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BORE MAN  作者:
1/8

1 英会話

ジャンルは恋愛でいいのかなあ?

1英会話


 いったいどうしてこんなことになっちゃったんだろう。

 リツコは八つ当たり気味に考える。

まず会社が悪い。査定の要素に資格の有無も考慮するなんて言い出すから。提示されていた資格試験リストの中にはTOEICのスコアも含まれていた。

 お昼休み、たまたま食堂で一緒になった同期のあいつも悪い。受験するつもりなの、なんて言い出すから。一緒に受けてみない? まずは様子見ってことで、なんて言葉に乗せられた。いまにして思えば、あいつ方向音痴だから、初めて行く会場に一人でたどり着く自信がなかったんだろう。

でも、ま、いっかなんて考えちゃった。だって学生時代、英語は得意科目だったから。で、一緒に願書を出してもらってしまった。

 だがしかし社会人にとって、勉強するための時間というのは意外に確保しづらい。残業がある。一人暮らしぶんの家事がある。自分のケアもしなくてはならない。友達からの誘いもある。

 結果、テキストさえろくに開かぬまま会場に臨み、ひたすら呆然とする羽目になった。前半は答えを選ぶどころか何を聞かれているのかもわからず、後半は解くどころか読むにも至らなかった問題がごっそり残った。

 そこそこ優秀だった学生時代には味わったためしのない屈辱だった。ラスト五分を使ってでたらめにマークシートを埋めながら、つくづくと思い知った。学生時代に習った英語と、この英語は、まったくの別物なのだと。

 やがて届いたスコアからは思わず目をそらした。決して誰にも教えるまいと心にかたく誓った。

 落ち込むリツコに、先輩が「教育訓練給付金制度」なるものを教えてくれた。なんでも、失業保険を一定期間納めていれば、仕事に関係あるような習い事の費用をお国が補助してくださる有り難い制度があるんだそうな。

「たしか三年以上だったと思うけど。リツコちゃん、今年四年目だっけ?」

「いえ、五年目です。でも、英会話って仕事に関係ありますかね?」

「おおありでしょう。ときどき電話かかってくるんだから」

「あー……そうでしたね」

 よそにはない個性的な文房具を扱うリツコの職場には、稀にだけれど英語による注文の電話がかかってくることが、なくはないのだ。そのたび数名しかいない英語可能人をオタオタ探すのでは情けないなあと、かねてから思ってはいたのだ。

「リツコちゃんが英語できるようになってくれたら、すごく助かる。お稽古日の残業は、相談に乗るわ」

と、先輩に背中を押されてしまったら、もうやるしかない。

 英会話スクールは情報誌で探した。一回体験講座を受けてみて、すぐに決めた。定期券で通える範囲にあり、大きすぎも小さすぎもせず、ほどよいノウハウと和気藹々とした雰囲気があった。

 挨拶がハロウだのシーユーだのであること、ファーストネームで呼び合うといった英会話スクール特有の習慣についても、はじめは照れたがじきに慣れた。ふだん接することのない年齢や職種の人と話せるのも楽しかった。

 楽しかった。

最初のうちは確かに楽しかったのだ。


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