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窓際の恋話譚

作者: ヒカワリュー

 1月29日


 それは彼にとって何気ない一日の始まりだった。

 そう、彼の母親がこの世の終わりのような顔で彼を起こしに来るまでは、ね。


「……きて!おきて!起きなさい!」


 青年、いや―――「少年」は、窓からさす、まだ中途半端にしか上がっていない太陽の日差しを浴びて、眠い目をこすりながら、むくりと起き上がる。


「……起きるにはまだ早いよ……今日は学校に早くいく理由も特にない、し……じゃっおやすみぃ」


 少年はせっかく起こしてくれた母にぶつくさと文句を言いながら、二度寝の態勢へと入る。

 しかし、それでも母はさっきの勢いを押しのけるように、さらに強引に少年を起こした。


「いいから起きて!とりあえず下に来て!」


 母のあわただしい物言いにびくりとする。


―――僕何かやったかなー?


 少年は最初、何か怒られるものだと思っていた。

 普段、こうも母が声を荒げることなんてないから、それぐらいしか思いつかなかったのだ。


 とりあえずは母に急かされるまま、寝間着の状態で一階のリビングへと向かう。

 リビングに降りて、びっくりした。なんと父がもう起きているのだ。

 父はよほどのことがない限り、こんな早朝に起きたりはしないはず。

 母が起こしたのだろうか、それにしても、父は寝間着のまま目に涙を浮かべながら誰かと電話をしているようだ。

 起きてからの色々を含めて少年はなんだか、とても怖く感じた。

 すごく非日常的で、なんだかずれている、そう、とてもとても不気味だった

 少年は、朝っぱらから泣いている父を横目に、母が震える手で指さすテレビを見た。


「は?」


そこに映っていたのは、大げさなテレビショッピングでも、年齢層高めのニュースでもなんでもなかった。


 【超巨大隕石接近】


 そうテロップには何度も書かれていた。


 テレビのアナウンサーが、必死の形相で何度も訴えかける。


「これはフェイクでも、なんでもありません!いま、この星の1.6倍もの大きさの隕石が近づいてきています、専門家によると接触する確率、99.9%以上、明日の正午には目視できる距離まで接近するとのこと、そうです!この星にもう未来はないんです!いまするべきことをしましょう!最後になって悔いが残らないように!繰り返します、現在...」


 驚きのあまり声すら出ない。

 やっと震える心を、落ち着かせて出てきた言葉は


「なっ、なにこれ?もっモ〇タリング?」


 とても上ずった声だった。

 違う、そう分かってはいたけれどそう言わずにはいられなかった。


 少年は人間はとても便利な動物だと感心する。

 だって、ひたすらにこれは事実ではない、現実ではないと思い込もうとするのだから。

 されど、現実ここは強かった。何故なら、朝、少年が起きてから今日はやけに外がうるさいと感じていたから、さっきから、泣きながら電話する父の話し相手が父の親友だと分かったから、ずっと彼を見つめる母の目の周りが赤くはれているのを見つけてしまったから、彼の携帯の着信が止まらないから、チャンネルをいくら変えても同じ内容の番組だったから,,,

