水泳の授業で紐ビキニ。
「ちょwww先生なんで紐ビキニなんスか!?www」
生徒達の笑い声。海での水泳の授業。俺は……今日も元気だ。
「これには深いわけがあるんだが……聞くか?」
「ぜひwww是非www」
腹を抱えて笑う生徒達に、俺は静かに語りかける。アレは塩をかけたスイカのように甘くて塩っぱい恋の話だ──。
「わぁ! 可愛い~!」
俺は恋人の陽子と水着を買いに来ていた。高級志向のデパートで開かれていた有名水着ブランドのフェアだ。値段は高いがどれも物は良い。
「御試着なされますか?」
店員に促され、両手いっぱいに抱えた水着を持って試着室へ入る陽子。俺は一人残され少し恥ずかしい気持ちで水着を見て回っていた。
「どう?」
試着室のカーテンから首だけだす陽子に「見たいな」と素直な気持ちを言った。
「ジャーン!」
試着室から飛び出した紐ビキニの陽子は、控えめに言っても女神だった!
俺は頭がクラクラして鼻血を出してその場で倒れてしまい、救急車で運ばれた…………。
「──!?」
「えっ!?」
生徒達がザワつくが、俺は話の続きをした。
そして目が覚めたら、陽子は別な男の物になっていた……。
【水着で病院来たら医院長の息子にナンパされたんでコッチにしまーす♪ 水着帰すねー。バイバイ】
その書き置きと残された水着を見て、俺は──。
「……すまない。思い出しただけでも涙が……」
「先生……ごめんなさい。そんな訳の分からないエピソードがあったなんて……」
「いいんだ、今日は水着も自由だ。俺も今日、ココでその切ない思い出に別れを告げるとしよう。皆、今日は思い切り遊ぶんだぞ!」
──ピピーッ!!
笛の音が鳴った。俺ではない。
「キミィ! なんちゅー格好をしているんだね!?」
それは巡回中の警察官だった。警察官は私の格好をジロジロと見て、まるで変質者を見るかのような顔をした。
「陽子の紐ビキニ、36000円……です」
「よく見れば水着に血が付いているじゃないかね!?」
「私の鼻血です」
「訳が分からん! 怪しすぎて何も言えん!」
警察官は生徒達を見て、溜息をついた。
「学校の先生かね?」
「はい」
「名前は」
「坂上田村麻呂」
「本名!」
「田中真」
「年齢と住所」
「45歳、土井中村二丁目コーポしっぽり4545-45……」
「家族は……ま、そんな格好なら恋人もおらんか」
「……仰る通りです」
「電話番号」
「⊃♡*✂∉です」
「……この辺はナンパ目的の軽い奴らも多い。気を付けるように」
「……はい」
「ま、俺のことなんだがな」
「──!?」
と、警察官は服を脱ぎ捨てた! その下は海パン一丁で、サーフボードを携え浅黒い肌にやけに白い歯を光らせて、極めて涼しい笑顔を放っていた。
「住所も電話番号も貰ったし、お兄さん俺と遊ばない!?」
「「!?」」
後ろで生徒達がザワついている。しかし俺は──
「ああ、良いだろう」
陽子を忘れるように、サーファーと二人仲良く手をつなぎ、海へと駈けだした。
「お前らも自由に遊べ! あまり深いところへは行くなよ!?」
「は、はぁ……」
俺はサーファーと一夏の恋って奴に溺れた──。
「きみ、生徒をほっぽり出してどっか行くわ紐ビキニは着るわで何なんだねぇ!?」
校長室は重い空気が立ち込めていた。俺は濡れた紐ビキニのまま、校長の叱責を受けている。
「しかも君がキチンと監督していないから、生徒の一人が溺れたじゃないか!!」
「……申し訳ありません」
「他の生徒が助けたから事無きは得たが、君の責任は大きいぞ!!」
絞り終えた私はボロ雑巾の如く、校長室を後にした。保健室を覗くと、溺れた女子生徒と助けた男子生徒が仲良くイチャコラしていた。
「ふっ……俺のようには、なるなよ?」
扉越しに小さく声を掛け、静かに歩き出す。水着から滴る海水が、俺の体から容赦なく熱を奪ってゆく。
──ツルッ! ゴンッ!!
海水で転んだ瞬間に頭を強く打ち付け、俺は意識を失った…………。
「……ん」
目が覚めると、そこは病院だった。紐ビキニはそのままに、病院のベッドに寝かされていた。
ベッドの傍には書き置きが残されており、汚い字で『医院長の息子にナンパされたんでコッチにしまーす♪ ボードあげるねー。バイバイ』と書かれていた。
「…………」
病室の一角に立てかけられていたサーフボード。俺は深い悲しみの海をコイツで乗り切ることにした。
そして、教師を辞めた俺は、紐ビキニサーファーとして第二の人生を歩み出した。