腹痛という名の悪魔(通勤電車編)
11月の明くる日の朝、いつものように講義を受けに大学に向かっていた。
ただ、一時間前に大学に到着していた私だがその日は雑多な用事があり少々遅れての出発となっていた。
各駅停車の電車に乗り込んだ私は席を見渡し空いていた席に座り込む。
そう、ココまではただの何気ない日常であった。
通勤時間帯から少々外れている為か、座れていた事にほっとしていた私であるが、ある違和感を体に感じ始める。
それは体の中心、みぞおちの下から感じる「痛み」であった。
それは腹痛と呼ばれる存在であった。
そう感じた瞬間、私はスマホから、すぐさま地図アプリを開き、大学名と最寄り駅を検索を掛けた。
ここから数駅先で急行に乗り込み大学最寄り駅一つ前に降りるまで25分、そこから各駅に再び乗り換え最寄り駅につき次第徒歩で大学まで歩くのに15分で計40分…。
大丈夫だ、40分程度なら耐えられる。講義の始まる時間は50分後。10分間もあるし、その間に汚い駅のトイレでは無く綺麗な大学のトイレで済ましてしまおう。私はそう結論づけた。
そう、この時の私は現実というのは過酷であり、神は試練を与えてくる物ということを忘れ楽観論にとらわれていた…。
そうして数駅先の駅で各駅から急行に乗り込んだ私だったが、車内で座れずドア付近に立ちながら一心不乱にスマホを弄り倒していた。
まだ大丈夫だ。耐えられる。スマホを弄って腹痛など忘れれば良い。そう考えるしか無かった。
さっきよりもより、痛かったのだ。
腹痛は加速度的に痛みが増すのに、時間は進みは遅く感じる。時間と痛みは反比例する事も無く指数曲線の如く増加を続けた。
大丈夫だ。大学に付くのは30分後。もう10分経った。これを後3回耐えればいいだけじゃないか。
まだ3回耐えなくては成らない?冗談を言うな、耐えれるわけがなかろう。しかし耐えなくては講義に間に合わぬ、駅のトイレでしてしまえば例え都会の電車と言えど10分以上はかかる。各駅停車に乗り遅れてみろ、遅刻が確定してしまう。各駅停車…?
ココで私はこの作戦の重大な欠陥を発覚してしまった。駅から大学まで歩く必要が有るのだ。
この腹痛で数十分有るき続ける事が出来るか、いや出来るはずがない。
大学最寄り駅のトイレを使う?満員だったらどうする責任は取れるのか。無理だ、これは無理だ。
そう考えた私は増大していく腹痛から耐えつつスマホを使い、ハッピーエンドを探し出す事にした。
歩きは不可能、ならば希望の道筋は歩かずに済む公共交通機関を最大限使うこと。
駅からタクシーを使えば…ダメだ!昨日下ろし忘れて財布は1000円札しか無い!タクシーの料金的に不可能だ。
駅のATMからお金を引き下ろせば…いや別の道があるはずだ。そうだ、急行停車駅は大抵バス網が盛んだ。大学近くに停車するバスが存在するのでは無いか。
私はそう考え停車予定時間から大学までのルートを探し出した。ビンゴであった。
しかもそのバスは発射間隔が短く7分感覚で出発をする。充分間に合う。行ける。
そう、その時、私は油断をした。してしまった。その油断を奴は見逃さず襲撃をしてきた。
それは、腹痛というには大きすぎる物であった。痛みも便意も大雑把に与えて来た。痛みと更に大きな痛みという波でやってきた。私は周りの目を気にする事も出来ず、手すりにぶら下がる形で耐えた。
これは不味い、非常に不味い。これでは徒歩で十数分も歩けぬ、バスに乗ってギリギリ、そうギリギリ耐えられる。急行駅で降りてバスにすぐさま乗る。これで行く。決心した。
しかし私は知るだろう 最良だと思った道が希望への道とは限らないことを
運命と言うのは道を狂わせ 希望を絶望へと変える
しかし絶望はまた希望へと変わり 可能性の未来を指し示す
私は知るだろう いつだって世界は残酷で 希望に満ち溢れてる事に
予定通り大学一つ前である急行停車駅に着いた私はすぐさまホームへと向かった。救急車のサイレンが響く構内には余り人が居らずスムーズに移動出来た。
痛い。辛い。でも行ける、私はまだ行ける。運は私に付いている!そう考えた私であった。しかし運は存在せず、私に突きつけらたのは絶望であった。
スイカの残金が足りなかった。
改札を出ることが叶わず、私は使い慣れぬ駅舎で精算機を探す事を求められた。精算機を探す時間が惜しい私は、駅員の居る改札でチャージしてもらう事を考えた。
それだ!と、私はすぐさま自動ドアに区切られた改札に向かった。
おばさんと駅員が話し込んでおり使えなかった。巫山戯るな。
まだ大丈夫だ。まだ大丈夫。そう痛む腹を抑えながら自動精算機を探す事にした。幸い精算機自体は見づらい場所にあったが短い時間で見つける事が出来た。さっさと1000円チャージするかと紙幣を取り出した私にある文字が目に入った。
『取扱中止 駅員を呼んで下さい。』
誰か呼んどけよ、何で放置してどっか行くんだ。苛つく頭に痛む腹。上も下も耐えられなくなってきた私であるが、すぐさま踵を返し、先程の改札で事情を説明する事にした。
先程のおばさんがまだ駅員と話し込んでいたものの、一旦どいてもらいチャージをして貰える事となった。
さてチャージするかと言う時、それはやってきた。
担架である。救急職員と担架が自動ドアをくぐりやってきた。どういうことかと周りを見れば、駅員の後方に体調が悪そうな女性が居た。お前か。動けぬ、狭い改札無いに担架が来たお陰で動けぬ、何でこうもタイミング良くやってくるのだ。私はタイミングを見計らうまで改札を出ることは叶わなかった。
ようやく改札外へ出られる様になった私は、すぐさまホームの方へ向かった。
我慢の、限界だった。私の腹は度重なる襲撃が原因により時間が掛かり間に合いもしないほど、痛かった。
私は急いでトイレに向かった。
それは講義に間に合うか等関係ないただ必死の形相であった。
最後に、私は出すものを最低限出した後、次のバスに乗り込むことで、講義に間に合う事が出来た事を記しておく。