その力を使いこなす技量で勝っていたりすればそこから光明を見出すことは充分可能。


 だけど、彼女は全てにおいて一流。それもただの一流ではなく、『超』一流ときている。そんな彼女にどうしたら……。


「お姉ちゃん、残念だけど私を本気にさせるにはまだまだ遠すぎる。力と力で僅かにぶつかっただけでこれ以上戦いを続ける必要がないという結論に至ってしまった」


「これで……、手加減していた……の?」


 私の戦意を奪うための言葉なんかじゃない……。

 紛れもなく事実。戦ったものなら体で分かってしまう。


「これからお姉ちゃんの中の一部の記憶を封印する前に一つ教えてあげる。お姉ちゃんと私にこれだけ実力差があるように、中央にいけば私の力でも及ばない者もそれなりにいる。私の力でやっと上位にいけるかどうかの世界。こんな無益な戦いで大好きで大切なお姉ちゃんと戦いたくなんてなかった。でも、こうするしかなかった。ごめんね……」


 アリヴィア、貴方は一体何をいっているの?


「抗わずに私は負けはしない。もし、抗わない選択肢があるとすれば、それは私がアリヴィアの気持ちに納得して受け入れた時。私はアリヴィアのお姉ちゃんだから。だから、話して欲しい……」


(おい、ララ。奴にはそんなの届かねぇって!)

(いいの。ニア、それが私の想いであることに違いない。感じたことを胸の内にしまったままならきっと後悔する)

(…………)


「こんな私でも、まだ妹だって思ってくれるんだ――。眠りの中の夢を知らないお姉ちゃんから現実世界の夢まで奪おうとする私を恨んでくれてもいいんだよ。いっそのこと一思いに終わらせてあげる。お姉ちゃんと戦う機会は今回一度だけかもしれない。だからこそ、このたった一度限りの戦いで、お姉ちゃんに私の本気の技をぶつける!!」


「私は、どんな攻撃を受けようとも耐えきってみせる。何重にも苦しさを纏っているのに化粧でごまかして平静な顔をしているふりをする、そんなアリヴィアの姿なんてみたくない。だから、負けるわけにはいかない」


 次の瞬間。何が起こったか分からなかった。白い衝撃が辺り一面に広がり、疑似世界もろとも巨大な光が飲み込んでいった。


 それから私が支配する極寒の冷気を超える超極寒の鋭い無数の刃が私の体中を貫き体の自由が奪われた……。そして、アリヴィアがこう叫ぶのが聞こえた。


「――絶剣(ゼッケン)……、銀光臨終(ギンコウリンジュウ)


 ……と。


 私は、闇の加護を使用して全力で守りの体制を取り、氷の障壁と鎌の閃撃であらゆる攻撃に備えていたが、そんなものはお構いなし。アリヴィアの剣が魔力で生成した鎌の刀身さえ打ち砕き、全てを無に還してしまう。


 ああ……、負けちゃったな……。

 皆、ご……め…。


 薄れゆく意識の中、最後に一瞬見えたのは、ニアが必死に何かを叫んでいた姿。

 陽光に包まれ、暖かな世界に消えて行くのはとても気持ちがいい。

 アリヴィアがせめてもの手向けとして私にくれた愛なのかもしれない。


 さよなら――。

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― 新着の感想 ―
アリヴィアとの戦い。 彼女が何故戦いを挑んだのか。 その理由が非常に気になる。 にしても少しもの悲しさを感じる対話でしたね。
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