第二十三話 志
オルドシークの計らいで対談の日を含めて三日、この里に滞在することとなった。
対談の日は、夢が叶わないという真実を知った後から心の整理が着かず、そのまま休ませてもらった。
その翌日からは、ノエルと話したり、ミザリアに里を案内してもらったり、オルドシークからニアの件のお礼をしてもらったりと、あっという間に時間が過ぎて行った。
ニアは、未だ眠り続けている。命に別状はないらしい。使い切った魔力の回復に時間が掛かっているとの見立て。
ミザリアからは、半年に一度、この常闇の世界に一日中日が差す時があるという神秘を教えてもらった。その日は闇精霊の祝日で、のんびり過ごすのだとか。
オルドシークからは、ニアの件のお礼としてプライベート用の魔道具『魔導通話機』一対が付与された。
通話機は、中央に所属する各職業人の一定階級以上の者には利用が許可されていて、実用化もされているらしい。その開発の目的は、離れた距離にいる要人同士が会話するためであり、人の住む全世界の半径位までは声が届くとのこと。
取り扱いの注意点として、人前では使わないこと、通話対象以外には他言しないこと、プライベート使用の為、闇精霊は故障の対応はしても、それ以外でこの件には何も干渉しないことを聞いている。
通話機は、自分が好きなアクセサリーや、置物等、任意の形状の物に通話用魔力を注ぐことで使用可能となる。
通話用魔力については中央が管理する音声変換システムとリンクしていて、位置情報や、不正使用の情報がないか等が管理されているらしい。
中央で魔導通話機が実用化されている背景ーー。
中央の役職者の大半はプライベートを削ることが当たり前で、家族と話す時間も十分に取れない。
また、激務であるが故に世界各地を頻繁に飛び回れないことなどを理由としている。
世界の重要任務を担う中央だからこそ、日時、場所、方法等といった具体性を帯びた重要な機密を通話機越しに外部に洩らしてしまうことは許されない。
情報漏洩をさせないために、通話は機械で自動監視されている。とはいえ、そうした有事に至るような余程の通話でもない限り気にしなくていいらしい。
私は、メルトお姉ちゃんとの通話に使いたいことと、お姉ちゃんとお揃いのブレスレットを通話媒体にすることをオルドシークに話し、許可を得ている。
ノエルとは、話をする時間はほとんどなかった。ニアが目覚めたらよろしく伝えて欲しいということくらいしか話せていない。
そして、滞在最終日。里を去る前にオルドシークと少し対話。
オルドシークからは今後も私を支援するという話を聞いた。私も、自身が力になれることがあれば協力したい、今までの私達への心遣いに報いたいと、オルドシークに伝えた。
オルドシークからの支援の申し出に甘えて、私は、里の図書館の使用許可を得た。
禁忌に触れるような書物が置いていないこともあって、魔導研究者を目指すのに役立つならとオルドシークは快く応じてくれている。
文字置換の魔法も教えてもらい、他種族が管理する書物を読めるようになったことも大きな収穫。文字は交流に欠かせないとても貴重なもの。
こんなに便利な魔法があることにも驚いたけれど、世界の未知、神秘はこんなものではないと、その大きな可能性に改めて気付かされた。
これから先、私は色々な未知に出会い、岐路を選択するに違いない。
その時に、今日のこの日の想いを忘れないよう、後悔しないよう、精一杯、全力で立ち向かおう。
里を去った後は、今回の事件の最終報告を中央に行う手筈。
中央に報告をしたらしばらくは平穏無事な日々を過ごせそう。
お姉ちゃんと会いたいし、月亭も恋しい。
死の祝福を受けながら、こうした幸せに巡り合えた。だからこの現実を失いたくない。
不安もあるけれど、それを気にしていては何も始まらない。
これから先も生死を掛けた戦いに身を投じることから逃れられない運命かもしれない。
そうだとしても、その運命さえ変えられるような無限の可能性が人にはあると今の私なら思える。
こうした希望を胸に、私は月明りの里を後にした。
今回で、第五章は終了です。
次回より、第六章「対極の二人」が開始となります。
「面白い」「続きを読みたい」「作者を応援したい」と思ってくださった方は、ブックマークと評価をいただけたら幸いです。