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夢幻の少女ラクラス  作者: 明帆
第一部 夢探し編 - 第三章 夢と未来
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第十四話 原点回帰

 飴乃国での時間はあっという間に過ぎていった。


 今日でお泊りも最終日。

 私は休暇をこれ以上ないまで満喫。

 心も体も満たされた。


 お姉ちゃんとの出会いは私の宝物になって、お姉ちゃんは私の憧れになっていた。

 将来を見据えて常に前向きな姿を崩さないお姉ちゃんに心を打たれたのが大きな理由。


 私は、お姉ちゃんのお陰で自分が将来やりたいことも見付けた。


 魔導通信機が私の魔法に対する潜在意識を根底から覆すきっかけになって、魔導研究者になりたいって夢を持つことができた。


 その一歩として、魔導通信機のように私達の生活を豊かにする魔道機械の開発や、大量の魔力を必要とする工業・建築技術等の生産性を向上する魔道具の研究開発に携わっている自己像を思い描いてみた。

 具体性を表現していくことで、目標を明確にする。そこから始めてみようって思って。


 勿論、レイ・スロストのように道を間違えないようにしないといけないけれど……。


 でもその前に、私が成すべきことは、眠りの中に存在する夢探しの旅。そこに何らかの決着を付けなくてはいけない。現実世界で見る夢は、その後の話。


 お姉ちゃんは、これから近々セイントルミズにある知り合いの喫茶店で働くことが決まっていることも私に教えてくれた。


 だから、先日みたくお店でよっぽど手が足りないとかない限り、お姉ちゃんのお仕事はしばらくお休み。次の生活の準備のために故郷でゆっくりと過ごす予定になっているらしい。


 お姉ちゃんが働く予定の『カフェ・スウィート』には、お店に小ステージがあって、ステージが空いていれば好きな企画を自由にしていいのだとか。


 それと、間もなくセイントルミズに魔導通信機が導入される計画が発表されているとのこと。


 魔導通信機の実用試験が次の工程に進んで、一つの町で成果を挙げた情報通信技術を、離れた土地同士でも活かせるかどうかの実験をする段階に入るみたい。


 それが意味するところは、シフォン最大都市で行うアイドル活動の内容を、魔導通信機を通じて飴乃国とセイントルミズで配信できる環境が整うということ。


 そのことが追い風になって、お姉ちゃんは飴乃国を出ると決めたらしい。


 私もお姉ちゃんには、自分のことを包み隠さず全て話して、お互いの成功を誓い合った。

 約束事がまた増えちゃったな。それも、とっても嬉しい約束が。


 私達の描いた夢、想った願い、そんな全てが私達の力になる。

 今までの私と、これからの私。少しずつ変わっていけるはず。


 呪われた運命に嘆いてきた私は過去の私。

 リアンとアリヴィアと交わした約束、運命に抗うこと。シャルロットでの出来事、飴乃国での経験。

 多くの出会いが私を変えてくれた。かけがえのない沢山の幸せが見付かった。


 その反面、冷酷非情な戦いで大切な何かを失ってしまうかもしれない恐怖も大きくなっている。


 だけど、リニスもいってくれたけれど、そういったことを含めて私なんだって、ようやく最近思えるようにもなってきた。


 皆、ありがとう――。


「おまたせ~」

「あっ、お姉ちゃん!」

「うぅうう~……。ララちゃん……」

「え、え……、っと、どうした……の?」


 何で泣きそうなの?


「お目当ての物が買え……」

「買え……?」

「ました~ッ! えへへへ~、じゃぁ~んッ!」


「もう、心配して損した……」


 私は、ちょっとムッとした感じを演じてみた。


「反省します。ごめんなさい……」


 なんだか軽い感じ……。まぁいっか。


「許します」


 全く……。相変わらずこんな感じなんだから。……とかいいながら、こうした遣り取りを楽しんでいる私もいる。


 今日は、お姉ちゃんの用事で朝から買物に出ている。

 何かの限定商品の発売日だとか……。


「今日で飴乃国も最後なのに、買物に付き合わせてしまってごめんね」

「ううん。ところで、それは何を買ったの?」


 お姉ちゃんが買ってきたばかりの商品の包装をガサゴソと開ける。

 すると、中からはアイドルの音声グッズがでてきた。


「うんとね、このアイドルグル―プは私の原点。私はこの子達の大ファン。だけどアイドルを目指すなら目標とするライバル。この子達に出会わなければアイドルを目指そうって夢中になることは無かったなぁ……」


