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ショートコメディ『〇〇くん』

ショートコメディ『何出くん』

作者: かげる

 人間、生きるってのは、あらゆる矛盾を、矛盾のまま当たり前のこととして受け入れるということ。結局、そういうことだったのかもしれない。誰かが〇〇だから、〇〇だなんて、わかったように言うけど、それで、〇〇をすることが当たり前みたいな論理的思考だと思わせようとしているみたいだけど。


 論理なんて、生きてるだけで既に破綻している。


 というか、論理より、イメージの方が大事なのだ。イメージさえ、重なればだいたいわかった気になれる。そう。彼だって、疑問には思わないはずだ。


()()()?」って。


 何で? それが何出くんの返事というか、合いの手を打つ時の、『うん』みたいなものなのだが。まあ、端的に簡単に言うと、口癖なのだ。彼の。


 先日。根暗で、おとなしめな私がいつもの挨拶をした時だって「何で?」って返してきたしな。挨拶しただけなのに『何で?』ってなんだよ。なんか、その場が気まずくなって、踵を返しちゃったよ。学校の教室から、自宅に踵を返したくなったよ。


『何で?』って言われると、途端に、なにを考えないといけないのかを、考えないといけないと思って、会話が途切れる。この人は、なにに向けて『何で?』と言っているのだろう、とわからなくなる。


 だいぶ前に、ニュースになっていたこんな話しがある。強盗が、レジの店員にナイフで脅してお金をせしめようと「金を出せ」と言ったらしい。しかし、店員は、(まだ強盗できてない)強盗に向けてこう言ったという。


「何で?」と。


 その先、どうなったかはまあ、私の挨拶をご覧いただいたら、なんとなく察してもらえると思う。彼に挨拶をするということは、()()()()()()なのだ。何で、と言われた人間は、会話の糸口を失い、これ以上こいつと会話しても話しが進まない。


 否、()()()()()()()()と思われることだろう。


 では、是非、ご覧いただきたい。この学校一の美少女と謳われた、清楚系、おとなしめの私が、何出くんに神聖なる挨拶をする儀式を。


 どうか、神の御加護が私だけにあってくれ。








 ある爽やかな朝。清楚系美少女の私は、校門を通り、校内に進出して行った。昇降口にある下駄箱に、シューズを入れる生徒がいた。何出くんだ。私は、意を決して、彼に近づく。挨拶をするために、ひかえめな私、校内一の美少女は近づく。


 そこで、彼の視線が重なった。


「何だ?」


 と疑問符をつけたように声がした。


 だから清楚系美少女の私は、ひかえめで大和撫子な挨拶にして返そうと――








「今日も、いい小春日和だね!!!!」







 きまった。すると、彼は、とても困惑したように無言になった。……沈黙が続いた。


 なぜ、無言なんだ。何だ、と言われたら、おはようよりも先に、言うことがある。それが大和撫子だ。もしや、何出くんはこの定型句をご存知でない? まさか。私のファンなら知っていて当然だし、私のファンが世間に吹聴してるから、知っているものだと思っていたけれど。


 しばらく、沈黙が続いて、終わった。


 彼の第二声はこれだ。







「何で?」






 ……これはどういう意味なんだ。なに対して、何で? と感じたのか。それが理解できない。私が『おはよう』よりも先に定型句を言ったからか。それとも、なんで自分に話しかけてきたんだ? 的な意味合いで言ったのか。わからない。わからないぞ。恐るべし、何出くん。手強すぎる。


 これは、強盗は手も足も出ない。


 疑問符しか出さないのか彼は。

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