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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

〜勇者パーティーは兵器使い!〜科学なんて役立たずの下等分野だと魔法教会が罵ってきたので、現代兵器の威力を転移軍隊として見せつけてみた

 

 ――――魔法王国レイド・ストラトス。


 魔法によって栄えたその国は、紛れもなく世界随一の国なのだろう。

 街のいたるところに魔導具が売られ、魔導士の保有数はトップクラス。


 当然騎士団もほとんどが魔導士だ。

 彼らを束ねるのは王国一大きい組織である『魔法教会レイド』。


 そんな彼らが魔法を誇り、世界一だと自負するのは考えてみれば当たり前。

 他文明を軽蔑していることにもっと早く気づくべきだったのかもしれないな。


「科学などという下等分野を使う蛮族と協力? 冗談も甚だしいですね、時代は魔法なのです。どこから来たかは存じませんがあなたたちは世界の癌なのですよ!!」


 ソファーから身を乗り出し、この街の教会支部長殿が罵倒を飛ばしてくる。

 怪しげなローブを纏い、背後には何人もの部下を引き連れている。

 対してこっちはたったの3人。


 完全に舐められているのだろう。


「我々が元いた世界では魔法なんてなかったものでして、ご容赦ください」

「魔法がない? ハルバードさん、あなたたちは随分とレベルの低い世界から転移して来たのですねぇ。そんな世界の軍人などたかが知れてるというもの――――サッサと冒険者ギルドで低レベルクエストでも受けてきたらどうです?」


 あーダメだ埒があかん。

 俺はキレそうになっている部下を連れて、決裂した交渉を背に教会を出た。


「よろしかったのですかハルバード中佐? あのようなローブ野郎に好き勝手言われて......」


 聞いてきたのは顔の整ったイケメン男ことスカッド大尉。

 その腰には9ミリ自動拳銃があった。


「よせよせスカッド大尉、今ヤツらとことを構えても無意味だよ。まずは食い口を探さなくては」


 俺がキレかけだったスカッドをなだめていると、今度は完全にキレてしまった女性兵士が俺の右から言葉を飛ばしてきた。


「でも納得いきませんよ! あームカつく! あのローブ野郎にはバレット対物ライフルをぶち込まなきゃ気が済みません! それがダメならHK417の7.62ミリ弾で――――」