「雨乃地晴レの三色が奏でる新曲……、皆綺麗。衣装も可愛い。アイドルって何人か集まってするものなの?」


 私達と同じ位の歳の少女三人が笑顔でポーズを決めたジャケットが商品のケースに差し込まれていた。


「決まりはなくて、一人でも何人でもそれは自由。コラボレーションっていって、違うユニット同士が組んで新しい音楽を作ることもあるよ」


「異なる個性が一つの作品になるって考えただけでワクワクしてしまうね。お姉ちゃんの始まりの物語は、きっと素敵な巡り合いからだったんだね」


「うん。けど、この話はララちゃんには嫌な思いをさせてしまうかな……?」


「気遣ってくれてありがとう。大丈夫。今の私は、過去の私を受け止めて、思い出として懐かしく振り返れることも少しずつでき始めているから……」


「後悔、自責、私のせいで――、とかとか、抱え込まないでよ。そんなことしたらこうするよ」

「もう、くすぐったいよ」


 悪ふざけや軽いノリをしているように見えて、こうして色々気遣ってくれている。

 それが分かるから、安心する。


 なんて人間力が高いのだろう。

 私も、こんな風に誰かに頼られて、誰かに安らぎや、幸せな気持ちを分けてあげられるのかな。

 違うな。それはお互い様なのかな。理屈じゃなくって、本能というか。


 大切な人を心配したり、大切な人とかけがえのない時間、思い出を共有したり、何もしなくても、ただ一緒に居られるだけで良かったり……。それぞれが私達の活力。


「私もいつか、星砂糖の森に連れていって欲しいな。『深い闇』の中キラキラ光るってアレ。まさに私がこれからアイドルとして活躍するステージの上みたいだし。それに、絶景に感化されて私の天才的閃きが発動して、良い詩が思い浮かぶかもしれないし♪」


 星砂糖の森。リアンとアリヴィアの眠る地。


 その場所を訪れる度、時の進行と共に、私の心情も変わっているのは確か。

 お姉ちゃんと行く機会があれば、その時の私の心情は――。


「天災? 防災グッズを用意しておかないと」

「いやいや妹君、そんなご冗談を……」


 お姉ちゃんに感化されて、今までの素の私はもはやどこかに置き去り状態。まぁいいっか。


「皆のお土産も買い終わっているし、これからどうしよう?」

「明日に備えてゆっくりしよう。そういう時は……、やっぱりあれでしょ。裸の付き合い!」


 という話になって、非番だったお姉ちゃんのお母さんも誘って、お姉ちゃん達と温泉というところに行って、裸の付き合いというものを体験してきた。

 こんな最高の保養があったなんて思わなかった。温まって癒されて、これは癖になる。


 その後、外で美味しいお昼ご飯を食べて、夕方前にメルティで頬が落ちそうな美味なる喫茶をご馳走になってと、そうこう贅沢をしている間にあっという夜になっていった。


 飴乃国での最後の夕食は、お姉ちゃんのお父さんがお店から帰るのを待って、皆で食べた。連日お世話になったお礼を伝えて、最後の温かい団欒のひと時も思い出となって消えていった。


 そして、今はお姉ちゃんのお部屋。


「ララちゃん、今日で飴乃国も終わりだね。早いね」

「この数日、良い意味で見るもの、触れるもの、何もかも全てが衝撃的過ぎて、一生分の経験をしてしまったような気分。ここでの時間はかけがえのないもの。それくらい濃い時間を過ごせました」

「ララちゃん……」


 お姉ちゃんが抱き着いてくる。今はそれにも慣れて、というより、それをされるのが嬉しくて堪らない。温かいし、柔らかくて気持ちいい。なんだか良い匂いもするし、落ち着くし、安心するし……。


「あのね、お姉ちゃん。これ私から感謝の気持ち」

「私に? うわぁ、嬉しい。ありがとう! 綺麗なブレスレット」

「うん。実はそれ、形状変化の魔力が込められていて、髪留めにもなるんだよ」


 透明で透き通った天然石を素材にしたブレスレット。青色、水色、無色といった青色基調のシンプルなアクセサリー。


 シャルロットで配るお土産を買っている時に、いいなぁって思って買っていた。


「そうなの? これだったら肌身離さず持っていられるね。早速、これを着けて寝よ~っと」


 良かった。喜んでくれた。でも、寝る時に着けなくっても。まぁ、それでこそお姉ちゃんっていう感じもする。


「実は、私もお揃いのを買ったんだ。色も同系色」


「この後、私達二人は超えてはいけない一線を越えてしまったのだった……。なんて」

「いいよ……、お姉ちゃんとなら……。恥ずかしいけれど……」

「真剣ですか。あぁ、神よ、聖なる夜に祝福を……」


 って、あれ? お姉ちゃん本気で捉えた? 私は冗談に付き合っただけなんだけど……。


「って、冗談いっただけ。まったく」

「分かってるよ……。ち、残念」

「傍にいないように気を付けよう……」

「え~、ごめん」


 と、この遣り取りはここまで。お互い可笑しくて笑ってしまって、自然消滅。


「ところで、お姉ちゃん。この魔導通信機って、お店の情報とか、娯楽の情報とかだけじゃなくて、知識とか伝承とかそういった類の情報も調べられる?」


「調べられるけれど、探している情報があるかどうかは期待できないと思う。何せ、まだ飴乃国の人達しか使えない技術だから。使っている人の数が少ない分、利用の仕方や扱う情報量等、その範囲も限定的で、実用性が高い情報が優先して登録されていると思う」


