毒しか吐けなくてごめんなさい
僕の吐息は即効性の猛毒だ。
だから僕が顔を近づけて話した相手は大抵死ぬ。
当然、キスをすれば吐息が混ざってしまうから必ず死ぬ。
おかげで僕は恋人ができない。
ペットのオコジョも死んじゃったし、九尾の狐も九回死んだ。
気がつけば僕の友人は乳首がある機械族、チクビーノ男爵しかいなくなっていた。
「男爵。僕はどうすれば良いんだろう?」
「そうだな。……不死族と仲良くするというのはどうだ? 吸血鬼とかなら君の吐息で死ぬことも無いだろう」
「そっか! 流石は男爵! 知識が広いね!」
「当然さ。私は三百年以上も稼動し続けているからね」
僕は男爵の家から離れた後、人間族は立ち入らないという不死族の領内へと足を運んだ。
別名『魔界』と言われる場所だが、見た感じは他の場所と大して変わらない。
僕は吸血鬼が住むという城を探して近くの住民に道を尋ねてみた。
「すみません。ちょっといいですか?」
「ややっ! 人間じゃねーか!? ヒャッハー! いただきまーす!」
「あの道をお聞きした――へっくち!」
「きゃべらっ!?」
住民は死んだ。
いや、成仏したといった方が良いのかも知れない。
なにせ相手は人肉を貪るというゾンビだったようだから。南無。
「あ……あの城がそうかな?」
僕は旅の途中で真っ黒なお城を見つけて、意気揚々と中に入った。
「貴様、何者じゃ? ここを我が吸血皇女の城じゃと知ってやって来たのか?」
「わお。なんて可愛い。結婚してください」
「死ね」
吸血皇女はとても可愛らしい女の子だ。
だというのに、顔に似合わず毒舌。これはきっと僕との相性も良いに違いない。
僕は吸血皇女に自分の血を差し出すから優しくしてくれと頼んだ。
「ち、血じゃと!? この変態! そんな破廉恥男に優しくしてやる義理などないわ!」
「えー? 吸血皇女のくせに血を吸うことが恥ずかしいの? カマトトぶってんなぁ」
「違うわ、このど阿呆! 吸血鬼の女はまず相手にキスをしてから相手の血を吸うのじゃ。そんな礼儀も知らないで我と求婚したいなどと……恥を知れ!」
「じゃあいただきます」
「むぐっ……!?」
僕は何の躊躇いもなく吸血皇女とキスをする。
直後、彼女の瞳がぐるぐると動いて物凄い充血し始めた。やだ怖い。
「ニンニクくさーーーーーっ!? ……ぶはっ!?」
そして死んだ。
全身の穴から血を噴き出して、水風船のように破裂して死んだ。やだグロイ。
ていうかにんにく臭いって……僕、無臭の筈なんだけどな。軽く傷付いた。
「――とまあ、こんなことがあって駄目でした」
「そうか。君の毒は不死殺しの力まで宿しているのか。凄いな」
「僕、もうこの吐息を誰かに吐きかけたくないです。――くしゅん!」
「毒無効の機械族じゃなかったら今ので私は死んでたよ」
「じゃあ口呼吸を封じます」
僕は男爵の家で、今後の吐息対策について知識を出し合った。
その結果、口呼吸を抑える。できるだけ相手に吹きかけないようにするという名目で、とある道具が開発された。
それはフィルターのようなモノを耳から掛けられるようにした史上最高の発明品。
後にこの道具は人々から『マスク』と呼ばれるようになる。
「あ、なんか自分の吐息が跳ね返ってくる感じが――」
「……どうしたんだね? 恍惚とした表情で昇天などして。速く起きなさい」
「――」
「……やれやれ」
チクビーノ男爵は軽く自分の乳首を弄りながら溜息を吐いた。