 少年は深呼吸一回、そのあと明るい笑顔を浮かべた、そういつもの明るい少年へと。

 しかし涙は止まらなかった、電話を終えた父が二人を抱きしめる。

 三人とも何を言うでもなくただ、突然の終わりに、そう、突然すぎる終わりに、深く深く涙した。



 泣きはらした少年は、友達に別れを告げていった。

 直接会いに行こうともしたが、誰もかれもがやはり忙しいようだ。

 なのでメールや電話で。それでも数時間かかった。

 つけっぱなしのテレビでは、人類絶滅論だの、政府の流したデマだの、言いたい放題だ。

 でも、そのデマだなんだと言っているテレビも今日の夕方にはあらかた、終了するらしいが。

 なんとも、無責任だ。信じていないなら最後まで続ければいいのに。


………


 朝起きて、急に世界が終わることを知った「僕」は、父と母に今までの感謝を告げて、友達にも感謝と別れを告げていった。

 思いつく限りの人と連絡を取った後、僕は外に出ることにした。

 特に何かしたいわけじゃないけど、一つだけ行きたい場所があった。

 季節は冬、風邪をひかないように厚着をして家を出た。

 母には早めに帰るよう言われた。


 僕の行きたかった場所、それは家の近くにある神社。

 二年前の、高校受験の時ここにお参りをしに来た。

 その高校には無事受かることができたんだけど。だから、というわけではないけど、なぜかここに今行くべきだと、そう直感したのでここに来てみたのだ。

 案外来てみるととてもばかばかしく思えてくる、なぜなら僕は神なんかはどちらかといえば信じていない人間だからだ。

 そんな僕でも、神頼みするほどに心は弱弱しくなっていると思うと、なんだか悲しさよりも笑えてきた。

 アホらしくなった僕は、参拝道の途中で引き返そうと方向を変えようとした。その矢先、後ろから突然、


「久しぶり」


と声をかけられた。

 突然の声掛けに反射的に振り向いてびっくり仰天、そこには目もくらむような美少女が立っていた。

 僕は辺りを見回す、だって僕にはこんなかわいい知り合いはいないから。

 まさか自分とは思わない、でもそもそも僕以外誰もいないのがわかっても、それでも辺りをきょろきょろ。

 しまいには、久しぶり、というのは幻聴だと思ったので女の子を不思議そうに見てみた。


「君だよ、きみ」


彼女は僕の間抜けな姿が面白かったのか、けらけらと笑いながら言う。

 やはり僕だったようだ。

 彼女が砂利道を、ザクザクと鳴らし近づいてくる。

 近づいてもっと分かったが、やはりものすごい美少女だ。

 アルビノの方かと思うくらい白い肌、でも髪の毛はとても鮮やかな金銀二色、そしてとても奇麗で自然な赤色の目、年は見た目的に僕より下くらい、正直テレビで見た世界の100美人の誰よりも、何倍もきれいだ。

 そんな、知らない超絶美少女に突然話しかけられてきょどらない男がいないわけがない。

 別に、女子に免疫がないわけじゃない、それでもこれは、僕の処理能力外だ。

 

―――男だろ!僕!ここできょどってどうする!漢をみせろ!


 自分自身に活を入れる。


「,,,えぇーと、僕達会ったことがあったっけ?正直な話覚えていないんだ、それかすまないけど君の勘違いってことはないかい?」


 よし!よくやった僕!


「いーや、君で合っているさ」

「前にここに来たことがあるだろ?」


 ンーますますわからなくなってきたぞ,,,


「えぇーなら、ここの神社の関係者のかた?」


自分で言っているがそれにしてはおかしい。だってここに来たのは二年前だし、普通そんな前の一人の参拝者の顔なんて覚えてるわけがない。


「まぁだいたい合っているよ、何を隠そうぼくはここに住んでいる神様だからね」


 最初何を言っているんだこの子はと、僕は思った。

 でも、朝からの情報の多さに脳が考えることを放棄したようだ。

 僕の脳はすんなりと受け入れることができた。


「はぁ、神様でいらっしゃいましたか、これは失礼しました、それと僕のこと覚えてくださっていたんですね、ありがとうございます。それでは失礼します」


 僕はオーバーヒートする頭を冷やすため、無理やり帰路につこうとする。


 しかし

「待つんだ、ここに来たということは何か思うことがあったんだろう?」

「なんでも相談しなさい、そのために来たんだ」


 僕の足はピタリと止まる。なぜかこの人に打ち明けたいと思ったからだ。

 自分でも本当になぜかはわからない。もしかしたら、誰であっても聞いてほしかったのかもしれない。この抑えている心を開放したいのかもしれない。

 いや、だとしてもあったばかりの自称神様に,,,もしかしたらこの機会を狙った新手の犯罪かもしれない。それでも,,,僕は。僕は,,,


「,,,」

「なら,,,聞いてもらってもいいですか」


「あぁ、もちろん」


。。。


「,,,ッえぇ!?神様男の方だったんですか!?てっきり女神かと,,,」


「まぁ間違うのもしょうがない、ぼくたち神は結構人間基準的には容姿が優れているからね」


 あれから一時間ほど、近くにあったベンチで僕達はたわいもない会話をしていた。

 正直、神様というのは半信半疑だが、それでもそれなりに楽しい時間を過ごしていた。


「それで、いろいろ反れちゃってここからが本題なんですけど神様」


「あぁ言いたまえ言いたまえ」


「僕が一年の時に同じクラスだった子に告白をしたいんですが、それができてなくて,,,それが、それだけが心残りなんです、まぁ今はクラスも離れてあまり話せてはいないんですが,,,」

「このままじゃ、死んでも死に切れません!」


「なんだよそれー告白すりゃぁいいじゃん、それともあれか?勇気が出ないのか?」


「勇気、ですか?別にビビってるわけじゃないんですけど,,,なんかその、もうちょっと気を熟そうとしてたら、こんなことになっちゃって,,,それで気を逃したというか,,,」


