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表と裏の戦闘狂  作者: bed
少年消失編
6/11

表力発動!

 畑美代子は夜更かししていた。明日の仕事は夜からだし、何より眠れないのだ。


『この少年は今日帰宅してはいけない』


 あの言葉が頭から離れない。あの少年は無事だろうか、あの声は本当に幻聴だったんだろうか。いろいろな疑問が彼女の頭を渦巻く。


「しょうがないか」


(心配したって)


「寝よ」


 美代子はどうせ眠れないとわかっていながらも、そう呟いてベッドへ向かった。






 眼前に自分のアパートが現れた途端、妙な安心感がわいてきて、武の歩く速度が心なしかあがる。


(もう少しだ。ほんのあと少し)


 武は心のなかで自分を励ます。


(がんばれ。あとちょっと)


 歩を進める武のとなりを、暖かそうな格好の男が通りすぎる。暗くて色はよくわからないがコートを着ている。身長180程だろうか。近くでよく見ると細身で童顔である。

 武は一瞬、深夜にうろついてる小学生の自分を注意してくると思ったが、男はそのまま通りすぎた。


 武にはわからなかったが、男は武とすれ違ったすぐ後で、上着のポケットからスマートフォンを取り出した。






 閉まっていた玄関の鍵を開け、ニセ武は何かやり忘れていることがないか頭の中でおさらいし始めた。必要なものは設置したか、両親の暗示は完了したか。もっとも暗示は彼の能力ではないが。


ぴろ~ん


 ニセ武のスマートフォンが彼の右ポケットで鳴った。

 ポケットから取り出してメッセージを確認する。


『来たよ~♪』


 案の定彼の仲間からだ。

 ニセ武はメッセージを確認すると、


「やっとかよ」


と呟いてスマホをしまう。そしてフウとため息をつくと、頭の中で自身の表力の名前を唱えた。


他人の底力(パワー・コレクター)』!!


 するとどうだろう。彼の脚がみるみる形状を変えていく。


ミシミシ......メキッ!!


 筋肉が盛り上がる。ブカブカに作られた半ズボンがパンパンに張る。皮膚の色が変わる。

 変化が止まる頃には、脚は完全に人間のものではなくなっていた。カンガルーだ。他の部分は人間のまま、脚だけがカンガルーになっている。

 ニセ武は変形が完了したのを確認すると、その場でジャンプした。






 アパートに着いた武は、外にむき出しでボロボロの階段をのぼり始めた。

 カンカンと音をたててのぼりながら、武はある不安に襲われていた。もし鍵が閉まっていて、親も寝ていたら野宿決定ということだ。こんな冷える夜に野宿なんてしたら翌朝には冷凍ミイラができあがっているだろう。


 2階に着いた武は自分の家の玄関まで歩く。その途中、ふと思った。こんな夜中まで帰宅しないで親がなにもしないはずがない。なにかきっと、自分が想像している以上に事は大事になっているのかもしれない。まあ昼夜逆転した時点で既に大事なのだが。


 自分の家の玄関につく。

 恐る恐るノブに手をかけ、ごくりと息を飲んだ。心の中でカウントダウンを行う。


(3、2、1......っ!!!)


 思いきりノブを回して扉を手前に引いた。


ギイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!


 近所迷惑な音をたてて扉が開いた。


(やった!開いてた!!ラッキー!!!)


 武は心の中で歓喜した。これでとりあえず野宿は回避したようだ。

 家の中に足を踏み入れて中の様子をうかがう。玄関から見る限り、電気はついておらず真っ暗だ。


「ただいま~」


 武が小さな声で呼びかけるも、闇が声を飲み込むばかりで返事がない。


 そして武の頭上、玄関の天井で、両脇の壁に両手両足を突っ張って貼りつき、ニセ武が息を殺している。






 先程アパート近くで武とすれ違った細身で童顔の男は近くのコンビニを見つけ、寒さから逃れるように入店した。


「いらっしゃいませ~」


 男の店員が男に挨拶する。店員は目がギンギンになって、ちょっとヤバそうだ。眠いのを無理矢理コーヒーかなんかでごまかしている人間のそれだ。

 男は入店後、商品を見るふりをしながらスマホをいじりだした。画面にはチャット画面のようなものが写っている。

 男がなにか打とうとすると、見計らったかのようにチャット相手からメッセージが送られてきた。


『おわった~?』


 チャット画面の上部、通信相手の名前が表記される部分に『カラスナ』と出ていることから、今の男の通信相手は『カラスナ』という人間なのだろう。まあ十中八九偽名だろうが。


『いや、むしろこれから』


 男はそう打つと送信ボタンを押す。

 するとすかさず相手から返信が来る。


『え!?おっそwww』

『俺が時間設定間違えた』

『何分間違えたの?』

『1時間』

『バカすぎwwwww』


 こんな深夜だというのにカラスナとかいう奴はいやにテンションが高い。いや、深夜だからか。


『今日もドジッ子絶好調だね(笑)』


 カラスナのこのメッセージから、童顔男はドジッ子だという事が判明した。誰も得しない情報だ。


『まあね。それほどでも(^O^)』


 男が商品を買うそぶりも見せずにスマホをいじる姿を、健康的な問題でヤバそうな店員が迷惑そうに見つめていた。






 武は玄関の明かりをつけずにそのまま靴を脱ぐと両親の寝室へ向かった。

 支えを失った扉がまたもや


んぎいいいぃぃぃいい???:+*@:;=(


と、近所迷惑な音を出しながら閉じる。


 両親の寝室の襖を開け、武は小声で呼び掛けた。


「ねえ?いる~?」


 返事はない。

 暗くてよく見えないため電気をつけようかと思った矢先、


ぐごおおおおおおお


というイビキが聞こえた。

 武の父のものだ。とりあえず父親がいることはわかった。後は母親だ。


「うちの旦那なんか......くそ過ぎ......」


 この寝言は母親で間違いないと武は確信した。これで両親の所在はわかった。

 母親は夢の中で誰に愚痴っているのだろうか。


(浮気相手とかだったら傑作だな)


 武は心の中でそう呟いて笑った。


 玄関の天井でニセ武はモノホンの武の様子をうかがっている。脚はとっくに人間のものに戻していた。

 ニセ武の狙いは武の部屋にある。あの部屋には仲間の童顔男が罠を張っているのだ。

 実は何を隠そう童顔男は魔法使いなのである。そして武の部屋にはった罠というのは、まあ魔方陣みたいなものである。もっとも武の部屋に直接何かを書き込んだ訳ではないため、外から誰かが見て


「あ!魔方陣だ!」


という風にバレることはない。

 罠は武が『自分の意思』で、誰かに『強制』、もしくは『助言』されることなく部屋にはいると作動する。

 武を殺すだけならこんな面倒くさいことはしない。ニセ武達の狙いは殺しではなく、死刑囚刈谷一郎がどこかに隠したとある道具である。

 彼らは調査を進め、ついに3日前、有力な情報を入手したのである。


『刈谷一郎は逮捕前、葉狩武という少年と度々密会していた』


 彼等は確信した。刈谷の性格から考えて間違いない。


『刈谷は自身の表力を使って、葉狩武の体にその道具を封印したのだ』


と。

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