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限界

 姉から言われた品物を購入して、凛桜はとある廃墟寸前の建物にて階段を登っていた。地下世界においては地下になればなるほど安全で、地上に近ければ近いほど危険という認識が一般的だ。それに異論を挟む余地などひとつたりともないが、だからと言って住んでいる場所が危険極まりないとか居心地悪いとかそんなこと全く思っていない、というのが凛桜にとっての本音だった。クラスメイトなんかはあんな場所に住んでいて大丈夫なの?なんて言ってくる。どれくらいの高さかというとおおよそかつて地下鉄が通っていたくらいらしい。普通の人が怖がる高さらしいが、凛桜は全く気にしていなかった。


 凛桜は眼をかざし、それと同時に静脈認証装置に指を入れていた。一般人ならどちらか1つだけでいいのだが、軍部関係者はセキュリティが厳しく、これらに加え首筋の血管と簡易DNA検査が必要となるのだ。たかがオンボロ建物に入るだけでもこれである。社会では英雄扱いでも、上層部からはいつか寝首を取られてしまうのではないかとドギマギしているという。凛桜のような存在はお偉いさんにとって不安材料の1つに挙げられているのだという。


 人類史が自ずと証明していることだ。何がって?平和な世界が訪れた直後の鉄砲玉の未来だ。難癖をつけて殺されるか、それに先手を打つかのごとく、平和な世界が訪れた瞬間に鉄砲玉が全員殺して天下を取った例だってある。こんなありがちな話はありとあらゆる世界で転がっている。だからこそ上層部の念頭にはしっかり置かれているのだろう。勿論凛桜にそんな欲望や願望など一切ないが、部屋に入りづらいというのは至極真っ当な不満であった。実生活に影響が出ているのはよくないだろうという、まるで普通のJKのような提案だった。かわいいだろ?なんて心で思う凛桜は中々にお茶目だと思う。


 しかしながら建物の中にさえ入ってしまえば、そこからはフリーパスである。ボロボロの建物の最上階に、一般的なセキュリティシステムが稼働しているはずもなかった。凛桜は部屋の前で指を晒すと、一瞬でドアのロックがより強固になった。こんなセキュリティを強化する人間なんて1人しかいない。


「おねーちゃん、また変な機能追加してる……」


 凛桜は独り言を呟きつつ、ポケットに入れていた鍵を取り出した。鍵穴に鍵を差し込むなんて、21世紀の建築物管理方法として失格もいいところだ。これならこの鍵を落としてしまったら、中に入れなくなってしまうではないか。何と不便なものを……光彩や静脈の方が安全で確実で素早いというのに……そんな凛桜の声も姉には全く響かなかった。


「たーだいまー」


 凛桜はわざわざ隣町で買ったそれを、ストンと下ろした後に靴を脱いだ。紺色ブレザーの制服は、靴下が長めの黒ストッキングだから、さっさと脱いで洗濯機に入れて裸足になっていた。凛桜はあまり長い靴下が好きではないのだ。くるぶしくらいのが丁度いいと訴えていたのだが、どうやら校則らしい。昔は校則なんて破るものだなんて言って暴れまわる輩が居たそうだが、少なくとも現代日本においては決めたことを守らないと死へと直結する。だからみんなしっかり守るのだ。


「んーおかえり?」

「何で疑問形なのよお姉ちゃん」


 遠くから聞こえてきたその声は、いつも以上に疲れているように聞こえた。凛桜は姉である凛姫りきの様子を見にリビングの奥側にある引き戸をガラガラと引いた。


「いやあ、ちょっと疲労がすごくてね……もはや妹の声すらしっかり思い出せんようになってしまった……私も末期かな?」


 凛姫はくるりと椅子だけこちらに向けてきて、疲れ切った顔でアピールしていた。


「お姉ちゃん、そのセリフ聞くの4日連続。今日は何でそんなに疲れてるの?」

「トイレに立つ回数が昨日より1回多かった」

「そんだけ!?お姉ちゃん、もはや人間並みの生活もできなくなっちゃったんだね……」

「いいからお土産をくれよ妹よ。それは私の活力なのだ」

「これがあったらトイレの回数増えたくらいでそうならない?」

「ならない!はずだ……」


 そうして凛桜は凛姫にとあるお菓子を分け与えた。その袋に書いてあった名前は、芋けんぴ。隣町の安物菓子限定スーパー、昔の人でいう駄菓子屋店であろうか、そこでしか売られていない代物だ。凛姫はそれを異常なほど溺愛していた。


「あのさあ、今日私は久々の実戦だったの!!結構疲れたんだよ??そんな状態の妹にわざわざ駄菓子買わせに隣町に行かせるって、もう少し私の身体を労ってほしいんですけど!?」


 なんて凛桜の言葉なんて全く聞く耳を持たず、凛姫はもう早速ポリっと芋けんぴを口に含んでパソコンの画面に戻っていった。どうやら買いに行けないというのは本人の疲労度や体力の問題だけでなく、本当に仕事が忙しいのであろう。だとしてももう少し何とかして……もういいか。言うだけ無駄だというのは、2人とも姉妹なのだからよくわかっていた。


「おねーちゃん、今回は何の仕事をしているの?」

「政府から小型視察装置の挙動整備作業を頼まれてね」

「ドローンのこと?」

「そうそう、平たく言ったらドローン。こいつは敵状視察データの収集が主な機能でね、どこに何人くらいのどんな武器を持った敵がいるのか見える化してデータを纏めているのだよ。でも最近になってどうにも精度が落ちてきたらしくてね。別に私が開発に携わったドローンではないのだが、少し調べているのさ」

「あーだからそのモニター、今は地下の様子ばかりなんだー」

「そう、地下も網羅できずに地上を網羅するというのはエビデンスとして疑義がついてしまうのでね。今の所は大丈夫であろうと愚考しているが、納期はまだだしもう少し微調整しよう」

「はいはい、もう18時だから晩御飯作るよ?ご飯はちゃんと食べなさい!芋けんぴ大人買いしてきたけど食べ過ぎないように……」


 なんて忠告、聞くわけがなかった。凛姫にとっては馬耳東風である。凛姫はやせこけた頬にいっぱい芋けんぴを投入して、もう一袋消化していたのだった。その食欲とパワー、少しくらい運動やアクティブな活動に回せないのかと苦言を呈したくなったが、そこは姉なので何も言わずに許すことにした凛桜であった。


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