哀咲銀世 過去編1
探偵部副部長。いつも冷静なクールな妹の方。
生と死を視れる能力者、哀咲銀世の過去その一です。
さすが元々主人公、長い。
―十一年前―
喉が乾いた。
たぶんそんな、ただそんな酷く平凡な平和的な理由であの日の私は目が覚めた。
「お姉ちゃん?」
隣で寝てるはずの姉を起こそうとも、姉の姿は確認できず。
部屋は真っ暗、外も真っ暗で。
六歳であった当時も今も、暗闇は嫌いだ。
いや、そもそもきっと恐らく確実的に原因はこの日にあるんだろう。
怖くて暗くて布団から動けずにいたら、下から姉の声が聞こえた。
「お姉ちゃん」
下に姉がいる。
そう確信した瞬間の安心感、すぐに私は布団から出て階段の方へと向かった。
階段を降りたところで、姉と鉢合わせをする。
この時間に来客でも居たのか、玄関の前に立っていた姉は、私を見て固まっていた。
暗くて視界が悪くて、姉の顔がよく見えない。
どうしたんだろうと姉の方に向かって廊下を歩く。
同時に、ベタリとした感触が足の裏を這う。
液体にしては不思議と粘着力があって、下を見ても暗くてよく見えない。
「...銀、だめ」
姉が私を呼ぶ。
訳のわからない私が、そのまま真横の扉の空いているリビングを見るのと
「だめ!見ちゃだめ!!」
と姉が叫びながら駆け寄り私の《目》を塞ぐのはほぼ同時で。
それでも私がそこにあった両親のバラバラ惨殺死体を直視してしまうには、一瞬とは充分すぎる程長い時間で、塞がれた目を開いて姉の顔を確認しようと思った。
髪の長い女性の惨殺死体が視えた。
不思議と、それが姉で、高校の制服だって事が解ってしまった。
ずっと、ずっと目に焼き付いた家族の死に目は、その後の私を一生苦しめる事になる。
それからの記憶はとても曖昧で。
私には人の目を視るとその人の死に目を視てしまう力があり、両親の死を実際に視てしまいただ目を合わすだけでも見えてしまうようになったと姉に言われ、私は心を閉ざした。
一歩も外に出ず、誰とも会おうともしなかった。もちろん姉とも。
目を会わせただけで死に目が視えてしまう。どうして、なんのための力なんだろう。
なんでこんな力を持ってるんだろう、自分が生きている意味とは何なんだろう。
それだけ考えてずっと引き込もって、ずっと泣いて、吐いて、ずっと死ぬことだけを考えていた。
生きている意味なんてない。
生きているものはいずれ必ず死ぬ、どう死ぬかなんて解らない。
でも必ず全ての生命に《死》というものは平等に与えられる。
この世界は死に道溢れた世界だ、いずれ宇宙にさえ死が訪れる。
なのに私は自分の死が視えない癖に死を視てしまう。
そんなの理不尽だ、そんなもの
私が殺しているのと、何の違いもないじゃないか。
「銀、あのね、中学校はさ、最後の一年でいいからさ、来ようよ」
酷い不安そうな声で、姉が話してくる。
小学校も外に出ないままいつの間にか卒業。
もうすぐ中学二年すら外に出ないまま過ぎようとしている。
私はいつも通りに無言で返す。
「じゃあせめてさ、ご飯食べようよ、体に悪いし...」
段々泣き声らしくなってくる姉の声が聞いていられなくなって立ち上がり部屋に向かう。
「まって」と姉が立ち上がる音が後ろから聞こえる。
「ごめんね...ごめん...」
何故姉が謝っているのかわからない。
後ろを振り向くわけにもいかない、振り向いて真っ先に視てしまうのは顔、目だ。
私はもう、二度と家族を殺しはしない。
思い出す事を止める事が出来ないのなら、もう直視はしない。
この逃げようのない不安感、気が狂ってしまいそうなくらい襲い続ける嗚咽は、吐き気は
限界の限界まで私がこの手で私を殺すまで背負う罰なんだ。
手を下さず無意識に家族を、生き物を殺してしまう、私への罰なんだ。
そんな一ヶ月後の事だった。
とんでもないものを発見してしまった。
ふつふつと沸き上がる怒りのような感情を通り越し、私の口から出た言葉は
「呆れた」
それだけだった。
そもそも今まで何も喋らなかったのにようやく喋れた言葉が「呆れた」というのにも呆れた。
呆れすぎて今までの無言すらどうでもよくなって、とうとう私はご飯を持ってきた姉に話しかけた。
「なぁ」
突然の言葉に姉は固まる。
きっと目も大きくまんまるに開いているんだろう。
そしてその目をキラキラさせて今私の目を見ようとして、我に帰って目の前で正座なんかしているんだこの姉は。
「なに?なに?」
まるで自分の子供が初めて「おかあさん」と言ったのを聴いた母親が
「もう一回話して」とせがむように、いや、この例えは自虐だな。失言だ。
私は黙ったまま姉の目の前に先程見つけたものを突きつける。
見えないが恐らくブンブン振っていた姉の尻尾は、その瞬間ペッタンと微動だにしなくなった。
「私は学校には行っていないけどな、お前の教科書で一応勉強はしていたんだよ。
だからお前にもそれなりの、学校に行っている分私以上の教養があるはずだと思っていたんだけど」
そう私は目の前の赤ペケだらけの姉のテストの答案用紙を見ながら話す。
見れば見るほど酷い点数だ。
「や、あのえーっとこれはその...
