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お仕事

「相変わらずここは殺風景だな」


 北里は頭をかきつつ、開口一番こんなことを言い出した。別にそれに対して、凛姫も凛桜も何か文句をつけようとは思わなかった。事実そうだし、年頃の娘が好きそうなものは一切置いていなかった。可愛いぬいぐるみでもあれば、もっと印象は変わるかもしれないが。


「あ、北里晩御飯は食べたか?私のハンバーグをくれてやろう」

「ちょ、お姉ちゃん!!だからちゃんと食べなきゃダメだって言っているでしょ?それはお姉ちゃんの食べる分だよ」

「ひと切れは食べたぞ!バランス良く食べろと言ったのはそちらであろう?少しでも手をつけたのだから無問題だ」

「残念だが飯はもう食べた。本題に入ろう」


 凛姫は心底落ち込んだ顔をしながら、付け合わせのもやしを一掴みしてゆっくり咀嚼していた。


「先週未明、地下都市某所にてプルクの検知にひっかかった形跡が見つかった。まだマスコミには公表していない情報だ」

「相変わらず私らには教えてくれるんだ」

「良いビジネスパートナーだからな。無論、他言無用だ」


 北里のこの言葉が嫌味っぽくて、凛桜としては少し苦手だった。後わざわざ薬指で眼鏡の位置を矯正するのも理不尽にイラっときてしまった。せめて中指にしてくれないだろうかと思ったのは凛桜だけでなく、凛姫も昔から同じことを思っていた。


「まだ実害が出ていないこともあり、今の所は数値の誤差として発表する方向で話を進めている」

「無用な煽りは混乱を招くからな。妥当だ」

「しかしながら万が一という可能性を捨てたくない。過去には数週間にわたって潜伏したものもいる。彼らは人混みに潜伏するのが得意だ。注意しなければならない。何か事が起こってからでは遅いからな。だから……」

「今もらってるドローン技術で街の監視をして欲しい、とかか?」


 凛姫はようやっともやしを食べ終わると、続いて米へと手を伸ばしていた。


「そうだ。流石理解が……」

「それに関してなんだがこちらとしても取り急ぎの報告がある」


 凛姫は米粒を1つ掴んで凛桜に見せたが、凛桜は無言で首を横に振っていた。


「このドローンの仕組みについてだが、どうやらレーダー式というものを採用みたいだ」

「ほう、聞いたことないな」

「並のドローンはカメラが付いているのみだったが、これはその次の世代に当たる、2022年頃から発売が開始されたタイプの改良版だな。微小な超音波を発振させて、その跳ね返りまでの時間を計測することでどこに何があるか詳細に調べそれをマップに表示していく、と言った方法を取っているようだ。かつて魚群探知機などで使われた手法で、建物の中に何があるか、人が何人いるかまで把握することができる優れものだが、応用力の低さが欠点だ。普通のドローンならこの方法でこんなに詳しい情報は出てこないから、当初は困惑したよ」


 凛姫は根性で5粒ほど食べて凛桜を見た。凛桜はにっこり笑って許してくれた。


「この超音波は恐らくだが多種多様な超音波を混ぜ込んで送信している。鉄には反応しない、コンクリートには反応しない、プラスチックには反応しない、そんな音波をミックスさせて送信し跳ね返りを見ることによって、より詳しく眼下の状況を把握しているみたいだ。こんな技術、いったい誰が作ったんだ?こんなの完全にオーパーツだぞ?それともなんだ?PCPJの職員はそこまで優秀なのか?」

「それが…情報が途絶していて、誰の整備したシステムなのかわからんのだ。恐らく当時の職員の誰かが作ったんだろうが、確かな情報はない」

「本当にオーパーツね、それ」


 凛桜はごちそうさまと手を合わせていた


「まああれば、私のところまで話は来てないだろうからね。結論としては、ドローンのシステムにないものを敵が身につけているか、敵の本拠地にあるかして、補足しきれていないのではないかと認識している。弄りたいのだが下手にやると全システムやらかす可能性があるから、これだけシステムから切り離して、試しに弄ってみていいか?」


 北里は無言で頷いた。


「よくそこまでわかったな。こちらでは手も足も出なかったのに」

「むしろこちらとしては申し訳ない気持ちでいっぱいさ。もっと精査してシステムの概要まで把握したかったのだが、それはこれからになりそうだ。納期に間に合わなければまた連絡する」

「まだ仕事回して1日でそれだけできたら期待以上だ。大変助かった。恩にきる」


 そして頭を下げた。なんだかんだと言って北里はエリートには似合わず自らの非力を認める潔さがあった。根の所は謙虚な働き者なのだ。自明なことだが、ただ賢いだけでは彼の地位に上り詰めることなどできないし、ただ嫌味な奴ならこの国を守ることなどできやしないのだ。


「要件はそれだけ?」

「ああ、野口に関してはそれで終わりだ」

「野口って、私も野口よ」


 北里は一瞬だけ固まった後に、すぐ口を開いた。


「そ、そうだったな申し訳ない。君には別の頼みごとがある。それもA級案件だ」


 北里は凛桜の方を見た後でこう言った。


「最近プルクがリアルゲートの近くに陣を張ったらしい」

「どの方向ですか?横浜ですか?茨城ですか?」

「群馬側のリアルゲートだ。これを許すわけにはいかない」

「まあ実質的な宣戦布告ですよね。わかりました。すぐに準備します。というか、そんな緊急案件ならばこんなところでのんびりしていていいんですか?」


 リアルゲートとは何かというと、要は最前線より少し引いたところにある拠点のことである。つまり最前線の内側に敵の拠点があるということだ。こんなもの、さっさと排除するに限る。また内部に占領されては、かつての惨劇の繰り返しだ。


「まあその辺はおいおい話す。ご飯中申し訳ないが準備を頼む」


 そう北里に急かされ、凛桜はデザートのプリンを一気に口に入れてからガタッと席を立ったのだった。

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