「おい待て待てエミリア! 君の気持ちはわかるがまずは金だ、連中の言うとおりまずはクエストとやらを受けてみようじゃないか」


 顔を膨らませる16歳の女性兵士を落ち着かせ、俺たちはまず冒険者ギルドとやらへ向かった。


 そう、我々3人は異世界からの転移者。

 本来の所属はテオドール帝国陸軍 第315特殊作戦軍――――特戦第2小隊所属の特殊部隊員である。


 このファンタジーな世界に転移したのは、ちょうど軍の演習がある日だった。

 俺と部下2人で今日使う銃や弾薬の様子を見に行ったら、なにが起きたのだろう......武器をたんまり載せたトラックごと綺麗な草原に立っていたのだ。


「はい?」


 吹き付ける爽快な風の中で、俺たちは正気を疑った。

 当然だ、軍の演習場からいきなりこんな草原にいたのだから。

 見れば、奥には中世くらいの巨大な町並みとお城らしきものまで見える。


 そういえば最近、秋津国という極東の島国平和国家でライトノベルなるものが流行っていたので読んだことがあった。

 それの状況と重ね合わせるなら......。


「スカッド大尉、エミリア。我々3人はどうやら......異世界へ来てしまったようだ......」


 どう考えても流行りの異世界転移というやつ。


 そしてこう見えても軍人である。

 まずはトラックが動かせるかチェック、エンジン諸々の無事を確認した俺たちは次に積んであった武器を調べた。


「『バレット対物ライフル』、動作問題ありません」

「こっちもです中佐、『M4A1』はアタッチメント含めて全部無事です」


 部下いわく武器は大丈夫。

 だがひとまず街へ向かおうとした俺たちは、さっそくこの世界の洗礼を浴びた。


「正体不明生物接近! ......はぁッ!? なんやねんアレ!!」


 エミリアが滅多に出さない秋津国の方言で叫んだのである。

 つまりよっぽどのこと。

 俺は急いでM4ライフルに付いた4倍スコープでそいつらを見つけた。


「あれはゴブリン!? 空想上の生き物じゃないか!!」


 しかも連中、手に弓やら棍棒やらを持ってこっちへ突っ込んできている。

 物騒極まりない! 俺はスカッドにトラックの運転を命じるとすぐさま車上へ登ってうつ伏せに伏せた。


「スカッド! 目の前の街までとにかく突っ走れ!! エミリア! マークスマンライフルで牽制しろ!」

「了解!」


 トラックの発進と同時に撃ちまくる。

 揺れで少し狙いにくいが、この程度なら問題ない。

 俺のM4ライフルは小気味よいリズムで5.56ミリ弾を発射し、エミリアもまた7.62ミリクラスのマークスマンライフルで何体かのゴブリンを撃ち抜いた。


 そうしてやっとのことで街へ到着し、旧世界の共通語が通じたので街の人に聞いたところ――――


「だったら魔法教会に行ってみるといいよ、あそこは色んな魔導士を斡旋しているからね。君たちの乗ってるそれも魔導具だろ? きっと受け入れてくれるよ」


 っというありがたい言葉をもらったのでいざ教会へ行ったのだ。

 しかし、待っていたのは......。


「科学などという下等分野を使う蛮族と協力? 冗談も甚だしいですね! 時代は魔法なのです! どこから来たかは存じませんがあなたたちは世界の癌なのですよ!!」


 まったくもって信じられない罵詈雑言だった。

 どうやらこの教会は魔法至上主義らしい。

 俺たちの話をいくらしたところで、きっとわかってもらえないだろう。


 こんな流れで、俺たちは冒険者ギルドを訪れることとなった。


「2人はトラックの見張りを頼む、積み荷の銃だけは絶対に盗まれないように」

「了解!」


 手続きとか大丈夫だろうか、身分証明書とか資格とかいるんだろうかと正直気が気じゃなかったが、その心配は杞憂というやつだった。


「あなたの職業は......『空間魔導士』? 初めて見るジョブですね」


 ん? 空間魔導士?

 なんだそれは、職業って軍人とかじゃないのか?