授業がね!始まっちゃうといつまにか終わってるっていう不思議な現象があってね?
それがテストの時間でも同じことが起こってて!
えっとえっと」
一生懸命弁解しようとしているけれどこの様子だと他の教科もそんなものだろう。
...なんだかこの点数をみると逆に落ち着いてくるな。どうでもよくなってくる。
「高校行く気はあるんだろ?
国から支援金貰ってるんだからさ」
「まー...」なんてそんな曖昧な返事をされる。
「じゃあ私も行くよ、高校」
「へ」
空気が止まる。
姉が頭の整理をしている。
「お前の行ける感じの学校に私も行くって言えば
お前も少しは勉強する気が起きるかと思ったんだけど」
しばらく呆然とした後で
「いいの?
外よ?人居るわよ?」
静かに聞いてきた。
「確かに怖いけど、お前の点数見てなんか飛んでった。
駄目だったら駄目だったで諦めるから」
そんな感じで、私は高校に行く意思を確かに姉に伝えたし、当日までに散々特訓を重ね。
私立ではあるがまぁまぁ設備の整った【月影高等学校】への入学が決まった。
が、やっぱり私は駄目だった。
入学式の前日、高校の制服を嬉しそうに着て見せに来た姉を見て、どうしようもない悪寒に襲われた。
一瞬だけ、一瞬だけ姉の目を視てしまった。
忘れかけていた姉の死に目が脳裏に何度も浮かぶ。その度に目が潰れてしまうかのような激痛が走った。
無理だった。また引きこもり生活を始めてしまった。
吐き気や不安感に押し潰されそうになりながら、半年が過ぎていってしまった。
そろそろ行かないと危ないよと姉に言われ、乗り気じゃないまま学校に向かった。
スカートが短すぎると姉に言うと「短い方がかわいいじゃない」と言われた。
死ぬほど恥ずかしい、死ぬほど吐きそうだ。
どうせ何か言われる、散々視線を刺される。
いままで学校に来なかった奴だ、厄介な事にもなるんだろう。
そんな覚悟の上、吐き気を押さえながら姉と別れ震えながら教室のドアを開ける。
耳障りな笑い声が私の耳を襲った。
私の事は誰も見ていないようで、違う所、違う人物へ視線が向けられていた。
柔らかな薄い緑色のボブヘアー、黄金色の瞳に秋の葉のようなアクセサリーが付けられたカチューシャ。
膝下で揃えられた規則通りの制服に、頬に傷跡。
ロッカーから体操服を取り出したばかりのようだが、その体操服袋の中から黒い液体が流れ出ている。
墨汁だ。
臭いで解った。
おそらくこれが、虐めって奴か、かわいそうにと私は自分の席であろう席に座る。
結局、私の存在や授業内での答案で少し教室がざわついたくらいで、その日の私の高校生活は極めて最小限に平和であった。
問題は翌日からだった。
私の周りに人が集まって来た。
姉の根回しだろうか、あまり人と馴れ合いたくはない。
目を視ない根暗だと思われていようと思ったのに、何故こんなに人だかりができるんだ。
人を避けながら一週間が経過し、大体状況が読めてきた。
そもそも少し前から薄々感じていた。
姉は結構人気者で友人も多い。顔もまぁいい方なんだろうし、スタイルもいいんだろう。
そんな姉の瓜二つでありながら性格が正反対の双子の妹である私にその傾向が出るのは恐らく当たり前の事なんだろう。
どれだけ一人になろうとしても人だかりは私を付きまとう。
「あとは此処しかないよなぁ」
息を切らせながら階段を上りきる。
小中と引きこもってた体力が仇になる。こんなにも体力がないとは自分自身でも驚く。
目の前の扉には【屋上】とご丁寧に看板がたてられていた。
此処にまで人が居たらもう終わりだ、諦めよう。
そう思いながら扉を開ける。
ぶわりと風が長く黒い髪を掻き上げる。
前髪も上がって一瞬視界が良くなって、見渡す。
最悪だ、人が居た。
柔らかな薄い緑色のボブヘアー、黄金色の瞳に秋の葉のようなアクセサリーが付けられたカチューシャ。
膝下で揃えられた規則通りの制服に、頬に傷跡。
いつも虐められている癖に泣きも抵抗もしない例のクラスメイトだった。
彼女一人、他に人はいない。
いつも追っかけてくる奴等もいないし。
「隣いいか」
話しかけ、答えを聞く前に隣に座り弁当を開ける。
隣をチラリと見る。
