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BORE MAN  作者:
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2 ユウジ

2ユウジ


 スクールのクラスメイトには大まかに分けて二種類のタイプがいる。すなわち、喋る人と喋らない人。「もう一度言っていただけますか」だの「その単語はどういう意味ですか」だの「わたしも同意です」といった英語をすんなり口にする人と、水を向けられなければ黙っている人。

 両者の違いは英語力の差というよりむしろ性格の差だと思われる。口が重い人は日本語だろうと英語だろうとやっぱり喋らないものなのだ。

 彼は積極的なほうだった。

 もっとも、お世辞にもうまい英語とは言えなかったが。英語が得意なつもりの人にありがちな「ナチュラルスピードで読みたがるわりには日本語なまり丸出しで、それでいてR音だけ不自然に巻き舌」……つまり聞きづらいのだった。

「えーっと、アレなんて言うんだっけ」

なんて思い出せなくて言葉が出ない人がいると、カチカチカチとボールペンを鳴らす。

 長くモタモタ話している人がいるとため息をつく。

 先生の説明に被さるようにして打つ性急な相づちは「俺はすでに知ってるんだぜ」というアピールのようにも見えた。

 とはいえ、あまり気にしていたわけでもなかった。リツコのように喋らないタイプにとっては、彼のようにどんどん喋って授業に参加してくれる人がいると、楽なのだ。

 スクールでは誰もがファーストネームで呼び合う。彼は、ユウジといった。

 第一印象は、理系の人、だった。見た目がそういう感じ。スクールに来る時は会社帰りらしくいつもスーツだけれど、私服がどんななのかは容易に想像がつく。ぜったいチェックのネルシャツ。

 ユウジはリツコと同じ地下鉄を利用しているらしい。駅までの帰り道、たまたま一緒になるのだ。

その会話のはしばしにやたら「僕の出た大学では」とか「母校は」とか出てくるので、これは校名を言いたくてたまらないんだなと察して「大学はどちらだったんですか」と尋ねてさしあげた。

 彼は胸を張るようにして、たいへん有名な高偏差値大学の名前を口にした。予想通り理学部だった。まるでほめてもらうのを待つ子供のような顔をしたものだから吹き出さずにいるのが大変だった。

 そこで目を見張って「うわあそうなんですかあすごいですねえ」と口にできないようでは、就職五年目の気配りの出来るOL失格である。

 それからリツコは、彼がやはり誰もが知っている財閥系の一部上場企業にお勤めであること、どんな仕事をしていて、職場にどんな人がいるのかをつぶさに知ることになった。しばしば帰り道が一緒になるからだ。

 そして彼の仕事ができない同僚たちの名を覚えてしまいそうになる頃、ようやく気づいた。帰り道が一緒になるのは、決して偶然ではないのだと。


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