「あの......、それってどういうヤツなんでしょう」

「すみません、こんなジョブはわたしも初めて見たもので......」


『空間魔導士』という謎の単語に困惑していると、いきなり後ろから声が掛けられた。


「おい兄ちゃんお前らだろ? さっき魔法教会で科学がどうのなんてアホなこと抜かしたのは」


 振り向けば、体格の良さげな男たちが杖を持って後ろに立っていた。

 なるほど、魔法教会の情報網とやらは迅速らしい。


「そうだが......なにか?」

「いやなに、ついでだしお前らがゴブリン相手にぶち殺されるところを拝もうと思ってな。さっさとクエスト受けろよ」

「......知らない方がいいことも世にはあるぞ?」

「バカは威勢だけはいいな、いいぜ。だったら俺の炸裂魔法と勝負してくれよ」


 男はクエストボードから紙を引き剥がすと、こちらへ持ってきた。


「上位種ゴブリンがそこの平原をうろついていてな、どっちが先に5体倒せるか勝負してくれよ」

「ギャッハッハッハ! リーダーそりゃ可哀想だぜ、こんなわけわかんねえヤツに上位種あてたら瞬殺されちゃうぜ!」


 大はしゃぎする取り巻き。


「少し準備がいる。先に平原へ行っといてくれ」

「よし、じゃあ20分後に西ゲートで集合だ。せいぜい早く準備するこったな!」


 それだけ言うと、男たちは駆けていってしまった。

 西ゲート......確か俺たちが最初に入ってきたところだ。

 徒歩で20分以内となると今から全力疾走でギリギリ、おそらく最初からこっちを遅刻させるつもりなのだろう。


 ギルドを出て、俺はトラックに戻った。


「どうでした中佐?」

「よくわからん勝負を受けることになった、トラックは出せるか?」

「燃料は一応まだありますが、補給の目処が全然たっていませんよ......?」

「どうせ長持ちせんよ、こういう序盤はスピードが命だ。最悪トラックは破棄することも考えよう」

「了解」


 連中は今頃徒歩で必死に西ゲートに向かってるのだろう。

 お気の毒様である。

 トラックのエンジンが力強く掛かり、すぐさまタイヤが回転を始める。


 大通りを高速で疾走するトラックの荷台で、俺とエミリアはゆっくり弾込めをさせてもらった。


 ◆


「なっ......、なんで!?」


 トラックの前でくつろいでいた俺たちは、大汗かきながら西ゲートをくぐった冒険者たちを迎える。


「やぁ冒険者諸君、遅かったじゃないか」

「ありえない! こっちはお前らより先に――――しかも風の精霊魔法まで使って走ってきたのに......なぜお前らの方が先に!」

「君らの魔法よりトラックの方が優秀だったということだよ、さぁ......始めようか」


 トラックから今回使用する武器を降ろす。

 草の上のシートに置かれたのは使用準備万端の銃。


『HK417』マークスマンライフル。

 および『SCAR−L』高性能アサルトライフルであった。


「お先にどうぞ」

「ふん、ちょっと上手くいったからって調子に乗りやがって。今からが本番だ」


 男たち4人は杖を掲げると、なにやら詠唱を開始。

 80メートルくらい先のゴブリン3体へ魔法とやらを発動した。


「『ブラスト』!!」


 途端、ゴブリンが地面ごと爆発したのだ。

 威力にして手榴弾4つ分くらい。

 なるほどこういうものなのか......。


「ハァッ、ハァッ......どうだ。上位種が1発だぜ」


 4人共すっかり息を切らしている。


「わかったか? 銃なんて魔法の下位互換なんだよ、俺たちの炸裂魔法の方が実際強いじゃねーか」

「どうかな」


 俺はシートから銃を持ち上げた。

 長いハンドガードにはアクセサリー用のレールが付き、弾薬の20発入ったマガジンを下から差し込んだ。


『HK417』。


 この銃は、中距離において高い性能を誇るマークスマンライフルだ。


「お前たちの戦果は3体だったよな」

「だからどうしたってんだよ!」


 チャージングハンドルを引いて初弾を薬室チャンバーへ送り込む。

 次いでバイポッドで銃身を安定させると、倍率スコープを覗き込んだ。


「それがお前らの魔法の限界だ」


 ――――ドォンドォンドォンッ!!!――――


 音速で撃ち出された7.62ミリ弾が、700メートルは離れたゴブリンを一瞬で撃ち抜いた。


「はっ......、はああぁぁぁああああ!!!!????」


「次、11時の方向、丘陵きゅうりょうの上」


『SCAR−L』を持ったエミリアが、双眼鏡でスポッターを担当してくれる。


 淡々と事務作業をこなすかのごとく、『HK417』は火を吹き続けた。


 ガチンッ!


 ボルトストップが掛かり、銃が全弾撃ち尽くしたぞと教えてくれる。


「11体の死亡を確認、まだやりますか中佐?」

「いや、もういい」


 振り向けば、足を震わせる冒険者たちがいた。


「なっ、なんだよ......今の」

「あんな遠方のゴブリンを一瞬で10体も......? うっ、嘘だろ」

「最上位魔法でもできるか怪しいぞ、こんな連中に勝てるかよ!!」


 示威行動は十分だったようで、冒険者連中は捨て台詞すら吐き忘れて街へ帰っていった。

 さて、俺たちもクエストをクリアしたしギルドに戻るか......。


「ハルバード中佐! こっちへ!」


 慌てたような声が聞こえてくる。


「どうしたスカッド」

「中佐、今確かに20発撃ちましたよね?」

「撃ったがどうした、もう弾がないのか?」


 どこかうろたえるスカッドは、ゆっくり口を開いた。


「それが......、消費したはずの弾薬が戻ってるんです」

「なに?」


 見れば、確かにマガジンの数が撃つ前と同じに戻っている。

 それだけではない、スカッドの話によればトラックのガソリンまで元に戻っているというのだ。


 ふと、ギルドで言われたある言葉を思い出す。


「なるほど......、これが『空間魔導士』の能力というわけか」

「『空間魔導士』? なんですかそれは」

「ギルドで言われた俺のジョブらしい、理屈はわからんが消費した弾薬やマガジン、燃料まで自由に補充できるようだ」


 もしかすると本国から直接取り寄せているのか?


