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 2030年、世界は侵略され始めた。宇宙から来たと名乗る謎の生命体、後にプルクと名付けられたそれらが、南極を拠点として全地球人に向けて宣戦布告を始めたのだ。見た目を人間に擬態し、人々の生活に浸透しては内側から崩壊へと繋げる彼らの手口により、この世界は荒廃の一途を辿った。


 プルクの見た目は人間そっくりでも、単純な戦闘力は圧倒的に上だった。あるものは力づくで、あるものはインフラを破壊しじわじわと、足元から木の根を腐らせるように社会を揺るがしていったのだ。特に初期においてはその違いが明確ではなく、多くの国民が被害に遭った。警察より腕力があり、自衛隊を出すには人混みに隠れ手が出せない。初期は発砲許可も降りていなかったし、そもそもこの音なく忍び込んで来た侵略者達についての情報が出揃うまで多くの時間を要したのだ。


 この星はプルクの物になる、そう吹聴するコメンテーターに同意の声が寄せられる程に、人々は恐れ、慄き、そして隣人への疑心暗鬼を高めていった。それはまさに、地獄と形容されうるものであっただろう。


 しかし人間もそこまで無抵抗ではない。非常事態宣言が出された後、当時の首相は国民に対して地下避難を要請した。これは、核戦争勃発用に秘密裏に作られていた核シェルターと、2025年に導入された眼の光彩で住民登録等を行う新戸籍システムが大きく役立ち、より正確にプルクを排除することに成功した。因みにこの新戸籍システムを導入しなかった、またはできなかった一部国家は、例にもれずすべて崩壊した。導入時反対の多かったこのシステムが、まず日本を救ったのだ。


 そして全ての日本人が地下へ避難したところで、自衛隊とプルクとの戦闘が始まった。そしてそれは、未だに継続している。懐かしい故郷も歴史的建造物も見ることなく、日本人は地下で暮らし続けている。それがもう、かれこれ15年になるのだ。


 全世界で最も人的被害が少ないのがこの日本らしい。人々も地下暮らしにパニックを起こさず、むしろ今の日本は地下国家の様相を見せていた。どんどんと街が興隆し、地下でリニアを通そうかという話が出るほどである。


 その結果、日本が降伏しないと勝利はあり得ないとプルク側が戦力を増強していた。しかしこちらも米軍と北朝鮮軍の力を借りて迎え撃っていた。かつてなら絶対に手を組まなかったであろう3者だが、世界崩壊の危機となれば話は別だ。


 何にせよ、日本の地上はもはやただの荒廃した戦場と化し、人々は地下にてその生活水準の維持に努めている。そんな世界において、プルクと戦う者達は全国民からの期待とプレッシャーをかけられ、その戦況に人々は一喜一憂して来た。そうした対プルク戦闘員の中で今最も期待されているのが、野口凛桜という少女なのだ。それは、彼女の美しい銀髪や少しふくよかに膨らんだ胸、高校生とは思えない腰のくびれやすらっと長い脚といった容姿に端を発するものだけではなかった。


「はいやめ!!」


 教官の号令が鳴り響いた瞬間に、訓練所はサイレンがギャンギャンと鳴り響き始めた。清掃の時間なのだ。


「タイムは?」


 凛桜は服を脱ぎ捨てんという勢いで駆け上がりつつ、大声で教官に向けて尋ねていた。


「29分17秒6。平均タイムだな。やはり隠れているだけの相手だとこれくらいか。そもそも普通の人間なら全部倒しきる前にスタミナが切れるのだが、野口は流石だな」

「そりゃあねえ。その何倍もの敵とやりあって来てんだし。むしろこんな私以外やらなさそうなメニューをわざわざプログラミングしてくれてありがとうって感じ?」


 日本が生んだ最強無敵の戦乙女。圧倒的なスピードとスタミナ、並外れた運動神経、天性の戦闘センスに優れた状況判断能力。その能力の高さから、たった1人で1師団級だとも称されている。ついた相性は『Sakura』。この名を知らない日本人など、この地下世界どこにもいないであろう。そんな彼女も、戦闘を終えてしまえば年相応の女子高生だ。


「そういや教官、今日マスコミどれくらいいた?」


 教官は間を空けずに答えた。


「ほとんどのメディアが来ていたんじゃないか?しっかりお前のことを見ていたぞ。恐らく夕方のニュースはその話題で持ちきりだろうな」

「テレビ局も?」

「全社いたな」

「うわあ……」


 凛桜は嫌そうな顔をしつつ、ドアの前に立った。


「んじゃ抜けまーす!お先失礼しまーす」


 そうしてドアの認証を待っている間に、凛桜は小悪魔な表情をしつつ振り返って教官に懇願することにした。


「できる範囲でいいんだけど、このパワースーツクソほどダサいってお偉いさんに伝えといて。もう着たくないから色を変えてくれって、ね?」


「善処する」


 事務的な言葉で返され少し凹みつつ、凛桜はロッカーへ戻った。そして腕時計型スマホで画面を見て、希美に連絡しようとしたら、姉から頼まれごとを再度思い出して少し鬱になってしまったのだった。

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