少し私を気にしていたようだが、彼女は黙って自分の弁当であろうコンビニのパンを頬張った。
それを見て少し安心して私も卵焼きを頬張る。
放っておかれる安心感。
なんだか安心する。
それから二週間、昼休みは屋上で彼女と会話もなく一緒に昼飯を食べるという日常が続いて。
さりげなく、ふと聞いてみる事にした。
「お前、虐めに対してどう思ってるんだ?」
しばらくじっと、彼女は私を無言のまま見つめた。
私は彼女の方を視ないよう弁当を口に運び続けた。
「たぶんね」
彼女から出た声は、春風のような声だった。
思えば彼女の声をしっかり聴いたのは初めてであった。
「あぁいうのは、相手をしちゃいけないんだよ。
どんなことをされても、どんなに長く続いても」
淡々と、強い口調で、柔らかい声色で発せられたその言葉は、不思議なほど重みを感じた。
把握してしまった。
彼女の虐めはこの学校だけじゃない、おそらくそれ以前、最悪の場合は幼少の頃から続くものだ。
全部諦めず、それでも何もかも諦めている。
そう把握してしまった。
「止めてほしいとか言わないのか?」
「言っても止めてくれない、むしろ酷くなるからもう言わないし、泣かない」
チャイムが鳴る。
なんで彼女は虐められているんだろう、その疑問がただ募っていった。
「いつもコンビニのパンだな、弁当にしないのか?」
翌日、ふと気になって聞いてみた。
彼女は少し笑って答える。
「ちょっと家庭の事情でお弁当作る暇がなくってねー」
「家庭の事情...」
少し会話が途絶える。
地雷だ、聞いてはいけない事を聴いてしまった。
気まずい時間が流れるが、次に話したのは彼女の方だった。
「いつも思ってたんだけど、哀咲さんのお弁当すごく美味しそうだよね。
自分で作るとやっぱり朝早いのかな」
その質問をされた瞬間、どうしようもない申し訳なさに乾いた声で返す。
「これは姉が作ったんだ、むしろ私は料理をした事もなければ朝も弱い」
「あ、そっか、金世さんの方か」
「そうそう、お節介な姉の方」
そう言い合ってふと気付く。
「そういえば私、お前の名前覚えてない」
「そういえば、銀世ちゃんは有名だから知ってたけど。
私の名前言ってなかったね」
あははと軽く笑って彼女は言った。
「十六夜 楓だよ、よろしくね」
「十六夜か、綺麗な名前だな」
そういう私の言葉に十六夜は照れたように笑った。
それを見て、なんだか今まで感じたことのない感情に包まれる。
「銀世ちゃんの笑った顔初めて見た」
十六夜の驚いた声にハッとする。
そうか、これが楽しいとか、嬉しいとかそういう気持ちなのか。
初めてだった、人の名前を聞くのも、人とこんなに長く話すのも。
人の笑った顔も見るのも。
笑ったのも。
初めてだったんだ。
だからきっと、凄く嬉しいし、楽しいんだろう。
「これ、食べるか?」
感情に任せた私は、いつの間にか十六夜に自分の弁当を勧めていた。
「毎日コンビニのパンじゃ体にも悪いだろ。
私の姉はバカでハイテンションの馴染めない奴だが作る料理は絶品だ」
「いいの?」と十六夜が笑顔で「じゃあいただきまーす」と私の弁当の卵焼きを食べる。
「ほんとだ!おいしい!」
「だろ?」
心が暖かくなる。
これが友達なのか、だったら。
だったら少しだけ、生きてみようかなと思えた。
「お姉ちゃんかぁ」
十六夜の少し寂しげな声が、心に引っ掛かった。
「私ね、お姉ちゃんが居たんだー」
一ヶ月が過ぎた頃、唐突に十六夜がそう呟くように言った。
「《居た》のか」
「うん」
秋風が騒がしく木々を揺らす音が聞こえる。
「すごく強くてね、賢くてね、カッコいいお姉ちゃんでね。
私、すっごい泣き虫だったから心配かけてて。
いつも私の事守ってくれてたんだ」
「今の十六夜を思うと、泣き虫だったなんて思えないな」
微笑む。
十六夜の顔をもう少しはっきり見たくて切った前髪が風に揺れる。
十六夜は「そうかなー」と少し寂しげな表情をした。
「でも、今の私があるのは、お姉ちゃんのお陰なんだと思う。
お姉ちゃん言ってたから、泣くなって、強く生きろって」
風が十六夜の声を乗せていく。
寂しそうに笑いながら話す十六夜の顔が、どうしようもなく頭から離れない。
「私がいつまでも泣き虫だったらね。