 だがこうなってくると話は変わってくる。

 節約から一転、このファンタジー世界ではオーパーツもいいところの火力と機動力を手に入れてしまったのだから......。


 ◆


「お疲れ様ですハルバードさん、まさかあの冒険者の人たちに勝っちゃうなんて思いませんでした」


 ギルドに戻った俺は、受付で上位種ゴブリン討伐の報酬を受け取っていた。

 あの冒険者連中は途中で逃げ帰ってしまったので、あいつらが倒した3匹分も貰っているのはナイショである。


 許せ、これも3人分の食料を確保するためなのだ。


「ではハルバードさん、これがあなたの『ステータスカード』です」


 俺は受付のお姉さんからなにやら妙なアイテムを貰った。


「これは?」

「はい、これは冒険者なら誰もが持ってるものでして、簡単に言えば自身の能力を確認できる魔導具です」

「ほぅ、じゃあこれに書いてある数字は俺の現在のステータスってことか」

「そうなりますね、加算された経験値やレベルなども見ることができます」


 受付さんの説明は親切そのものだった。


「なるほどね〜」


 さっそくステータスを確認する。


 ――――――――――――

 イグニス・ハルバード 職業:空間魔導士。


 スキル:射撃の心得、近接戦闘の心得、空間アイテム操作。


 身体能力:

