ぬくもり
「私が引き取ります……」
穏やかな声の後に、どこか眠りに誘うような和やかな香り……ついで、肌に温かな感触を覚えた。
圧迫感は抱きしめられているためか。
ぎゅっと子供のように抱きしめられている俺の身体。
徐々に抱きしめているその相手が女性であると分かり始めた。
触れれば心地よい柔らかな感触、そして膨らんだそれは胸か。
ネットとかでたまに見る「おっぱいパッド」はこんな感じなのかもしれない
「……」
抱きしめている女性とは別の男性の声。
どうにも耳の調子が良くなくて聞き取れない。
冷めたような呆れたようなその声。
そしてそれに反論するような女性の声。
褒められている、弁護されている、評価されている。
YDK……やればできる子?
本来ならば女性の方に好感を持つべきなのだろうが、俺はどうにも女性の口を閉じさせなくて仕方がない。
昔から、褒められるとストレスを感じるのだ。
芯まで震えるほどの恐れ。
むず痒いなんて生易しい物ではない、忌避感。
だが褒めた相手に食って掛かる訳にもいかず、愛想笑いで喜ぶ振りをしてきた。
愉しい振りをしてきた。
だがそれももう終わる。
もう俺は死んだんだ。
トラックに轢かれて殺された。
「……」
男性が再び、俺を蔑む。
蔑まれるいつもの俺だ。
昔から変わらない俺……ああ、安心した。
おやすみ……きっと永遠に。