5 ふたたび作戦実行
5ふたたび作戦実行
ところがミソノと肩を並べてスクールのエントランスを出ようとしたリツコの後ろには、ユウジがしっかりはりついていた。
リツコとミソノがなんとも言えない顔で目配せを交わし合っているのに、まるで気付いていない。しかたないからリツコを真ん中に挟むようにして三人で歩き出した。
リツコもミソノも内心では「なんだこいつ」と思ってはいても表には出さない。ちゃんと適度に話を振るなどして会話に加える配慮はする。それが大人というものだから。
ところが彼にはそうした心得はないらしく、ミソノを無いもののように扱い、リツコだけに話しかけ、ミソノとリツコが話している最中であろうと平気で割り込んでくるのだった。そうすることでミソノに対しなんらかの権利を主張をするかのように。
ミソノが利用するバス停はリツコ達の使う地下鉄駅よりも少し手前にある。
またねと手を振るミソノの瞳は、頑張ってねと言っているようにもほら言わんこっちゃないと言っているようにも見えた。
あと、たった五分ほどの道のりだと自分に言い聞かせたリツコは、しかし二人になってまもなく、ユウジが「気のきかない子ですね」と言い放つのを聞いて腰が砕けそうになった。
二人の間に気をきかせなければならないような何があるというのか。たった何度か帰り道が一緒になっただけなのに、この人すでにリツコの好意を確認したようなつもりでいるのか。
言いたいことが多すぎて、かえって何も言えない。口をぱくぱくと開けたりしめたりするばかりだ。
リツコは自分が見えない投網にじわじわと絡めとられてゆくような恐怖を感じた。
苦行のような数分間を終え、ようやく駅についた。定期券を改札機に滑らせ、リツコはほっと息を吐く。
リツコが使う下り線のホームはすぐそこだが、ユウジが使うのは上り線のホームは階段をのぼった向こうにある。やっとひとりになれる。社会人モードを解いて、思う存分「つまんない顔」をすることができる。やっと。
なのにユウジはいつまでたっても「それじゃあ」と階段のほうに行こうとしない。リツコの隣に立っている。
リツコが不審げな顔を向けると、ユウジは嬉しそうににっこりしてリツコの使う駅の名を口にした。
「遅くまでやっている本屋があるでしょう。そこに行こうと思って」
リツコは、笑顔を見てぞうっとしたのは初めてだとくらくらする頭のどこかで考えた。
「今日はあまりリツコさんと話せませんでしたからねえ」