 攻撃力A

 スピードA

 魔法力B

 武器の扱いS

 魔法力C


 クラスレベル21。

 ――――――――――――


 レベルは21か、さっきのゴブリン戦で上がった分だな。

 で、この『空間アイテム操作』とやらで弾薬の補給ができてる感じっぽい。

 大体わかった。


 俺は少なくない報酬金に加え、スカッドとエミリアの分の『ステータスカード』も貰った。

 そして、ふとクエストボードの方を見る。


「随分と討伐クエストとかいうのが多いんだな」


 俺の問いにギルドのお姉さんはため息混じりに返す。


「そうなんですよ、ここのところ上位モンスターが多くて駆除が全く進んでないんです。敵が強いから冒険者さんたちも街に引きこもっちゃって......」

「なるほど......」


 倒せば倒すほど上がるレベル。

 いくら撃っても減らない弾薬と銃。

 そして信頼ある部下たち――――


 この世界で圧倒的優位性を得るために、長年の"ある夢を"叶えるために俺は1つの決断を下した。

 クエストボードに近づき、バンっと叩く。


「ここのクエスト――――全て我々が受けよう!」


 ギルドに俺の声が響いた。


 ◆


 俺たちはひたすらに高レベルモンスターを狩った。

 ゴブリンロード。

 オークロード

 ジャイアント・オーガ他諸々。


 弾薬は無限に手に入るので火力演習よりも派手に撃ちまくった。


《ギルドのクエスト全部受けるなんて中佐はイカれてますよ!》


 小型無線機越しにスカッドが叫ぶ。


「ハッハッハッ! この世界ではどうも強さと金が全てらしいからな、俺の理想を実現するのにうってつけだ!」

《前の世界で中佐がずっと呟いていたことですか?》

「そうだ! せっかく軍務から開放されて異世界に来たのだ! たんまり金を稼いで異世界ほのぼのスローライフを送るぞ!!」


『ベネリM4ショットガン』をグレムリン・ロードへ撃ちまくる。

 この銃はガス圧利用方式なので、いちいちスライドを引かなくても連射ができる。

 非殺傷弾も必要があれば撃てるし、有能でストックもかっこいいお気に入りの銃だ。


 前世界の特殊作戦軍時代にも重宝していた。


「あぁーもうこのスライム多すぎ! いくら撃っても減らへん!」


『SCAR−L』を撃っていたエミリアがまた方言を漏らす。

 俺たちは上位種キマイラの討伐を終えて、ギルドへの帰還中スライムに遭遇していたのだ。


《掩護いりますか?》


 スカッドの問いに。


「いやいい、トラックで待っててくれ。これくらいなんとかするさ」

「了解です中佐殿」


 俺は何もない空間に手を伸ばした。


「『開放オープン』」


 俺の手へショットシェル(ショットガン用の弾)が落ちてくる。

 掴み取ったそれを素早く銃へ装填し、再びスライムへ向け撃ち放った。


 ゼラチンっぽいそれは粉々に吹っ飛び、ステータスカードに経験値が加算される。


 レベル30で覚えた空間魔法、『格納庫ストレージ』。

 大量の弾薬や食料を異空間に格納でき、いつでも取り出せるというものだ。


 これを習得してから狩りの効率はさらに上がった。


「トラックが見えた! 飛び乗れエミリア!」

「了解!!」


 俺に続き、トラックの荷台へ『SCAR−L』のストックを折り畳んだエミリアが飛び込んでくる。


「よし! 出せ出せ出せ!!」


 追いかけてくるスライムの波からトラックはグングン遠ざかった。


 そんな感じで周辺の敵対モンスターをありえない速度で狩り続けた結果だろう、俺たちはいつしか街中で話題になっていた。


「もしかしてあいつら......、伝説の勇者パーティーなんじゃないのか?」


 俺たちのレベルが90を突破しようとしたあたりだろう。

 そんなささやきがあちこちから聞こえ始めた。


「勇者パーティーですって中佐」


 エミリアの茶化すような声に。


「やめてくれ柄でもない、俺たちはモンスターを狩って平穏に暮らしたいだけだ。勇者なんて死んでもゴメンだね」

「ですが中佐、あまり平穏をという訳にもいかなそうですよ」

「なに?」


 報酬金を貰ってギルドから出た俺たちの前に、いかにもな鎧を纏った集団が立っていた。


「どちらさまかな?」

「俺は『魔法教会レイド』の魔法騎士小隊長グリムだ、お前らだな......ギルドのクエストをたった1パーティーで制覇しようとしているのは」

「それがなにかな?」

「なにかではない! 貴様らがクエストを受けすぎているせいで秩序が乱れているのだ!」


 魔法教会......、そういえば科学は野蛮だどうたらなんて言った奴らがいたっけ。


「クエストは元々持て余していたようだし、どっちみち冒険者たちは引きこもっていたんだろう? 俺たちが上位種を狩ってるから初心者冒険者がクエストに出やすいと好評も貰ってるぞ?」