お姉ちゃん絶対心配して天国に行けないって思ったんだ。
だから泣かないし、辛いとか思わない」
私は、ただ何も言えずに空を視た。
十六夜は強い。
人という生き物の最大の弱点である心が、まるで鋼のようだった。
今の十六夜をその姉が見たら、どう思うだろう。
いや、決まってるはずだ、絶対嬉しいはずだ。
「六年前の福井の海岸沿いであった事件覚えてる?」
そんな言葉を言われる。
「あぁ、覚えてるよ。
引きこもってた時に暇だったからニュースとかは全てノートに記したりして調べてたからな。
たしかどこかの陸上部の夏の合宿中に全員バラバラに引き裂かれた状態で発見された殺人事件、未だに全員の体が一致してない上犯人も特定されてない」
「その事件の日にね。
そこの海岸から落ちてお姉ちゃん死んじゃったんだ」
私の言葉の後に流れるように放たれた言葉に息を飲む。
「あの事件の被害者って事か?」
「警察は違うって、体がバラバラじゃなかったから、自殺だって言われたよ。
そんな事ありえないのに」
「ありえないという根拠は?」
「風で飛ばされた私の帽子を取りに行ってくれて絶対帰ってくるって言ってくれてたのと。
見つかった時、その帽子を大事そうに持っててくれたから。
だから自殺なんかじゃない。
私のせいでお姉ちゃんが死んじゃったんだ。
私がお姉ちゃんを殺したんだ」
時間が止まった気がした。
それも随分と長く。
十六夜の発した理論にも問題はあると思ったがそれ以上に。
その言葉を発した十六夜の顔は、完全に無そのもので。
全くの救いようのないものだと気付いてしまったから。
結局あの後、私は何も言えなかった。
言ってあげられなかった。
何か言ってあげられたはずなんだ。
なのに何も言えなかった。
あんなことを他人に言うという事はそうとう勇気がいる。
私をそれほど信頼していたから話したんだ。
それに答えられなかった私は
「友人として失格なんじゃないのか」
そう呟いて深くため息をつく。
明日がある。
何もなかったように平然と、明日十六夜に会えばいい。
それが一番だ。
それが友人ってもんだ。
そうだ、そうしよう。
考え事をするときに書きなぐるノートを閉じ、そのまま眠りにつく。
むしろあんな事を話してもらえる程私は信頼されている。
それだけで充分じゃないか。
《十六夜楓は姉を殺した》
《十六夜楓の姉は楓のせいで死んだ》
翌日の朝、教室の黒板に殴りかかれた言葉を見て呆然とする
いつもの十六夜を虐めている奴がニヤニヤしている。あいつだ。
いつもの事、いつもの虐めのはずだ。
いつも通り十六夜が教室に入ってきて少し動揺はするかもしれないが
いつものように冷静に真顔のまま黒板を消し始める。
そのはずなんだ。
なのに、なんだろう。
胸騒ぎ。
心臓が止まるほどの沈黙と視線が私の後ろに刺さる。
私は躊躇いもなく振り向く。
躊躇いもなく振り向いてしまった。
私の眼は、黄金色の澱んだ瞳を凝視してしまった。
眼を、合わせてしまった。
「...うっ、ぁ...」
視界が揺らぐ、吐き気が襲う。
しまった。しまった。
こんな時に。
心の焦りが止まらない。駄目だ、止めて。
お願いします神様、お願い、視せないで。
十六夜がよろけながら教室から出て行き周りがざわつく。
それを目で追いたいのに、私の瞳は別の十六夜を写してくる。
なんでだよ神様。
なんでこうなるんだよ。
なんで十六夜が学校の壁沿いの道路で仰向けで血塗れになって倒れている姿が見えるんだよ。
嫌だ、これが運命なんだったら私の運命は何なんだ。
誰かが死ぬのを黙って視るしか出来ない私が一番生きててもどうしようもないじゃないか。
なんで十六夜みたいな何も悪くない普通の人間がこんな事になるんだよ。
いや、まて。
私はフラフラと立ち上がる。
気持ち悪い汗が全身を這う。そんな事は知らない。
自分なんてどうでもいい。
動け。
階段を駆け上がれ、息なんて知るか。
運命なんてふざけるな。
視れるのなら、それが本当になってしまうのなら。
私がそれをいっそ曲げてしまえばいい。
たとえ代わりに私が死ぬことになっても本望だ。
誰かの命を救えるのなら。
それが私の出来る唯一の事だろう。
