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――やってしまった、この俺としたことが――!


 ――やってしまった、この俺としたことが――!


 人類は高度な成長を遂げた。いや、現在も成長し続けている。しかし人間はどうだろうか。人間はその成長に伴った進化を遂げているのだろうか……。その答えは(ノー)だ――。人間が本当に環境に適合して進化し続けてきたのなら……、

 ――ブーツを履いた後になって玄関の鍵をリビングのテーブルに置き忘れたことに気付くなんて……ありえない筈だ――! あってはならぬ!


 まさか鍵を掛けずに外出なんてできない。であれば早急にリビングのテーブルまで鍵を取りに戻るのだが、そこで大きな問題に直面する――。


 四つん這いになって取りにいくか……片方だけブーツを脱いでケンケンをして取りにいくか……そのどちらかだ。土足で上がるのは論外だ。何を踏んでいるか分からない外用の履物で家の中を歩くなんて……靴を脱がずに体重計に乗るのと同じだ――!


 電車の時間にはまだ余裕がある。こういった想定外のトラブルが起こった時、余裕を持って対応できる「危機管理能力」が俺には備わっているから時間には問題ない。

 だから今は……考えろ……考えるんだ……。四つん這いかケンケンか。

 常識で考えれば四つん這いである。なぜなら、ケンケンの場合、片方の靴を脱がなくてはいけないからロスだ。……だが、俺はもう成人した立派な社会人、大人なのだ。誰も見ていないからとはいえ一歳児のようにハイハイをして玄関からリビングまで行くのは……、


 ――プライドが邪魔をしてできない――!


 もし自宅のどこかに隠しカメラがセットしてあったらと考えると、そんな恥ずかしい姿を誰かに見られる訳にはいかない! 

 しかも四つん這いは、なんか……屈辱的だ……。


 だとすると、もう一つの選択肢におのずと答えは決まるのだが、片方だけ脱いでケンケンするのにも問題がある。


 ブーツを脱ぐときに……確実に食われてしまう。靴下が。


 長めの靴下にすればよかったのに、今日に限ってくるぶしまでの短い靴下を履いてしまったのだ――。

 確実に食われる――!

 脱いだ後にブーツに手を突っ込んで裏返しになった靴下を摘み出し、裏を表に直してもう一度履き直すのがロスタイムでしかない。


 両方脱いだ場合のロスタイムは計り知れない――! 両方の靴下が丁寧に裏返ってブーツに食われてしまう……世間では「共食われ」とでもいうのだろうか……恐ろし過ぎる――!


 いや、背に腹は変えられない。今はいち早く片方のブーツを脱ぐことにしよう――。

 玄関で手を顎に当てて考え込んでいる間に……両方のブーツを脱いで鍵を取りに行けただろう。

 時間だけが無駄に経過していた。電車の時間が刻一刻と迫ってきている――。


 片方のブーツを脱ぐと……予想を裏切ることなく靴下がブーツの中で団子状態にくるまって脱げた。

 ……しっかり食われた……団子状態の靴下が……。

 ひと昔、「団子三兄弟」という童謡が流行ったことがあったが……、あの歌は最後に食われてしまうのだったかどうか……今はどうでもいい。

 ふた昔、「泳げたいやきくん」という童謡があったが……あれは最後に店のおじさんに食われたはずだ。……いや、食ったのはたいやきくんを釣り上げた漁師……の筈だ。

 海水でベトベトになったたい焼きを食べて、果たして本当に美味しかったのだろうか……。絶対に海水でしょっぱくて美味しくなかったに決まっている――!


 もし俺が堤防で釣りをしていたとして、たい焼きなんてものが釣れれば、それを食べたりするはずがない――!


 ――今はそんなこと、どうでもいいんだってば――!


 我を取り戻し片方のブーツを玄関に置き去りにしてリビングへとケンケンをした。

 運動不足を痛感させられる。昔は小学校から自分の家までケンケンをして帰れたものだ。……家が小学校の近くにあったからだ。まさか数キロもケンケンなんか出来るはずがない……。


 リビングの扉を開けると……、

 ――ない!

 たしかにテーブルの上に置いた記憶があるのに、鍵が見当たらないではないか――! これは……ことだ。やばさを感じる。冷や汗がもみあげを伝い落ちる。


 だんだん電車の時間に間に合うかが怪しくなってきた――。駅まで走らなくてはいけないだろう。

 ……ブーツでか? ブーツで走れるのか?

 答えは(イエス)だ。ブーツであろうがクロックツであろうが走れる。というか走る! 地味におじさん走りになっても仕方がない。

 ――走らなくてはいけない危機的状態に陥れば、人は必ず走れる生き物なのだ――。


 鍵がリビングにないのなら……二階の自室に置き忘れているはずだ。大切なものは必ず定位置に片付ける。これが物を失くさない大人の基本なのだ。基本は応用へと発展し、身の回りから会社の机の上まで整理整頓ができる大人、言わばエリートへと成長させてくれるのだ。



読んでいただきありがとうございます!

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