「そんなことは関係ない! 貴様らは銃などという野蛮な武器でクエストをクリアしている。そんなことは認められない!」


 ははーんそういうことか。

 要はこれはただの難癖なのだ、邪険に扱った俺たちが活躍していて困っているのだろう。


「どうしてもクエストを受けるというのなら、実力行使も視野に入れる」

「ほぅ、つまり?」

「俺と決闘してもらう、そして徹底的に痛めつけてやる」


 なんとも物騒で野蛮な発想だがここは異世界。

 こういうこともあるのだろう。

 俺はエミリアとスカッドを後ろに下げ、騎士と正対した。


「いつでもどうぞ?」

「威勢だけはいいな蛮族め、こうべを垂れて祈る準備はできたか?」


 剣が抜かれる。

 かなり使い古されており、この騎士もそこそこ強いのだと察せる。


「グリム様のレベルは教会でも随一の"50"だ、あんな蛮族に負けるはずねえぜ」


 後ろの騎士たちが大笑いしている。

 俺は右腕を横に伸ばした。


「あー観客の皆さん、彼の後ろには立たないでくださいね」


 スカッドとエミリアが、グリムの後ろにいた人間を横に逸らす。


「それでは決闘を開始します! 3――――2――――1......始めッ!!」


 ――――ダァンッ――――


 ストレージから取り出した『ベネリM4ショットガン』を決闘開始0.5秒で発砲。

 剣を構えていたグリムの鎧へバックショット弾が直撃し、真後ろへ吹っ飛ばした。


「がぁっ......!?」


 倒れ込むグリム。

 10秒ほど沈黙が降りたあと、カウントをしていた騎士が震えながら俺へ手を指した。


「ぐ、グリムさん気絶......。ハルバードさんの......勝利?」


 騎士たちが絶叫する。

 しかしあれで気絶で済んでるとは相当頑丈なやつだな、鎧のせいだろうか。

 いずれにせよ、くだらない勝負を終わらせた俺は早々に部下のところへと向かう。


「あの人たちバカなんでしょうか?」


 エミリアの辛辣な意見。

 そこに、スカッドがため息混じりに続ける。


「全くだ、中佐殿は前世界の紛争地域派遣において敵だった反政府ゲリラ組織の7個中隊を、指揮する1個小隊で倒した帝国最強のお方。剣や鎧の騎士じゃ相手にもならん」


 そういえば前世界ではそんな呼ばれかたもしたな......。

 紛争派遣なんてクソッタレもいいところなので思い出さないようにしていた。


「っというわけだ魔法教会諸君、我々はこれにて失礼させてもらう」


 恨みつらみを諸々混ぜたような騎士たちの目を背に、俺たちはギルドを去った。



 ◆



 クエストで得た大量の報酬金を使い、俺たちは王都ではごく一般的らしい木組みの家を借りることができた。

 内装は申し分なく、3人で暮らすには十分過ぎる。


 エミリアなんて、はしゃぎすぎて扉の角に足の小指をぶつけて思い切り悶絶していた。

 ちなみに、この小指激突事件がこの世界初の負傷事故でもある。


「全くバカかお前は、帝国特殊作戦軍の人間がみっともないぞ......」


 市販の回復ポーションを布に染み込ませ、腫れたエミリアの小指に当ててやる。


「だって嬉しかったんやもん〜! シェアハウスでもこんな木組みの家住むの初めてだったんですし!」


 半泣きになるエミリア。

 彼女は子供っぽい......というか、年齢はまだ16なので立派に子供だ。

 戦闘センスや適応能力があまりに高かったので特殊作戦軍入りできたらしい。


 もっとも、そんな彼女もこうして抜けてる面があるので俺やスカッドが面倒見てやらんといかんのだが。


「それより中佐、連中本当に来ますかね......?」


 窓の外を見るスカッド。


「あぁ来るさ、間違いなくね」

「断言できるだけの確信があるのですね......」

「紛争地でなんどもあったからね、ああいう連中は面子をなにより重んじる。スカッド、"アレ"の準備をしといてくれ」

「了解」


 特殊作戦軍の同期たるスカッドは非常に頼りになる。

 そして、案の定というか数日後の深夜――――俺たちは奇襲を受けた。


 ◆


 それは夜の0時半、夜襲にはピッタリの時間だった。


 ――――ガチャ――――


 おそらく高度な魔法、掛けていたはずの鍵が開けられた。

 だが人の姿は見えず、足音だけが響いた。


 ハルバード中佐たちの住む家に侵入したのは、紛れもなく魔導士である。

 彼らは透明化魔法を使用しており、肉眼での視認は不可能。

