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 前回の戦いで、凛桜は久々に負傷してしまった。その影響が心配されていたものの、その時の彼女はもはやその影響など微塵も感じさせないほど仕上がっていた。


「本当に大丈夫なんですかね?」


 北里は射出の監督係でもある部下の東雲に電話をしていた。その際に突如としてこんなことを尋ねてきて、北里は目が点になってしまった。


「なんのことだ?」

「ほら、あの子ですよ、あの子。凛桜ちゃんは前回、ろっ骨を3本折る怪我を負っていますよね?あれからまだ1週間しかたっていないのに……」

「野口凛桜の回復力なんて、今更だろ?かつては瀕死の状態から3日で戦場に出たこともあったんだぞ?」

「それはそうですが……」

「我々にとってそんなものは些事に過ぎない。今日の公開訓練、全世界で公開されていただろ?1体1秒ペースの殺戮を30分近く続けられるなんて、あんなもの並の人間じゃない。私たちのチームメンバーは優秀だ。日本の叡智が詰まった集団だと自負している。しかし、あれはそんな次元を超えている」


 少しだけの沈黙。不意に東雲はこうつぶやいた。


「時々、北里さんって、彼女を兵器みたいに言いますよね?」


 長い時間の沈黙。遠くの方でサイレン音が流れ始めていた。そろそろ地上へ射出される時間のようだ。北里は少し冷や汗をかきながら冷静に対処した。


「兵器みたいなものだろう?君も、僕も、もちろん彼女も。この荒廃した世界では、プルクと戦うものすべてが日本国を背負う兵器だ?そうだろう?」

「ですが……」

「あげちゃって!!!しのちゃん!はやく!」


 東雲の背後では、凛桜が急かした声をあげていた。


「……わかりました」


 東雲はそう言って電話を切ると、既にピットの中に入っていた凛桜へと話しかけにいった。


「出発まで1分あるから、一応簡易的なメディカルチェックしておくわ」

「別に大丈夫ですよしのちゃん」

「まずそのしのちゃんっていうのやめなさい。私はあなたより7年先輩なのに」

「えーその見た目でそれ言います?萌え袖の白衣に子供みたいなおかっぱ頭に私より小さな背丈って、同級生にすら見えないっていうかー?」


 生来のものなのかわからないが、彼女のこうしたいじりに嫌みがなく、むしろかわいいとすら思っていた。それは東雲だけでなく、それを見ていた職員すべてがそう思っていた。


 だからこそ、東雲は聞いてみたくなった。可愛らしいその見た目を、こんなところで使わなくてもいいのではないか?もしもこの世界がこんなにも壊れていなかったら、アイドルにでもなんでもなれたのではないか?そんな思いを込めて、東雲は一言だけ尋ねてみた。


「辛くないの??」


 一瞬だけあっけにとられた凛桜だったが、すぐに表情を明るくした。


「全然!私はね、この星の人間の守る仕事ができてとてもうれしく思っているんだ。だからさ、今日も明日も頑張れる。この仕事は、私の誇りだよ」


 プシューっと音を立てて、茶色のガラス窓が閉まっていく。その間際に、呟くように凛桜が言った。


「それに、いざとなったらお姉ちゃんが助けてくれるから」


 その言葉を聞いて、これ以上は無粋だと感じ東雲は踵を返した。そうだ。彼女にはお姉さんがついているんだった。それを再確認して、東雲はすうっと息を吸った。


「戦闘員の心身状態、問題はないか?」

「ありません。脈拍、心臓音、メンタルウェイト全て正常値です」

「システムオールグリーン!!【Sakura】射出準備いたします」

「目標地点は群馬前橋のリアルゲートから東に1.2キロ、南に2.5キロの瓦礫上」

「いい?凛桜ちゃん。向こうに行ったら数分間身を隠してね。敵はこれからこっちに向けて動き出すと思うから……」

「その辺は既に北里さんに聞いてるから大丈夫でーす」


 明るい声が響いたかと思ったら、凛桜はにこやかにこう言った。


「行ってきます!!!」


 その彼女の爛漫さが、一種の無理を連れていることは明白だった。しかしながらそれに気を使うことはできても、彼女の出動自体を止めることはできない。今の彼女に頼らないと、この世界を救うことはできないのだ。


「3……2……1……」


 スンという音を立てて、凛桜は地上へと運ばれていった。ふうとため息をついた東雲は、そういえば電話切り忘れていたなと思って腕時計を見た。向こうから切断したようだった。今度北里に謝らないとな。東雲はそう思って舌を出した。


 他のメンバーは、無事打ち上がるか不安な顔をしている者もいた。かと思ったら雑談をするものも。こうした落ち着かなさは今のチームの特徴だ。PCPJは若いメンバーが多く、東雲の年齢でさえ年上な方だった。だからこそ案外メンバー内は活気があって、なおかつ横のつながりもある理想的な職場だった。まあ事態が事態だから、しょうもない仲違いをしている余裕などないというのもあるが。


「東雲さん」


 悦に入っていた東雲に対して急に話しかけてきたのは射出関連技術を担当しているPCPJ技術課の技師だった。


「先ほど渉外から、更に数体機械の射出を要請したいとの一報が入りました」

「ほう、どなたから?」

「野口凛姫というものからです。北里との打ち合わせは済んでいるとのこと」

「あー了承して」


 東雲と凛桜が話している間に、何か決まったな。東雲は怪しい匂いを感じつつも、メンタル面以外にも介入してくるあの人の世話焼きっぷりに少し呆れていたのだった。

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