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繋がる記憶   作者: ふりこ
33/35

33 真相

 








「ランも座って」


 3人の前にお茶を出し終えワゴンの横に立った時、ロイ様が優しく声を掛けてくださった。

 一瞬戸惑ったものの、アンバスさんもアルフレッド様も優しい表情でこくりと頷いてくれたので、「失礼します」と言って、私はロイ様の隣に腰を下ろした。


「キュリオの近況だが結論から言えば、キュリオは保釈されて今は自分の屋敷にいる」


(保釈……)


 そういえば聞いたことがある。

 逮捕されても保釈の為の保証金を支払えば勾留を解くことが出来る。


「それに、キュリオが罪に問われるのはあくまで、ロイ君の傷害に関してだけだ。それ以外でキュリオに罪を償わせる事は出来ない……」


 そう言ったアンバスさんが眉間に皺を寄せるのを見て、私は俯いた。




 キュリオ公爵を前にしても私の記憶は蘇らなかった。キュリオ公爵が求めていた『大事なもの』は結局分からないままだ。


(私が思い出す事が出来れば……)


 私は膝にある両手を握り締めた。すると、横からすっと出てきた手が私の手を握った。

 顔を上げて横にいるロイ様を見ると、心配そうに眉を寄せていた。

「ランは責任を感じなくていいよ」

「でも……」

 私がそう言って視線を落とした時、アンバスさんが口を開いた。


「ランちゃん。君の記憶が戻ったとしても、ちゃんとした物的証拠がない限り、今回の傷害以外でキュリオに罪を償わせる事は出来ない。記憶というのは曖昧だ。ましてや子供の時の記憶で月日が経ち過ぎている」

 そう言うと大きく息を吐いた。

「ランちゃんが責任を感じる事はないよ」

 アンバスさんがそう言ってくれた。

「ありがとうございます……」

 私はそう言いながらももどかしさを感じた。


「真実は闇の中ですね」

 アルフレッド様がソファにもたれながらそう言った。

「真実は埋もれてしまう。土に埋められる様に……。どんな事件でも同じだよ……。まぁそれを解決するのが刑事の仕事だがな……」

 アンバスさんはそう言うと頭を掻きながら苦笑いをした。



(埋もれる?土に埋められる……?)



 私はアンバスさんの言葉に引っかかった。


(そういえば、キュリオ公爵の屋敷で母の写真を見た時……)


 私は記憶を辿った。


 スコップを持って庭いじりをする母の写真を見た時、庭に佇む母が頭に浮かんだ。その時に記憶が蘇る時に起きる鋭い痛みを感じた。あの時は扉をノックする音で蘇る前に頭から消えた。


「埋める……」

 私は声に出してみた。


 埋める……

 庭いじり……

 スコップを握る母……



 母は……




 ーーー何かを埋めてた?





 その時、頭の中に母が庭いじりをする姿を思い出した。

 いつもの花壇とは違い、庭の片隅にある木の根元で何やらコソコソとやっていた。

 私が何をしているのかと聞いたら母は笑顔で言った。


『たくさんの人を助けるための大事なものを仕舞ってたのよ』



 ガタッ!!!



「うおっ!!」

 勢いよく立ち上がった私にアルフレッド様が驚き、飲んでいたお茶をこぼしそうになった。


「ラン……?」


 ロイ様の視線が私を捉えているのが分かった。


 私は瞬きをせずにアンバスさんを見た。

「母が庭に何かを埋めてました。たくさんの人を助けるための大事なものを仕舞ったって……」

 そう言うと、アンバスさんの目が見開かれた。


「その場所は分かるのかい?」

 私は「はい」と言って大きく頷いた。






 すぐに私達は私が住んでいた家のあった場所へ向かった。

 母が死んだあの火事から私がその場所へ行くのは初めてだ。その場所へ近づくにつれ、心臓は押し寄せる波の様に胸を突き、体が強張っていくのが分かった。


「ラン……大丈夫?」


 窓の外を見ていた私の顔を覗くようにロイ様が私に聞いた。

「火事の場所に行くのは初めてで……緊張……しちゃいます……」

 私は苦笑いしながら答えた。


 本当はすごく怖い……

 またあの激しい痛みに襲われたら……

 また意識を失ってしまったら……

 今まで以上に辛い記憶が戻ったら……


 私はロイ様から視線を外した。その瞬間、ロイ様にふわりと抱き締められた。


「無理に笑おうとしなくていい。不安なら、怖いならそう言っていいから……」


 私はロイ様の背に腕を回した。

(そうだ……私にはロイ様がついてくださっている……)