 手に持っている剣や杖すら透明化していた。


「リビングはどうだ?」

「いないぞ」

「なら寝室だな......、行くぞ。寝込みを襲う」


 階段を登って2階へ......。

 魔導士たちは"視認できない"という圧倒的アドバンテージを信じ切っていた。


「寝室はここだな、世界の癌め......今日ここでその命を断ってやる」


 ドアノブに手を掛ける。

 彼らは気づかない、いかに体を透明化しようと......。


 ガチャ。


 "体温までは消せないということを"。


「こんばんは、魔法教会レイドの騎士諸君」

「なッ......ぐあぁッ!!?」


 寝室に入ってすぐ、部屋の角から挨拶と共に魔導士の脇腹へ衝撃が走った。


 ――――――


 透明化で完全に慢心していたのだろう。

 呑気に寝室に入ってきた魔導士たちは、帝国軍の『高性能サーマルスコープ』によって丸見えだった。


 外にいたスカッドがレイドの魔導士部隊を確認、寝室で角待ちしていた俺は入ってきたヤツに『ベネリM4』の非殺傷弾を脇腹へ食らわせてやったのだ。


「エミリア!!」


 合図を出す。


「了解!!」


 隣の部屋から廊下へ飛び出したエミリアが、素早く残り3人の魔導士へ肉薄。

 CQC(近接戦闘術)によって瞬く間に薙ぎ払い――――


 バスッバスッッ!!


 サプレッサー付きの『SCAR−L』で杖や剣を破壊する。


「こっ、このアマがああぁ!!!」


 杖を失った魔導士が激昂して襲い掛かろうとするも、すぐ後ろの扉から出た俺がフードを掴んで床へ引き倒す。


「おっと、女性には上品に接するべきだよ、魔導士くん」

「んが! ぎゃあっ!!」


 非殺傷弾を両足へ撃ち込む。

 これで彼は追撃などできないだろう。


「全く......、襲ってきた敵は殺すななんて危ない命令やわ。一歩間違えたらこっちが死んでまう」

「ごめんごめん、だがエミリアはよくやってくれたよ。あとは俺とスカッドに任せてくれ」

「はーい」


 エミリアに倒れてる連中の拘束を任せ、俺は外の通りに出た。

 そこには、スカッドの報告どおり何人ものレイドの騎士がいた。


「こんばんは紳士諸君、夜襲だなんて随分と物騒じゃないか」

「バカなっ、透明化魔法を使った精鋭魔導士を送ったはずだぞ!」

「そうやってすぐ魔法におごった結果だよ、まぁ安心してくれ。全員生きてる。そっちが引いてくれるならお返しするよ」

「舐めやがって......! 貴様ら異世界の蛮族に我々レイドは屈しない! こうなったら......!」


 リーダー格であろう彼は、結晶を地面に落とした。

 魔法陣が浮かび、地面から異形の怪物が現れた。


「上級召喚獣のクリムゾンドレイクだ! 街がどうなろうと知ったこっちゃない! 貴様らごと家もなにもかも消し飛ばしてやる!!」


 はぁっ、っとため息をつく。

 こんな奴らが幅を利かせているとはなんて物騒なんだ......、くだらないイチャモンでよくもまあここまでできるもんだ。


「さあクリムゾンドレイクよ! 目の前の蛮族を燃やし尽くせ!!」

「ガアアアァッ!!!!」


 クリムゾンドレイクが口に炎をたくわえる。

 意気軒昂になっているレイドの方々へ、俺は仲間に繋がる無線をオンにしながら話す。


「暴力とは......適切な権力の下、適切な管理化に置かれるべきだ」


 周囲の温度が上がり、火の粉がちらつく。


「科学とはなにか、国とはなにか、軍事機構とはなにか......。思い知れ――――魔法世界の住人よ。......やれ」


 召喚されたクリムゾンドレイクの首から上が消し飛んだ。

 遅れて、大砲のような轟音が響き渡る。


「なっ......?」


 崩れ落ちる召喚獣。

 レイドの騎士たちは、どうしようもなく混乱した。


「『12.7ミリ対物ライフル』による長距離狙撃だ、人間なら掠っただけで腕をもっていかれるエゲツない武器だよ」


 クリムゾンドレイクを撃ったのは俺と同じかつて帝国最強と謳われた狙撃手、スカッドだ。

 彼のこの世界でのジョブは『アーチャー』。

 圧倒的な射撃スキルと索敵スキルにより、スポッターなし、さらには初弾命中など当たり前かのようにこの世界でさらに腕を上げたのだ。


「最初から最後まで動向は全部把握していたよ。スカッドに狙撃ポジションへ着かせ、君たちの突入を逐一報告させて室内戦へ持ち込んだ。最初から勝ち目なんてなかったんだよ」


 ――――ドオオンッ――――!!!!