息を切らせ悲鳴を上げる足を無視し階段を駆け上がる。
『屋上』とご丁寧に看板が貼られているドアを全身の体重を使って体当たりでこじ開ける。
ごおっと冬の近い冷たい風が長く黒い髪を掻き上げる。
前髪も上がって一瞬視界が良くなって、狂ったように見渡す。
開いたフェンスの向こうから人が私を驚いたように視ていた。
その人物を凝視する。
柔らかな薄い緑色のボブヘアー、黄金色の濁った瞳に秋の葉...楓の葉と紅葉の葉のようなアクセサリーが付けられたカチューシャ。
膝下で揃えられた規則通りの制服に、頬に傷跡。
「----ひぅ」
声を出そうとしたが風が出た。同時に激しい肺の痛み。
走りすぎて気管がやられている。
それに気付いた瞬間身体が疲労を思い出したのか私は崩れるように座り込んでしまった。
動けない、声も出ない。
最悪な事に視界も悪くなっている。
十六夜はこっちを見て何か言っている。
あぁくそ、聞こえない、何なんだよ、頼む、人生でこれが最後かもしれないんだ。
動いてくれ。頼む。十六夜の所まで行くだけでもいい。
十六夜が一歩前に進むように、空を歩こうと踏み出した。
骨が折れようが心臓が潰れようがどうでもいい。
そう思った瞬間不思議と足が動いた。
スムーズに動いたと言えばそれは違うだろう。
意識が途絶えそうなくらい肺と足に激痛が走る。
それでも私は走った。
そして
掴んだ。
「腕痛いでしょ、離してよ」
私の掴んだ腕を軸に宙ぶらりになった十六夜が言う。
正直腕が痛い。肺も痛い。足だって痛い。言うなら全身が死ぬほど痛い。
でもこの痛みは。
「お前が、今まで、感じてきた痛みに比べたら、ちっぽけなもんだろうよ」
息なんて、肺なんてしるかと十六夜に言う。
「死ぬな」
逃げず、眼を逸らさず、十六夜の眼をしっかり見て言う。
言い続ける。
いや、叫んだ。
「死ぬなよ!!!
今までお前は何のために生き続けてきたんだ?
姉の期待に答える為か!姉の言いつけを守る為か!!?そんなただの自分の自己満足の為かよ!!!!」
「自己満足なんかじゃ」
「自己満足だろうが!!!!!
お前は期待してたんだろ!?ただただ耐えて耐えて耐え抜いて強くなって!!
ただ単にいつか死んだ姉に褒めてもらいたいなんてあり得ない夢みたいなおとぎ話みたいな展開を!!
お前が殺したと思い込んでる罪をそれで許して貰おうとしてるんだろ!?」
こんな大声は、私自身出した事がない。自分でも分かる。すごくうるさい。
「正直お前にとって何もかもどうでもいいんだろ?!!
期待してくる親も!!味方面してくる教師もクラスメイトも!!!虐めてくる奴だって!!!!!
この世界そのものがどうでもいいんだろうが!!!!!
ある程度本当にどうでも良くなったらこうやって自殺して、姉に会えるなんてふざけた自分勝手で自己満足な思考でいままで生きてきたんだろうが。
...じゃなきゃさ、とっくにお前死んでるからさ。
そんなに澱んだ眼にはならないぞ」
涙がボロボロと溢れてくる。最悪だ、誰の前でも泣いたことはないのに。
よりにもよって十六夜の前で、情けない。カッコ悪い。
でも、言葉を遮る訳にはいかない。
「頼む、頼むよ、これは私の勝手なお願い事だ。
お前が初めての心を許して話す事ができる相手だったんだ。
お前と会って初めてこの現実がいいものだって思えてきたんだ。
頼むよ、もう人が私の視たままの姿になるのだけは嫌なんだよ。
もう二度と、大切な人が死ぬ所を視たくないんだよ。
...楓」
驚いた顔で私を見ていた楓が眼を逸らす。
駄目だ、叫んだのと体力の限界で視界が白くなってくる。
力もなくなってくる。
「なぁ、ひとつだけ聞きたいんだ。
お前なんで私に姉の話したんだよ。
お前にとっては私もどうでもいい存在だったんだろ」
十六夜は黙り込む。
私はなんでこんな弱々しい質問をしたのか。
涙は止まらない。視界の幻像も消えない。
それでも私は楓の瞳を見続ける。
「銀世ちゃんはどうでもいい存在なんかじゃなかったよ」
呟くように楓が言う。
私が反応するよりも早く、楓は私の顔を見上げる。
自分から目を合わせるだけでも躊躇する私に、目を合わせてきた。
それでも力を緩めたくない。この手は絶対に離さない。
