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繋がる記憶   作者: ふりこ
18/35

18 決意

 





 目を覚まして体を起こすと同時に部屋の扉が開いた。そちらに目を向けると、サチさんは目を見開いて小走りで私のいるベッドに来た。その瞬間、私は思いっきり抱き締められた。


「ああー!目、覚めたのね!良かった〜!心配したんだからっ、もうっ!」

 そう言って体を離して私の顔を見ると、またぎゅっと抱き締められる。

「心配かけてしまって……ごめんなさい……」

 私はそう言ってサチさんの背に腕を回すとサチさんの腕に力が入った。

「もうっ、本当にびっくりしたんだから……っ」


 サチさんには記憶の事は言ってなかった。サチさんを不安にさせてしまったのだと申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 その時、スッとサチさんの体が離れた。私はサチさんの手で両頬を潰されるように押された。驚いてる私にサチさんは泣きそうな顔で微笑んだ。

「何かあったら言うのよ。話聞くくらいしか出来ないけど……」

「……はい……」

 サチさんの優しさがすごく嬉しかった。私達は顔を見合わせたまま笑った。



 サチさんは、よしっ、と言うと立ち上がりカーテンを勢いよく開けた。ご飯を食べられるか聞かれ、私がはいと答えると「持ってくるからちょっと待ってて」と言って部屋を出て行った。


 私はそのままベッドの上で膝を抱えた。またロイ様の腕の中で号泣した挙句に眠ってしまった……。恥ずかしくて膝に顔を埋めた。


(また子供みたいに……。私……何やって……)

 記憶を遡って思い出していた時、ふとある事を思い出し顔を勢いよく上げた。


(わ、私っ、ロイ様とキスを……っ)


 あの時は自分の事に必死でキスした事を気にも留めなかった。今になって恥ずかしくて顔がどんどん熱くなってきた。

(私……今、顔真っ赤だ……)


 もう一度膝に顔を埋めた。近づいたロイ様の顔。触れた唇を思い出してしまう。

 触れるだけの優しいキス。

 私は自分の唇に触れた。胸がドキドキする。

(うぅ……落ち着かない……)


 ふと窓の外に視線を移して私はベッドから降りた。窓を開けて、バルコニーへ出る。

 ひやりと冷たい空気は熱くなった頬には心地良かった。


(落ち着けっ、私……っ)


 大きく深呼吸をすると冷たい空気が体に入るのが分かった。少しずつ火照った頬が冷めていく。

(ちゃんとロイ様にお礼言わなきゃ)


「よしっ」

 私はそう言って部屋に戻ると暖炉の火が目に入った。

 思い出した記憶が蘇る。

 お母さん……私……それから……


(……あの男性は……誰……?)


 手を掴まれた感覚を思い出し、私は腕に触れた。あの感覚は、カフェで働いていた時に男に掴まれたのと同じ恐怖。

 男性の顔は分からなかった。でもあの状況で薄っすらと笑みを浮かべていたのは分かった。

(あの男性は火事の原因を……母がどうして死ななければならなかったかを知ってるはず……)

 蘇った記憶の男を思い出そうとして頭に鋭い痛みが走り、私は頭を抱えた。痛みがそれ以上思い出すなと言っている。


(……でも……ちゃんと記憶を取り戻したい……)

 母の死の真相が知りたい。

 母がどうして死ななければならなかったのか。私がどうして生きているのか。

 私は暖炉を見つめた。

「アンバスさんに……会いに行かなきゃ……」

 初めて捜査資料を見た日から、怖くて資料を見るのを避けてきた。でももう逃げない。

 母の死の真相を受け止めなくてはならない、そんな気がした。



 ふと、ベッドに目をやるとベッドサイドに新しいシーツがあるのに気付いた。

(サチさんが持ってきたんだ……)

 私はそれを手に取ると、古いシーツを引き剥がし、ベッドメイキングを始めた。



「うん、出来たっ」

 私は腰に手を当てて真っ新なベッドを見ながら満足気な顔をした。

 その時扉がノックされサチさんが食事の乗ったワゴンを押しながら部屋に入ってきた。サチさんは綺麗にベッドメイキングされたベッドを見て驚いた表情をした。

「ちょっと、ランちゃん!体休めないとダメじゃないっ!」

 ベッドメイキングなんてしてっと怒りながら私の手を引いてベッドに寝かせようとした。私はサチさんの手をとってそれを制した。

「サチさん、ここはロイ様の部屋だから……。昨日ずっとついていてくださって、きっとロイ様……ちゃんとお休みになられてないと思うんです。私がベッドを使ってたら……ロイ様お休みになれないから……」

「でも、ロイ様がここで休ませるようにって仰ってたのよ」

 私はそれを聞いて驚いた。

 ずっと付いていてくれただけでなく、体の事も気遣ってくれているのが嬉しい。

 昨日散々迷惑をかけた。その気持ちだけで十分だった。


「自分の部屋で十分です。ただでさえお忙しいロイ様には気兼ねなくお休みしていただきたいので」

 私がそう言って笑うと、サチさんは困った顔をしながらも「分かったわ」言ってくれた。


「後は任せて。真っ直ぐ部屋に戻って、ちゃんと横にならなきゃダメよ」

 サチさんがそう言ってくれたので、私は朝食の乗ったワゴンを押しながら真っ直ぐ自分の部屋に戻った。






 ++++++++






 ある屋敷の一室に1人の若い男性がやってきた。

「例の男に動きがあります。いかがなさいますか?」

 窓の外を見ていた男が振り返った。

「まだだ。動くにはまだ早い」

 男は視線を窓の外に戻した。

「若い方も好きに泳がせておけ。時が来るのはそう遠くないだろう……」

「畏まりました」

 若い男はそう言うと部屋を出て行った。


「やっとこの時がきた……。今度こそ……終わらせてやる」

 男はそう言うと拳を握り締めた。






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