第十二話 闇に架かる月
あれから一週間。
後世に語り継がれる大惨事となった生命真理の魔導書を巡る事件はレイ・スロストの命と引き換えに表向きの決着を迎えた。
事件を通じて存在が明らかにされた闇精霊の話はシフォン国の機密事項とされている。
そして、それと同時に、シフォン国とシャルロット上層部が連携して闇精霊の存在も追っていく運びとなった。
また、レイ・スロストに研究者としての道を歩ませてしまったミルフィーユ国も非公式ながら本件の協力者に名を連ねることとされた。
他には……、私の絶対領域の力ついてもその扱いが決まっている。
これについては、コルベットが最小限の人以外に知られないように計らってくれた。
魔力制御については今まで通り継続ということで落ち着いている。
そして、私が知るこの事件の結末は三つ。
まず、コルベットが指揮した本陣を除いた百二十名のうち、生存者がたったの八名ということ。
次に、国からの援軍によって魔導書が封印されて、回収も無事に成功したということ。
最後に、レイ・スロストは恐らく生存していないと判断されたということ。魔導書内にも取り込まれていないという見解。
私とリディアは魔導治療院へ入院となり、リニスは魔力が完全に戻ったと判断されるまで、魔導治療院に毎日通院することとなった。
幸いにも、リニスの魔力は事件翌日には全快。私とリディアも四日間の入院で済んだ。
今は三人とも自宅療養扱いとなっている。
私とリディアが入院中、嬉しい再会も果たした。ルクスがお見舞に来てくれた。
事件当日、ルクスは襲撃開始時にたまたまコルベットの隊に在中していたことから無事だったそうだ。
この時ばかりはリディアも人目をはばからなかった。感極まって喜びを噛みしめていたのが印象的だった。
自宅療養を終えた後のことはもう考えている。私はエリオンに、闇精霊事件を追う隊に協力したいと相談するつもり。暗闇だった私の行く末に、ようやく微かな光が差した。
自宅療養は一ヵ月。本陣を除いた生存者八名全員に、激戦の疲れを癒す為にと、ひと月の慰労休暇が与えられている。リニスと月亭に食事に行ったり、何もせずゆっくりしたり、そういう時間を過ごそう。
――大惨事から一年。
ここ一年は大きな事件は起こらず、平和な時間が過ぎて行った。
それでも、周囲の環境は目まぐるしく変わっている。とはいえ、時が進めばそれも自然なこと。
身近なことをいえば、リディアがルクスと籍を入れる為に退役。
戦力調整の為、リディアの推薦でリニスがリディアの後任に抜擢された。
リニスは北支部から東支部へ移籍となっている。
そのリニスと私は、あの事件を介してより親密になっていった。
私とリニスといえば、レイ・スロストと対峙して最後まで活躍した二人。
それが公に知られれば、平穏な日々が送れなくなるのは必至。
そこで、この話は公に広まらないように配慮されている。
だから、事件前と同じ、幸せで穏やかな日常は守られている。
そして、今ではリニスと月亭に行くことも多い。
リニスとルシリアも馬が合うみたいで直ぐに仲良しになっている。私達三人は今や大親友。
エリオンも、店に華が増えてきっと喜んでいるはず……?
これで月亭も更に大繁盛? 間違いなし。
リニスは童顔で可愛らしい子。
ルシリアと並ぶとリニスが妹みたくて可愛いのなんのって。
それから私自身。
私は、闇精霊事件の最初の関係者だったことから、その捜査に参加することをすんなり許可された。
そこまでは良かったけれど、闇精霊に関する情報は未だ乏しく、進展はない。
その為、普段は西支部でいつもの仕事をこなすことが多い。
活動があるときだけ、闇精霊の件を優先するという生活。
こうした日々を過ごしていた。その時が訪れるまでは……。
今回で、第二章は終了です。
次回より、第三章「夢と未来」が開始となります。
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