「こんなこと?」

「知らないんですか?隕石ですよ、い ん せ き。明日で世界終わっちゃうんですよ」


「ん?あぁ~あれか」


「みんなもう、パニックですよ、ほら、あそことか自分の家燃やしてキャンプファイヤーしてますよ、世も末ですよ、あっもう末でしたね」


 ここは山の方にある神社、下の方はよく見える。


「明日世界が終わるから、()()()()のかい?」


「いや、だってそんな死ぬ間際に告白されたって迷惑じゃないですか」


「それだと、君の心はどうする?」


「どうするって,,,我慢するしか」


「それじゃあだめだ」


「じゃあどうしろっていうんですか!」


「言えばいいじゃないか」


「そんな無責任な,,,」


「いいじゃないか!無責任!誰だって人に迷惑はかけるさ、だって自分の思いどうりに生きているんだからね、だから!人を愛す気持ちは殺しちゃいけない、愛し愛され我がままに、結構結構!それでいいじゃないか!」


「は、はぁ,,,神様の話は次元が違い過ぎてよくわからないです,,,」


「いいかい、誰かを愛することに歯止めをかけてはいけない、これは覚えておきなさい」


「っわかりました」


 神様のものを言わせない、豪快な態度に僕は神秘的なものを感じた。それこそ、本当にこの人は神様なんじゃないかと思うほどに強烈に。

 今の会話に何か深く納得するところがあったかと言われれば謎ではあるが、それでも僕は,,,


 前に進もうと思った。


「神様!僕告白!今からしてきます!,,,なのでお願いがあります」

()()、どうにかできますか」


 僕は冗談半分に聞いてみる。

 

「余裕」


「ふふッ,,,なら!お願いします!」

「ありがとうございました!それでは神様!」


。。。



 友達の伝手を使って彼女の連絡先と住所を知った僕は彼女に連絡をする。

 今から会いに行っていいかと。

 帰ってきたのは、いいよ、ととても短い言葉だけだった。

 それでも僕はガッツポーズを決めて彼女の家へと向かう。


 彼女の家の前についた僕は呼び鈴を鳴らす。

 ガチャっとドアを開け出てきた、彼女の目の周りは化粧でも隠せない程赤く腫れていた。

 それでも僕は、ニコっといつものように笑って、


「急に連絡してごめんね、忙しいだろうに時間まで作ってもらって,,,でもそうまでしても君に言いたいことがあったんだ!」


 僕の一方的な喋りにきょとんとしている彼女、いやもしかしたら、こんな終末にバカみたいに笑っているのが、不思議なのかもしれない。


「包み隠さず言おう!君のことが好きだ!一年の時から、ずっと!今も!」


 もしかしたら、ご近所さんにも聞こえているかもしれない。でもこの声の大きさが、僕の好意の大きさだから,,,もう隠したりはしない。


「この続きは、また明日言わせてほしい」


 彼女はとても驚いている。


「明日の午後5時、山の神社まで来てほしい」

「そこで、僕のありったけを伝える、だから,,,どうか、そんなに暗い顔をしないでほしい,,,絶望しないでほしい、明後日もその次もその次の日も、必ず来るって、そう信じて、希望を捨てないでくれ!」

「みんなは、明日の午後5時なんか来ないと思ってるけど、僕は来る!そう信じている!」


 そういって、僕はこれまで以上のとびっきりの笑顔を見せる。


 しかしまぁ、この光景を彼女はどう捉えるだろうか。

,,,ただの、楽観主義者のバカだろうか、変に期待を持たせるほら吹きだろうか、彼女の目に僕はどう映っているのかはわからない、でもただ一言、

「帰って」と。

 その言葉には、哀気も、怒気も含められているように感じた。

 しかし、彼女に告げられたただ一言にも、僕は笑顔を忘れなかった。





 その後、家に帰った時にはとても怒られた。最後に頭がおかしくなって奇行にはしったのではと思われたようだ。


―――ちゃんと連絡はしたのに,,,


その夜は家族で寝ずに過ごした、今までは出来なかった家族でのゲームなんかもした。

 とてもとても新鮮で、うれしかった。

 この状況に感謝するほどに。

 父と母はことあるごとに、泣いていたが、僕は一切泣かなかった。

 未来は続く、とそうなぜか確信してやまないから。

 あんなただの口約束なのに、自称神様なのに,,,

 なぜだろうか?考えるとますます面白おかしい気分になった。

  

