表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

コンビニに終止符

「マジっすか!?」

間の抜けた声が事務所に響き渡る。


その間の抜けた声に、「マジだ」と気だるげな返事が返ってくる。


その「マジだ」の一言に俺の頭は真っ白になる。


何故なら俺は他のバイトから引き抜きの話が出ているらしい。しかも世界有数の大企業からだ。


最初は、ありえない話と思った。

しかし目の前の、書類一式と福沢諭吉が100人はいるのではないかというほどの札束が、話に現実味を持たせる。


「この札束はなんですか?」

ずっと気になっていたことだ。

もしかして俺にくれたりして‥などと超淡い期待をしてみる。


残念ながらそんな事は無かったようで、「これは君が辞めた時シフトに空きが出るだろう

。それの代わりだそうだ」


店長の抑揚の少ない声で淡々と話す。

これは俺が引き抜かれる感じで話が進んでいるようだ。


しかし、だ。このバイトを2年間続けてきて、急にポンと他の所に移るのも違う気がする


それなりに愛着とあるし感謝もある。

しかしここで「行きません」なんて言おうものなら、大企業が何をしてくるかわかったものではない。


そんな事を永遠と考えていたら、店長から思いがけない一言が飛んでくる。


「向こうは時給がかなり高いそうだ。」

不意の一言だった。確かに引き抜きをしてくるほどの大手だ。そうすれば時給は1000円はあるか‥。


「1500円だ」

考え事をしていた所にさらに追い討ちをかけてくる。


その言葉を聞いた瞬間おれは‥


「今までお世話なりました」


なんとも薄情である。

店長はいつもの無表情をしかめ、

「本当に辞めるんだな?」

と最後の確認をしてきた。


仮にもお世話になっている店だ。

本当に辞めていいのかを自分に問う。




「うんいいよ!」心の中の自分が返事する。

よし、自分の判断に間違いはない。


「店長‥長い間お世話になりました」

短くそう告げる。


少し残念そうな顔をしていたがしょうがない

これから時給1500円が始まるのだ。


周りの従業員に簡易な挨拶をし、店長と書類の説明を受ける。

そして、自分のロッカーを整理する。


2年間もこのロッカーを使い続けた末、私物がギッシリ詰まっている。


どうしたとのかと思案していると、後輩のロッカーが目に付いた。


山のような私物を後輩のロッカーに押し込んで「あげる」とだけ書いた紙を添えて置く。


最善ではないが最良だと思っている。


そんな感じで身支度を済ませていく。

私物を譲った結果さほど時間もかからず、

1時間以内に片ずけは終了していた。


2年という歳月のせいか少し物悲しくなり、何かそれっぽいことしようと、ロッカーに深々と頭をさげる。


踏ん切りをつけるためにした行為だが、意外に効果があったなーなどと思いながらスタッフルームを出る。


スタッフルームを出ると、私物を押し付けた後輩がいた。


「先輩、本当に辞めるんですね」

と、心底残念そうな顔で言葉を吐いてくる。


「ああ、残念ながらな」

こちらも相手のトーンに合わせる。


「お前のロッカーにプレゼントを入れてある

俺からの気持ちだ。じゃあな。」


この空気に居心地の悪さを感じ、それだけ言い残すと店を出る。


店を出る時、後輩がいたありがとうございました、と消え入りそうな声が聞こえてくる。


こちらこそ、と言いたい。




さほど大したイベントもなく家に着く。

強いて言えば、後輩からメールが来て、

「なんすかこれEEEE」

という苦情だった。


失礼な奴だなと思う。

仮にもプレゼントだ。そんな言い方はないだろう。

何か気に入らないものでもあったか?


思案する。


例えば、廃棄を一ヶ月過ぎたオニギリか?

もしくは食べかけのお菓子か‥。


思い当たることが多すぎて、

「あげる」

とだけ返信しておいた。


こうして俺のコンビニで働いた2年間は幕を閉じた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