そんな私の反応を一通りじっと見て楓は笑った。
「かわいそうだとか不憫だとか、銀世ちゃんは思わなかった。
私だって銀世ちゃんが初めての心を許して話せる人だった。
一緒にいて楽しかったし、幸せだった。
今だって銀世ちゃんは私を助けようと必死に頑張ってくれてる」
「だったら死ぬなよ」
「それで解ったなんて言っちゃったら、私はやっぱり弱虫って事になっちゃうから。
私が弱いって証明されちゃうから」
そう言う楓に私は握った手を強める。
少し痛かったのか楓は小さく声を出した。
心が痛い。
「死ぬことが強いなんて誰が決めたんだよ」
溢すように、言葉が出た。
止まらない。
「自分から死ぬことが強いなんて誰が決めたんだ。
そんなのただの逃げでしかない、その先なんてない。
逃げることが強いなんてクズ以下の思考だ。
死んだ奴の事を引き摺って死ぬんなら生きろ。
どんなに苦しくても辛くても生きて生きて生き抜いて。
神様にまだ生きてるぞざまぁみろって笑えるくらいがほんとの強さなんじゃないのか」
さっき以上の涙が溢れた。
何粒かの涙が楓の顔にかかる。
無意識に出た言葉だった。
楓に言った言葉なのか、従来の自分自身に言った事なのか。
見れば楓もうっすら涙を浮かべていた。
私を見て楓は微笑んだ。
「神様にそんな暴言吐いちゃっていいのかな」
「いいだろ、こっちだって相当神様のせいで酷い目にあってるんだから」
笑う。
笑える状況じゃないのに、昼休みの時のような心地よさだった。
「銀世ちゃんのせいで死ぬ気なくなっちゃった。
もうちょっと生きてみたいな」
そう微笑む楓の瞳は、少し濁りが無くなったように思えた。
ただ、問題がひとつ。
「引き上げる体力がもうないんだよなぁ」
「え?」
数少ない体力を使い果たして今もう腕の力もギリギリで。
しばらく黙ったままお互いに顔を見合わせる。
「落ちるか」
「ええ?!」
「捕まってなよ、たぶん大丈夫」
そういって楓の答えを聞かないまま身を乗り出し楓と宙に浮いた。
私が《視た》のは 一人 で落ちた楓だった。
じゃあ二人なら?
ざまぁみろ神様。
これで運命は変わる。
変えて見せる。
ぼうっとする。
視界が開ける。
白い天井が写っていた。
病院のようだ。
身体を動かそうとすると酷い激痛に襲われる。
筋肉痛なのか、落下のダメージなのか。
なにはともかく。
「生きてる事は確かだ」
乾いた声で笑う。
首を動かして隣をみる。
ほっとした、こんなに安心したのは全く初めてに等しかった。
隣のベッドには楓が寝息をたてて眠っていた。
生きてる。よかった。ほんとに。
「喜ばしくも良い結果じゃあないんだよなぁ」
心臓が跳ねた。身体が硬直する。
いつの間にか私と楓のベッドの間に見るからに怪しい黒い布を被った人物が居た。
私の眼のせいなのか、こいつが生きてない事はすぐに解った。
幽霊とかほんと苦手なんだよ、勘弁してくれ。
「まだ幽霊のほうがかわいいと思うぞ、私達みたいな死神なんかよりは」
心の声に回答してきた。
死神。その言葉にまた心臓が跳ねた。
やっぱり運命は変えられないのか。
やっぱり楓は死ぬ運命なのか。
「いや、運命は代わり十六夜楓は一回死の運命から抜け出したよ。
もう次の起点まで魂は抜けない。
私が用があるのはお前だ、哀咲銀世」
一瞬考えてなるほどと思った。
運命を変えた事で神様から直々に処分命令が来たってことか。
「運命を変えるってのはたとえどんな能力者であれ大罪なんだそうだ。
運命神以外の神であっても絶対に許されないんだとさ」
本望だよ、元々死にたかったし。
楓を助ける時に命なんて要らないと言ったのも嘘じゃない。
「ただ私は他の死神共とは違って神に従うのが大嫌いでね。
自分の利益としか動かん。
だけどもこの事案だけは上に頭下げてまで引き受けさせて貰った。
お前に一言言いたかった事があってな」
そういって死神は頭から布を下ろし、私を見下げた。
声で解っていたが男性だった。
しかも結構整った顔をしていてそこらにいるアイドルよりも格好いいと思う、たぶん。
サラサラの短髪、柔らかな緑色の髪色。瞳の色は澱んだ朱色。
彼はそのまま微笑んで言った。
「妹を救ってくれてありがとう」
ん?