 そう思った時、素直に言葉が溢れた。

「怖いです……また意識を失うんじゃないかとかまた何か思い出すのかもしれないとか……」

「うん……」

「すごく……怖いです……」

「うん……」


 ロイ様が頭を優しく撫でてくれた。

 私は目を閉じた。


 大丈夫……俺がついてる……とロイ様の温もりがそう言ってくれているようで心が落ち着いていくのが分かった。





 しばらくして馬車が止まった。

 窓から顔を出すと放牧中の羊たちが道を横切っているのが見えた。

 その時、羊たちの向こう側に見覚えのある場所があった。その瞬間私は馬車から飛び出していた。


 昔の記憶がありありと蘇る。


 私は道を横切る羊たちを避けながら進み、その場所へ走った。


 そこは私の住んでいた家のあった場所だ。膝の高さ位の雑草が一面に生えて更地になっていたが、家があった時の光景を鮮明に思い出した。

 蘇ったばかりの記憶をこの場所と重ねてみる。

 その時庭の片隅に目が留まった。

 私はそこへ駆け寄ろうと足を一歩踏み出した瞬間腕を掴まれた。ハッとして振り返ると息を切らしたロイ様が私を心配そうに見ていた。

「急に馬車から飛び出したから……」

「あ……」

 そう言われ、無心でこの場所まで来たのだと気付いた。

「わ、私……すみません……」

 そう言った時、アンバスさんとアルフレッド様もこちらに走ってきた。


「馬車が止まったと思って窓から外を見たらランちゃんが走っていくのが見えたからびっくりしたよ……」

 アルフレッド様が息を切らしながらそう言った。アンバスさんも膝に手を置いて呼吸を整えていた。

「す、すみませんっ」

 私は3人へ深々と頭を下げた。


「大丈夫だよ」

 アンバスさんが体を起こすとニコッと笑ってそう言った。

「それで……埋まってる場所は分かるかい……?」

 私は「はいっ」と言って、その場所へ歩いた。




 庭の片隅に大きな木があった。私はその根元に視線を落としその場所を指さした。

「ここです……」

 私がそう言ってアンバスさんに視線を移すと、アンバスさんは「分かった」と言った。

 後から追いかけるように来た馬車には、屋敷から持ってきた大きなシャベルを載せていた。

 アンバスさんはそれを持って来ると、私のさした場所にシャベルを突き刺した。アンバスさんに「私もやります」と言ったが、ロイ様とアルフレッド様に制された。


 私は両手を胸の前で握り締めながら少し離れてアンバスさんを見ていた。掘り進められる地面を見ながら、鼓動はますます激しさを増した。

 そんな私の肩をロイ様が抱き寄せた。顔を上げるとロイ様の視線は地面を掘るアンバスさんに向けられていた。私達は静かに見守った。




 ーーーカチンッ!



 スコップが何かに当たる音がした。アンバスさんの動きが止まり、私は駆け寄ってしゃがみ込み、掘った穴を覗き込んだ。アンバスさんがその場所の土を払うと陶器の一部が見えた。

 その柄に見覚えがあった。それは母が大事に使っていた壺のような形の花瓶。

「母の花瓶ですっ」

 私は思わず声を上げた。


 掘り進めると、大人の顔より一回り大きい位の花瓶が出てきた。

 花瓶にはしっかりと蓋がされていた。

 私は花瓶に付いた土を払った時、ふと母が言っていた事を思い出した。



『必要な時は割りなさい』


 私は花瓶を手に取ると立ち上がり大きく振りかぶって地面に叩きつけた。大きな音が響き、私の突然の行動に3人とも驚いているのが分かった。

 花瓶には丁寧に麻の布に包まれたものが出てきた。私はしゃがむと麻布に乗る割れた花瓶の破片を除きながら深呼吸をした。


(母が命をかけて守ったものがここに……)


 私はゆっくりとその麻布を広げていった。



 その中には、封筒に便箋、折り畳まれた書類が幾つもあった。

 1枚の便箋を手に取りそれを広げた。


「こ、これは……!」


 私の手元を見ていたアンバスさんが驚きで言葉を詰まらせた。

 アルフレッド様やロイ様も他の書類を広げては驚いた表情をしていた。

 私は内容を確認するため、視線を手元に戻した。


 その便箋はキュリオ公爵の直筆のものだった。内容はある人物の暗殺を依頼するものだ。

 私は驚いて他の紙を広げた。

 その紙には土地を買収のために口裏を合わせる事を依頼する内容が書かれていた。

 どの手紙も書類も、キュリオ公爵が追及を逃れていた事件や事故にキュリオ公爵が関わっていた事を証明するものだった。



(これ……だったんだ……)


 やっと分かった。

 母はこれを何らかの形でキュリオ公爵から手に入れ、公爵はこれを取り返す為に……。

 私は立ち上がると目の前に広がる便箋や書類を見た。



『ごめんね……』



 母が最後に言った言葉は、私をこれに巻き込んだ事を謝ったんだ……。


 全てが繋がった。


 その瞬間、私の頬を涙が伝った。

 両手で顔を覆った時、ふわりとロイ様に抱き締められた。すがるようにロイ様の胸に顔を埋め、ロイ様の服を掴んだ。


「っ……ふっ……っ」


 閉じこれられた記憶が全て蘇った。

 母の死の真相を知る事ができた嬉しさと記憶が全て蘇ったという安堵感が私を包んでいた。


(終わったんだ……これで……)


 私の涙は屋敷に戻るまでずっと止まらなかった。





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