 クリムゾンドレイクの胴体に大穴が空き、とうとう召喚獣は光となって消える。


 とてつもない狙撃手と対物ライフルを前に、騎士たちがリーダー格を置いて逃げ出す。

 へたり込んだそいつを前に、俺はストレージから予備の非殺傷弾を取り出し装填する。


「やっ、やめろ! そうだいくら欲しい!? せっかくならギルドのクエスト優先権もくれてやるぞ!? 俺の権力ならそんなのいくらでも――――」

「残念ながら我々が欲しいものはそんな物騒なもんじゃない」


『ベネリM4』の引き金をひく。


「お前らみたいな敵の襲ってこないスローライフだよ」


 ――――ドォンッ――――!!


 夜のとばりに響いた発砲音と同時に、レイドの魔導士は気絶した。

 1回は逃げ出した騎士たちがそいつを回収するのを見届ける頃には、もう朝になっていた


 日が昇り、空が恐ろしく綺麗な蒼色に染まっていく。


《魔法教会の連中の撤退を確認、終わりましたね中佐》


 無線越しにスカッドの声が届いた。


「全く迷惑も甚だしい、おかげで一睡もできなかった」


 銃の安全装置セーフティを掛ける。


《ねえ中佐、家の中で縛ってるこの魔導士はどうします?》

「あとでトラックに放り込んで返品だ、エミリアは片付けを頼む」

《りょうかーい》


 通信を切り、俺は家へと戻る。

 わからないことばかりのこの世界、それでも俺たちは日常をなんとか作り上げることに成功した。


 どんなところでも生き抜き、最大限活用するのが軍人だ。

 この異世界だって、思う存分満喫してみようじゃないか


 ――――――


 魔法教会レイドを殺すことなく退けた彼らは、やがて冒険者の間で伝説となった。

 一部では世界の危機に現れる勇者パーティーだったのでは? なんて囁かれている。


 だがそんなことなどつゆ知らず、レイドすら手を出せない彼らは今日も今日とてたまにの狩猟、十分な休息からなる異世界スローライフを送り続けていた。


 勇者などには興味もなく、彼らはひっそりと初心者冒険者を見守り、今日ものんびりコーヒーをすすっていた。


人生初の短編のため拙い点は多々ありますが、「面白かった」「まぁ悪くはなかった」という同志読者様がいらっしゃいましたら是非!! 評価や感想など投げつけてやってください!


【ベネリM4ショットガン】

撃ってはスライドするタイプとはまた違う、連射容易なショットガン。

スライムとか一撃で粉砕できる。

作中アタッチメント『ホロサイト』。


【M4A1カービン】

標準的なアサルトライフルで、拡張性が非常に高い銃。

尺的な関係で活躍させられなかった......。

作中アタッチメント『ACOG4倍スコープ、レーザーサイト、グリップ』


【SCAR−L】

高性能アサルトライフルであり、拡張性や基本性能が非常に高いエミリアの愛銃。

めっちゃカッコイイので是非画像とか見てほしい。

作中アタッチメント『ホロサイト、アングルフォアグリップ、レーザーサイト、サプレッサー』


【HK417】

中距離において高い性能を誇るマークスマンライフル。

ゴブリンとか正直ひとたまりもない。

アタッチメント『バイポッド、倍率スコープ』


【バレット対物ライフル】

最強威力のスナイパーライフル。

生物でこれを喰らって生きていられるやつはいない。

アタッチメント『バイポッド、倍率スコープ』

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 実戦経験のある軍人にしては敵への対処が甘過ぎる気が… [一言] 襲撃者を捕虜にもしないようだし、意味もなく敵の命守って味方のリスクを上げる上官は嫌だな
[良い点] あぁ、これはもう性癖丸出しの作品ですね! 好きです、ほんとにこういうの好きです。 やはり『ファンタジー世界のヴィランを現代兵器で一掃する』というのは心地が良いですね。 流れも非常に好きで…
[一言] やっぱ魔法より科学が強いんだなって(ファンタジー好きにケンカを売っていくスタイル)
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