思考回路が一瞬停止した気がした。
お前の妹など知らないし救った覚えもない。
「あと私はよく間違われてうんざりしているが男じゃないぞ。
楓を救ってくれてありがとう、哀咲銀世」
思考回路完全停止。
女?この顔と声で?なにかの冗談だろ。
冗談じゃなかったらなにかの間違いだ。
いや、そこは置いておいて。
本当に六年前に死んだ楓の姉なのか。
「予定に無かった死だってんで自殺扱いで死神なんて神の奴隷やってるがね。
でだ哀咲銀世、お前に頼みがある」
ベッドに腰かけて死神は私をみる。
これから殺されるのに頼みなんて聞けるかよ。
「私は神に従うのが嫌いだって言ったろ。
これからも楓と仲良くしてやってくれ、それだけが頼みだ」
自己犠牲は何も生まない。
自分で言うと恥ずかしいが楓はもう親友だ、言われなくてもそうする。
ただそうなるとお前はどうなる?完全に消えると楓が悲しむぞ。
「唯一味方をしてくれている上司にもう話は付けてある。
それにもう少しで私は人間に戻れるからな」
死者が生き返るなんてそんな簡単に出来るわけないだろ。
その言葉に死神は「簡単な訳ないだろ」とニヤリと笑った。
その笑いに異常に心がざわついた。
「私は妹の為ならどんな罪でも犯せる。
願いを叶える為には多少の犠牲は付き物だろ?」
平然と言われる。
楓から姉の話を聞いたときは良い奴だとは思っていた。
それじゃあただのシスコンの狂人じゃないか。
「そう言われても否定はしない。
あとひとつの魂さえ狩れば私は人間に戻れる。
だから最後の魂をお前だと選んだんだが。
楓にやっとできた親友を殺してしまえば楓が悲しむからな」
全部楓が軸で動いてるんだなこいつの頭の中。
そう思うのと目の前に大きな鎌の刃先が付き出されていると気付くのに、時間がかかった。
なんで私が生かされる話をされているのに刃先を向けられなきゃいけないんだ。
「お前は白雪姫、私は妃からお前を殺すよう命令された狩人だとすれば、状況を把握するのは簡単だろ」
また顔と声に似合わないメルヘンな例えだ。
「お生憎様、猪の心臓は持ち合わせていない」
あえて声で答える。
死神はその回答にはははと声を出して笑った。
その後真面目な顔に戻って
「そもそも能力者は凄いお偉いさんの神様が、下級の神が次期としての人間を探しやすいように作った異例な存在なんだ。
だから魂は普通の人間よりも能力分プラスされる。
お前の魂は相当デカい、通常の四倍程にはな」
私みたいなのを能力者と言うのか、いや、それ以上に。
「能力者の魂をデカくする方法は二つある。
一つは死ぬほど特訓を重ねひたすら強さを求めるか。
もう一つは禁忌、やってはいけない方の方法。
【家族を殺す事】だ、お前は実際に視る事もカウントされるから禁忌の方だな」
視た分だけレベルが上がる。
家族の死を、きっと思い出す事だけでもカウントされている。
でもそれと猪の心臓の関連が掴めない。
「簡単に言えば臓器移植提供と同じだ。
沢山あるならその分分けて欲しいんだ。一人分の魂分の魂を」
結局それは私の魂を持ってくのと何が違うんだろう。
「あと楓を助けてくれたお礼にお前の能力を封印してやれるがどうする?
私に魂を分けてくれるならお前は普通の人間と同じ日常を送れるぞ」
固まる。
そんな事、願いもしなかった途方に暮れた願い事だった。
「ただ、能力を封印した場合デメリットもある」
「デメリット」
「死に易くなる。
事件に巻き込まれ易くなる。
それでもいいならどうだ?」
考えるまでもなかった。
むしろ別に構わない、誰とでも話せる。
誰とでも、眼を合わせて話す事が出来る。
そんな夢みたいな話あるわけないと思っていた。
死んだって構わない、どんな災難に巻き込まれても構わない。
そうなったらその時まで生きようじゃないか。
「決まったか。
まぁすぐに終わるし、目瞑ってろ」
目を瞑る。刃物が飛んだ音がした。少しだけ心臓が跳ねた気がした。
さほど時間はかからずに
「終わったぞ」
そう声がかかり、目を開ける。
視界はそう変わってない。
からだも何も変化は無し。
死神はといえば「あとは帰るだけだ、楓の事頼んだぞ」と消えていった。
「んー」
隣から声がした。
楓が起きた。
少しキョロキョロした後、私を見て楓は笑う。
「生きてるみたいだね」
私と同じ言葉を発した事にクスリと笑う。
「あれ」
同時に、楓が真剣な顔で私を凝視してきた。
なんだろうというのと、注目されるのが苦手な人柄。少し恥ずかしい。
「銀世ちゃん、そんな目の色じゃなかったよね」
はてと固まる。
近くに鏡みたいな物はないかと首を動かす。
病室にあるテレビでいいかと自分の目をみる。
両目が澱んだ赤色をしていたのが
綺麗なまでに澄んだ青紫色になっている。
意味もなく、涙が溢れ出た。
どうしてか解らない。
虚無感のような心の締め付けが、急にやって来た。
私は楓の方を振り返る。
綺麗な澄んだ黄色い瞳は、驚いたように私を見つめていた。
「うわっ
ぎ、銀世、ちゃん?」
つい、身体を起こして楓に抱きついた。
柔らかかった。暖かかった。その感覚にもっと涙が溢れてきた。
人の温もりを感じたのは、何年ぶりだろうか。
「視えないんだよ、何も視えないんだ。
もう視なくて済むんだ、人を殺さなくて済むんだ」
泣いているのか笑っているのか解らない声が出る。
頭に手を置かれる。
そのまま撫でるように浮かして置いてを繰り返される。
とてつもない安心感に涙が倍に流れた。
「私が泣いてる時、お姉ちゃんがいつもこうしてくれたんだ。
銀世ちゃんの抱えてた物は何なのか私にはわからないけど。
大丈夫、大丈夫だよ」
そう言ってぎゅっと抱き締められる。
「ううううう~...
