第二十四話 月亭再び
闇精霊達との一件後、半年振りにシャルロットに帰還。
相変わらず賑やかな第二の故郷に、私はようやく安堵の溜息をつくことができた。
「よぉ、遅かったな!」
と、月亭でお馴染み、粗暴な言葉で私を迎えたのは、エリオン……ではなく、褐色肌の少女。
ルシリアと同じ制服を身に纏った闇精霊の少女がそこには立っていた。
その姿に私は思わず言葉を失う。
「ニ……ア?」
「あら、ラクラス。お帰り。今回は留守が長かったから心配だったよ」
私がニアを確認するや否や、それと同じタイミングに私を見付けたルシリア。
ルシリアが少し興奮気味にこちらへ駆け付けてきた。
そして、その温かな両手で私の両手の手のひらを包んで、私を出迎えてくれたのだった。
「無事に戻ったよ。心配してくれてありがとう」
私は、穏やかに、そして、嬉しそうな声でルシリアにお礼を伝えた。
すると、安心した様子のルシリア。ほどなくして、彼女は落ち着きを取り戻した。
それはそうと、ルシリアと話す前に何かあったような……。
「おい、感動の再会ってヤツかもしれないが、あたしを忘れるな!」
「あ、あぁ、ニア」
そうだった……。すっかり忘れていた。それはいいとして? ニアも無事回復したみたいで何より。
「ちょっと、あ、あーって。何だその扱いは!」
と、ニア。
「おう、ラクラス」
今度こそ間違いない。この声を私が間違う訳がない。粗暴な言葉の主はエリオンだ。
お店が休憩時間ということもあり、エリオンも私を出迎えに来てくれた。
私は、そんなエリオンに対して、
「どちら様?」
と、いつも通り、冷たい素振りで口撃をする。
「ひでぇな。心配こそすれども、俺が何かしたか?」
「自分の胸に手を当てて考えてみて……」
……、ここで私とエリオンの目が合い、お互いに笑って、いつもの遣り取りは終了。
「冗談はともかく、本当に無事で何より。で、本題だが、その活きがいい姉ちゃんが、ラクラスの知り合いだって急にここに来てよ。俺も少し困ったんだが、まあ、悪い奴でもなさそうだし、ラクラスが戻るまで店にいてもらうことにしたって流れだ……」
「そうなんだ」
「ああ。まあ、あれだ。風貌から察するに、宿無しのような気もしてな。事情を聞いたら案の定だったわけさ。だからここに住み込んで働いてもらうことにした。無償で宿を借りられるばかりか、給料まで貰えるんだからニアにもこれ以上ない申し出だった思うが……」
「そういうことで、ニアがここにいるのだけど、この子とても優秀だわ」
仕事に厳しいルシリアが、お世辞でもなくニアの仕事振りを褒めている。
ニアがこんなところに才能を持っていたとは……。
それにしても、ニアは言われたい放題。皆に愛されている証拠……、かな?
「ああ、俺もそう思う。特に子供と威勢のいい兄ちゃん達に大人気で店も盛況ってもんよ」
なるほど、合点がいく。べたというか。
「って、あんたら、あたしに対して言いたい放題じゃねえか」
「なんだ、そういう立ち位置じゃなかったのか?」
エリオンもルシリアもニアとはすっかり打ち解けている。
「で、ララ。これからよろしくな!」
と、照れくさそうにニアが話す。
って、私は何も聞いてないし、話の流れがおかしい。それに……。
「意味が分からないし、ララって……」
流石の私もニアに疑問を投げかける。
「まあ、何だ。あれだけ濃密な遣り取りをした仲だからな。何か呼び名があってもいいじゃねぇか。つか、ラクラスっていいにきぃんだよ」
分かりやすいというか、不器用というか。
本人は照れ隠しのつもりだろうけど、全然隠れていない。
にしても、お姉ちゃんといい、ニアといい、『ララ』という呼び方の方がしっくり来るのだろうか。
うーん、考えてみると私をララと呼ぶ人は少し変わった雰囲気の人というか……。
「ということで、後は頼むぞ、ラクラス。いつまでもニアをここに置いとくわけにはいかんし、なんせお前んとこの尋ね人だしな」
「分かった……。だけどニア、事情はしっかり教えてもらうから」
いつも前振りなしに突然ことが起こる。そして、私はそれに対して選択権すらない。
よし、決めた。これからは、こうしたことに断固、抗議しよう。
納得が行く理由を明示してもらう。理由がなければ拒否だって……。
「そうそ。私もラクラスから事情を聞くからね。特に、ラクラスとニアが『濃密な遣り取りをした仲』ってところ。それは聞き捨てならない」
「いや、深い意味はねえよ」
「深い?」
「なんだ、お前等そんな仲だったのか?」
ああ、これはいつものパターン。
「マスターは黙ってて」
「おう……。また俺だけ蚊帳の外か」
「で、ラクラス。ニアとはどういう関係?」
え、ちょっと。ルシリアさん。少し怖いです。
「えと……」
――私とニアとで、ルシリア閣下に包み隠さず詳細な報告を終える。
「分かったわ。これから改めてよろしくね、ニ・ア」
どうやら、ルシリア閣下からのお許しも出たようでほっと一安心。
「お、おう。よろしく頼むルシリア」
ニアはルシリアに頭が上がらないようだ。この店で誰が一番こわ、じゃなく、素敵な方かということを理解した模様。
「んで、ラクラス。戻って来てそうそうなんだが、今後の予定はどうなってる?」
エリオンの西支部長としての質問。
「まだ何も。けど、少しだけ暇が貰えるなら……」