 次の日の10時ごろ僕は家の屋上にいた。

 両親は、死ぬのなんて初めてだから、どこにしようかしらなんて言って、死に場所を探し中だ。

「おぉでけぇー」

 規格外の大きさ、こんなものが上空に広がっている姿は見たこともない。

 いつもより気温も少し高い。

 僕はこうやって、空を見上げて、神様がどうするのかを見ている。

 

 おっと運命の瞬間は何の前触れもなくやってくるようだ。

「たーまやー」

 空に広がるそれは、人生で、一番大きく、それはそれはきたねぇ花火だった。





 約束の五時まえ、僕は神社への階段をのぼる。

 隕石騒動のすぐ後に、待ってましたと言わんばかりにぽつぽつと振ってきた雪が足場を悪くしている。

 僕はこけないように注意して階段をのぼりきった。

 あたりを見回すと参道のはずれに人がいるのが見えた。


「おぉーい、さくら」


 普段は名前で呼んだりはしないが、この時の僕のテンションは上がりに上がっていたのでつい呼んでしまった。

 雪景色を背景に振り向き揺れる彼女の茶色の髪の毛。

 僕は足早に彼女のもとへ走る。

 二人の距離は一メートル、彼女は昨日の僕の言葉どおり僕が伝えるのを待っていてくれているようだ。


 『愛は殺しちゃいけない』


 なんて声が聞こえた気がする。

 さぁ言おうか。


「来てくれてありがとう」

「,,,,,,僕の気持ちは昨日と一切変わっていない!君が好きだ!だから,,,!ッ付き合ってください!」


 彼女はとびっきりの笑みを浮かべて

「喜んで」と。

 その言葉を聞いたとき、僕の世界は幻視でもなんでもなく一段と鮮やかになった。



 それからは色々な話をした、どうして大丈夫って分かったの、とかどうしてあんなに自信満々だったの、とか。

 僕は一言。

「神様のおかげかな」

「はぐらかさないでよー」

 適当には言ってないけれど、結局最後まで信じてはもらえなかった。

 それからもしばらく二人で話して、



「神様、ありがとうございました」

 僕はそう言い残し、今度は二人で階段を下る。



月日は経っても、僕は変わらず甘えん坊の腑抜けで、何かがあるごとに神様がいた神社へと足を運んでいた。


「神様!彼女と喧嘩してしまって口もきいてくれないんですよ!助けてくださいー!」


。。。


「神様!彼女とあれから仲直りはできたんですが、交際一年目に何を渡せばいいか迷っててもうずっと悩んでるんですよ!お助けー」


。。。


「神様!前回はありがとうございました!神様をイメージした、金色の花束を渡したら喜んでくれました!でもね!今大学受験で悩んでて,,,」


。。。


「神様!僕、就職できましたよ!しかもなんとあの〇〇大会社!すごいでしょ!」


。。。


「神様、そろそろ結婚指輪を買おうと思ってて、でも結婚式のためのお金も貯めたいんですが,,,でもでも!結婚指輪は給料の三倍,,,あぁ!僕はどうすればぁ!」


。。。


「神様!前は助かりましたよ、僕普段ギャンブルとか絶対にやらないいんですけど、あの時気まぐれに買った宝くじでまぁまぁの額が当たりましてね、おかげでいい挙式をあげることができました、それとは別なんですが子どもの名前を,,,」


。。。


「神様、子供が三人目なのですがあと二人は欲しくて,,,そうですよね、止まっちゃいけませんよね」


。。。


「神様、こどもが安定の確証がない道へ進もうとしているんです、私はもうどうしたらいいか,,,」


。。。。


「神様、町もずいぶん変わってしまいました、神様はどうお過ごしですか,,,?」


。。。。。。


「神様、とうとう母も逝ってしまいました、別れとはこわい、ですね」


。。。。。。。


「,,,神様、最近はあまり通うことができず、申し訳ありません、わしももう足が動かなくなってきましてな,,,」


。。。。。。。。。。。。。。



 とある病院のとある病室にて


「,,,神様、そこにいらっしゃるのですか」


「久しぶり」


「おぉ神様お久しぶりでございます、あの神社にはもう何年も行けておらず、申し訳ありません,,,」


 ベッドに寝転んだ老人は、相も変わらず、しかし、意味は変わってしまって弱々しい。


「いいさ、別に気にしていないよ」


 数十年前まったく変わらぬ声で、穏やかにそこに降り立つ神様。


「それにしても、神様はお変わりないようで、出会ったときの美しいままでいらっしゃる」


「まぁ神は年を取らないからね」


「それは,,,大変ではございませんか」


「考えたことないが、大変ではないね」


「それは出過ぎた真似を,,,」


「いや,,,いい、君こそ怖くないのかい?死んでしまうんだよ、いなくなってしまうんだ」


「えぇえぇそれはもう、自分にこどもができた時から、考えておりました。最初はいつ考えても怖くて、父が亡くなった時には、もう震えあがってしまいました。けれど、こどもたちももう立派な大人になって、私も長く生きました、もういいかなと、最近は思っておりました。なので、怖くはありません、」