がえでぇぇえ」
みっともなく子供のように楓にしがみついてわんわん泣いた。
楓はずっと何も言わずにずっと抱き締めたまま頭を撫で続けていた。
「ズー」
鼻をかむ。
泣いてスッキリした。
いや、冷静になったと言った方がいい。
「...そんなに恥ずかしかったんだ」
私の背中に向かって楓が苦笑いで言ってくる。
思い出すだけでも顔が熱い。
「人前で泣くなんてみっともない、ほんとにみっともない。
穴でも掘って埋まりたい。恥ずかしい」
「全然恥ずかしくないと思うんだけどなぁ」
また柔らかい声色の苦笑いが後ろから降りかかる。
それに私は深い深いため息で返答する。
そうだ、話題を変えよう。
「なぁ楓」
「何?
銀世ちゃん」
楓の言葉を遮るように私は振り向いて
「銀世」
そう言った。
キョトンとする楓に私は笑顔で続ける。
「ちゃん付けはなんかくすぐったいからさ、銀世でいいよ。
むしろそう呼んで欲しい。私だけ呼び捨てはなんだか嫌だ」
瞬間、楓の顔がぱっと明るくなった気がした。
「じゃあ、そうするね。
銀世」
楓はそう言って微笑む。
寂しげも悲しさも全く感じないその微笑みに
私も気恥ずかしくてへへっと笑う。
その瞬間、ドアが激しく開けられる。
私と楓がちょっと驚きつつドアの方を見ると
姉が居た。病室の入り口で時が止まったかのように停止していた。
目を見開いて私を凝視している。
「怖いんだけど」
苦笑いでそう話しかける。
「...っうわあああああん!」
その声が届いた瞬間、そう叫びながらありえない早さで彼女は私に抱きついてきた。
ほんとにありえない早さだった、気づいた時には後ろに腕が回ってたし、いつの間にか後ろのベッドに押し倒されていた。怖い。
「ばかぁー!銀のばかぁー!
私がどんだけ心配したと思ってんのぉー!」
さっきの私よりも五月蝿く泣き叫ぶ姉に
「ここは病院なんだけどなぁ」
そう呟くように言う。
「うぅ~」と鼻水を垂らしながら
「だって銀が死んじゃったらさぁ!
私今まで何のために生きてきたのか解んないんだもん!」
ピャー!っと叫ぶ姉にここにもシスコンが居たかと姉を哀れみの眼で見る。
ふと気になって姉の顔をじっと見る。
「えっ、な、何?」
「いや、金の瞳は綺麗な赤紫色なんだなって」
一卵性でも目の色に些細な違いは出るんだなぁと真面目に考える。
夢みたいだ、最初は怖かったけど人の目をしっかり視れるなんて。
なんて嬉しいんだろう。
「銀、もしかして」
「あぁ、無くなった。
もう何も視えない」
誇らしく笑って見せる。
「無くなった...」
予想外れの回答が姉の口から溢れる。
てっきり喜んでくれると思っていた。
よかったねって言ってくれる気がした。
まるで自分が望んで無かったかのような回答だった。
「なんだよ、じゃあ私はあのままで良かったって?」
不貞腐れて姉に言う。
姉はブンブンと頭を振る。
「そうじゃないの、嬉しいに決まってるじゃない!」
そう言っているが目がそう見えないと語っている。
目は口ほどに物を言うという言葉はほんとのようだ。
「十六夜さんも無事で良かったわ!
奇跡的に木がクッションになって二人とも擦り傷だけで済んだんですって!」
話を逸らされる。
まぁいいか、いずれ分かるだろう。
楓は姉と話す事が初めてなようでタジタジに挨拶をしていた。
私はそのまま窓から外を眺めた。
綺麗な青空、でも冬の始めの風が木を揺らしていた。
なにもかも、綺麗に見える。
たとえこの先の人生がどんなに過酷でも、何度生死をさ迷ったとしても。
私は絶対に後悔はしないし、この人生を無駄だと思わない。
だけども神様、私は懲りないし学ぼうとも思わない。
次は姉の運命をねじ曲げてやる。
絶対に一時も姉から離れる気はない。
絶対に姉も助けて見せる。
だから覚えておけ神様、私は絶対にお前には従わない。
もう大切な人を失わない為に。
シスコンのお姉ちゃん(女難の方)のお陰で普通の人間に戻れた銀世ですが、彼女の困難はここから始まります。
その二では、姉である哀咲金世の秘密が解ってしまったり、【あの世界】から強制迎えが来たり、人間神に捕まって能力を戻されたり、七人の事を聞かされるなんてとんでもない困難が待ち受けます。
そのまま本編に繋がる過去編、もう少しお付き合いいただければ幸いです。