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表と裏の戦闘狂  作者: bed
少年消失編
8/11

計画は台無し

 武は完全に寝てしまった。


「おーい......」


 玄関からリビングの武に呼び掛けるニセモノ。勿論返事はない。


「おいってばっ......おー......」


 またおーいといいかけてやめた。ニセ武はある疑問をもったからだ。


(あの結界の発動条件のひとつに、誰かに助言されてはいけないってのがあったな......。もし俺があいつをおこしたとして、それが制約に引っ掛かったら......、もうそれで計画はおじゃんじゃねえか)


 ニセモノは手に持ったスマホで、相棒に罠の詳細をきくべくメッセージを送った。


『寝たんだけど』






 コンビニで時間を潰している、童顔男改め童顔魔法使いのスマホにメッセージが届いた。メッセージ相手の名前欄に『ダイノン』と表記されている。まあこれも偽名だろうが。

 童顔魔法使いはメッセージを確認した。


『寝たんだけど』


 表示されているのはこの短い一文だけだった。

 このメッセージを、送り主であるダイノンに関わりのない人間が読んだとしても、彼が真に何を伝えたいのか読みとるのは難しいだろう。勿論それは恥ずべきことではない。なぜならこのメッセージは『相手に内容を伝える』という努力を一切注がれずに作られたからだ。伝わらないのが普通である。

 しかしこの受け取り主は違った。それは別に、彼が魔法使いだからでも、童顔だからでもない。理由は単純。彼がダイノンと呼ばれる男の良きパートナーだからである。長年とまではいかないが少なくとも4年、いや5年はこうして組んで行動してきたし、数えきれない程のピンチや困難、成功を共に経験した。

 普段口には出さないが、お互いがお互いを大切に思っているのだ。


 メッセージを確認した童顔魔法使いは間をおかず、ダイノンの良き相棒として、すぐにメッセージを返信した。


『ごめん。意味わかんない』






 ニセ武ことダイノンのスマホに先程のメッセージの返信が届いた。メッセージ相手の名前欄には『ヒラガナ』と表記されている。まあ偽名だろう。


『ごめん。意味わかんない』


 返ってきたメッセージにダイノンは苛立ちをおぼえた。どうして伝わらないのかと。

 しかし一刻を争うこの状況でいちいち相手への不満を文字におこしてもいられない。彼はミッションを遂行させるということそのものにプロ意識を持っている。

 特にピンチの時、彼のモチベーションはマックスになる。当然その時、人並みに不安を抱きはする。が、それと同時にその不安を上回るプラスの感情で彼の心は燃え上がるのだ。『やってやる』というシンプルな意志が彼を成功へと導く。

 そして今がまさにその時。自分の脳をフル回転させ、相手にわかりやすい文章を作り上げ、それを素早く文字におこして送信した。


『いやだから、寝たんだってば(怒)』


 ダイノンがメッセージを送ってから数秒後、突然スマホがブルブルと音を出して震えだした。チャットアプリについている通話機能だ。


(うおっ!!あいつ、まじか!!)


 ダイノンが大慌てで通話に出る。


「おい!なに通話かけてんだよ!」


 ダイノンは声のボリュームを極力抑えて通話相手を怒鳴りつけた。


「いやだって......埒が明かないじゃん」


 スマホからヒラガナの声がきこえる。

 ダイノンはチラリと、ソファで寝ている武を見た後、武にクルリと背を向けて


「ターゲットにバレんだろうが」


と言った。


「......。あ」

「あじゃねーよ」


 ヒラガナがドジッ子というのは本当のようだ。


「まあいいや。もうききてえことだけ言うぞ」

「はいよ」


 ダイノンが質問をきりだす。


「ターゲットの武くんがな、部屋に入る前に寝ちまったんだよ」

「......ほお」

「でな、時間的にもおこしてやらねえと間に合わねえだろ?」

「ああ、なるほど。ターゲットをおこすことが、アルエスの発動条件を脅かすんじゃないかと心配したわけか」


 アルエスとは武の部屋に罠として張られた魔方陣の正式名称である。


「そゆこと。ここにきて急に察しがいいじゃん」

「結論から言うとセーフだよ。ただ......」

「ただ?」

「相手の視界に入っちゃ駄目。触るのも駄目」

「声でおこせと」

「そう。後、ターゲットが完全に目を覚ましたら、声もNGになるから」

「目を覚ますギリギリのところで黙らねえといけねえのか」

「できる?」


 ダイノンは少し思案してから答えた。


「楽勝」


 それを聞いたヒラガナの声が心なしか明るくなった。


「いい結果報告まってるよ」


 どちらからともなく通話を切る。


(さて、と......)


 ダイノンはスマホをしまい、武の方に向き直った。その直後、


「うおおっ!!」


と変な声をあげて身構えた。

 理由は単純。先程までソファに座って爆睡していたはずの武が、いつおきたのかソファの背もたれから顔だけだしてダイノンをガン見していたのだ。

 ダイノンは一瞬頭の中が真っ白になった。そしてすぐ冷静になった後、その冷静な頭で計画が完全におじゃんになったことを理解した。

 魔方陣の発動条件はシビアで、魔方陣が張られていることを知っている人間がターゲットに姿を見られだけで『助言』ととられてしまうのだ。体の動きで相手に何かしら悟らせることができるからである。


 武はダイノンをガン見したまま動かない。頭が混乱したいるのだ。目の前の男がただの泥棒なのか、それとも昼夜逆転現象に関わりのある男なのか、必死に推理している。

 ダイノンは迷っていた。今すぐなにも言わずに立ち去るか、もういっそ誘拐でもしてしまうか。


 先に行動したのは武だった。


(裏力......っ!!!)


 頭の中でそう唱えて、武は裏力を発動した。

 武は体がスウッと冷えていくように感じた。

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