 その時、ベッドの脇で誰かがもぞもぞと動く。


「ん~んっ!?じいちゃん起きたのね!?今みんな呼んでくるから!」


 二十歳代くらいの女性が「ダっ」と病室から出てゆく。


「すみませんねぇ、騒々しい孫で、いくつになっても落ち着きがなくて、元気でいい子なんですがそこだけがねぇ」


「いいさ、付きっ切りでいてくれるなんて本当に優しい子じゃないか」


「ハハハ、ありがとうございます」

「,,,それで神様がいらっしゃったということは、私ももうお迎えでしょうか」


「あぁ今度こそ本当の終わりだ」

「,,,そうですか」


 病室にぞろぞろと団体が入ってくる。


「じいちゃん大丈夫か?」

「もう起きないかと,,,」

「気を強く持ってね」


 彼ら彼女らは病室につくなり()()のベッドを囲んだ。


「これこれそんなにいっぺんに言われても分からんよ」

「紹介します、息子、娘と孫たちそれとまだ小さいのはひ孫です」


「,,,?おじいちゃん誰としゃべっているの?」


「ん?こちらがおまえたちが小さいときによく話していた神様…」


「,,,君にしかぼくは見えないよ」


「そうでしたか,,,」

「,,,そしてこちらが妻の…」


「,,,僕にはそれは、写真にしか見えない」


「,,,そうでした、妻は私より先に,,,」


「「,,,,,,,,,」」


「「,,,,,,,,,」」


 だんだんと周りの音が静になってゆく。

 音も声さえも。

 その静寂の中にポツリとただ独り言のように


「,,,神様、来世というのはあるんでしょうか」


「ある」


「私も行けるでしょうか」


「行けるさ」


「怖くなったのかい」


「,,,多少ですね」


「いや、怖いというより、悔しい」


「悔しい?」


「最後に妻に会いたかった,,,」


「そうか」


「「「ッ!!??,,,ちゃん!!!」」」

「「「ッ!?」」」


 ………



「ねぇ,,かみさま,,,」


「ん?」


「さいご,,,に、ひとつ,,,おねがいしてもいいかな」


「いいよ、奥さんに会いたいのかい」


「「「!!!!!」」」

「「「だ,,,か先,,,いを!,,,やく!呼ん,,,き,,,!」」」


「きょうも,,,そとは、うる,,,さいなぁ、」

「それでね,,,かみ、さまちがう,,,んだ,,,べつにそうじゃなくても、いいんだ,,,もういちど、そう,,,もう、いちど,,,だけ...でいい、せかいを,,,いろどるような、あの、けいけんを,,,もういちど,,,したいんだ,,,おねがい,,,」


「どうして?」


「,,,そしたら,,,また、かのじょにかならず,,,あえる,,,から」


「君らしいな」

「あぁ約束しよう!」

「最も全能に近いこのぼくの名に懸けて!」


「あぁ、あり,,,ござい,,,す」


「それじゃあ、おやすみ」


「では,,,おやすみなさい,,,」


「「「「「ッッ!!!!?????」」」」」

「「「「「!!!!!!!」」」」」




 佐藤一郎(さとういちろう)享年89歳 1月29日没

 彼を知るものは、皆口をそろえて人のできた人物という。このことから分かる通り、友人、家族関係は良好であり、夫婦仲は近所でも評判のおしどり夫婦であったらしい。

 不幸にも、妻には先立たれてしまったが、大勢の遺族に見守られ89年という天寿を全うした。

 そんな彼に遺族たちの間でまことしやかにささやかれている逸話がある。

 それは、彼のいた病院の庭には多くの桜の木がある。

 もちろん彼の病室から見える場所にも桜の木は植えてある。

 彼が息を引き取ったその日、その桜の木には季節外れのさくらが、一輪咲いていたという。





「ここは,,,?わし,,,僕はいったい?」

 あたりを見渡せば、一面の白。

 その真っ白の世界で、茶色の髪が揺れるのが見えた。

身を焦がす恋愛、ぜひともやってみたいですね。

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