「それでも、それができるなら、闇精霊とか、精霊とかそういった情報が登録されていないか調べて欲しい」

「いいよ。ちょっと待ってね。えと……、これで良し」

「あるといいな」


「う~ん……、それらしい情報はでてこないな。この、『精霊の一族とは』っていうのが登録されている唯一の情報かなぁ」


「そっか、残念。一応、その『精霊の一族とは』っていう情報を見てもいい?」

「うん」


 なになに……。昔ボーロ・レイの教会で借りた本を読んで知っている情報ばかり。特にこれといって新しい情報はなさそう。要約すると三つの情報だけ。


 一つは絶対領域の支配に当たる存在でありながら大半が祝福や加護に比べて強大な力ではないこと、もう一つは、普通の生活をしていて精霊に会うことは皆無に等しいということ、最後に、人里離れた場所、属性と関係が深そうな場所で、かつ、魔力が満ち易い場所に精霊達の住む異世界への入口が存在するとかという伝承、というより憶測? があるということ。


 精霊達の住む場所に触れた情報が唯一の手掛かりにしても、抽象的過ぎるし、事実関係も曖昧。

 仮に、異世界への入口があったとしても、周りの景色に同調させて分からないように隠されているはず。


 人が寄り付かなくて、暗闇が続いていて、魔力が満ちていて……。

 ………………!?


「「もしかして」」


 私も、お姉ちゃんも同時に思ったことがあるらしい。


「ララちゃん、今朝……」

「それ。盲点だった。小さい時からずっと傍で暮らしていて当たり前だったから、違和感も何も、感じていなかった」


『星砂糖の森』。


 当たりか外れかは分からない。

 今は他に手掛かりもないし、調べる価値が一番高い場所はここしかない。


「何も無いよりはずっといいね。私もララちゃんの役に立てて良かった」

「困った時には、原点に帰ってみるのが近道かもしれないね」


「うんララちゃんのいう通りだね。そだ、いけない。やることだけやってしまわないと……。ごめんだけどララちゃん、ほんの少しでいいから、私のベッドの上でくつろいでいてくれる?」


 一つのヒントを得たところで、今度はお姉ちゃんが用事を思い出したらしい。


「どうしたの?」

「ええとね……、机の上で書物をしておくものがあって」

「分かった。作業が終わるまで、明日忘れ物しないようにとか確認をしておくね」


 それからしばらく、お姉ちゃんは真剣な顔で机に向かっていた。

 そして、私も明日の旅立ちの準備を丁度終えたところに、


「できたッ! ララちゃんがいるうちに間に合って良かったよ~。ささ、ララちゃん、こっちへおいで~」


 何だろう。


「これ、私の作った詩の新作。ララちゃんのための詩」


 う、嬉しい……。これは意表を突かれた。


「『メルト……』。お姉ちゃんの名前がタイトル……」


「偶然そうなっちゃった。誰が作ったプレゼントか丸分かりで恥ずかしい」


 メルト


 溶けて 溶けて 広がる

 甘くて 切ない 恋の味

 虹色に染まる頬に

 そっと手を押し当てて

 見上げた空には白い雲

 心に溢れる希望の光

 メルト 時を止めて

 今この瞬間を

 メルト 雪のように

 消えてしまう前に

 いつか降らせて

 私だけのCandy Rain

 解き放って この世界に

 君だけの 流星Drop!! 


「素敵な詩。うっとりする……」


 感激のあまり、頭の中が真っ白。目の前の幸せな現実と見つめ合うことしかできない。その釘付けにされてしまった視線も外すことが許されない。


「ララちゃんと一緒。私もララちゃんに出会えたこと、お店を手伝ってくれたこと、そういったこと全てに感謝して、何か贈り物がしたくて」


「世界でたった一つの、私だけの贈り物……」

「ララちゃん、これからもずっと、ずっと、ず~………っと一緒にいて下さい」


 私にとってお姉ちゃんは唯一無二の存在だ。


「私の方こそ……」


 私達はこの後も沢山語り合って、笑い合って、気持ちを分け合って、最後の日にかけがえのない時間を目一杯思う存分に楽しんだ。

 遅い時間になって、日課のようにお姉ちゃんと同じ布団で眠り、活力を充電。



 ――そして、次の日の朝。


「えぇぇぇぇぇぇ!?」


 と、普段の私では考えられない驚き方をするくらい、朝一から、衝撃の事実を知ることとなった。

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