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表と裏の戦闘狂  作者: bed
少年消失編
2/11

表力と裏力

 葉狩武はノートを閉じて机に置くと、立って時計を見た。8時7分。当然だが午前である。

 時間を確認した武は部屋を出て洗面所に向かった。


 洗面所につくと、早速蛇口をひねった。両手でつくったコップに水をため、勢いよく顔を洗う。勢いよく、といっても別に


ブシャッ、ブシャルルルッ、ブシャブシャッ


と音をたてているわけではない。たてているのは


バシャバシャ


という水の音だけだ。

 なぜおっさんは顔を洗うときあんな音をたてるのか、武は心底疑問に思っている。ちなみに武の父、孝平も例にもれず『洗顔うるさい族』の一員である。


 顔を洗って満足した武は、手探りでタオルの場所を探す。


「あれ?」


タオルがない。顔が拭けない。


「......。」


 武は顔をベシャベシャに濡らしたまま、連続殺人犯、刈谷一郎との会話を思い出す。






「お前のその力は表力(ひょうりき)といって、世間一般では超能力と思われているものだ。表力は表力使いによってその内容が違う。お前のそれも、お前にしか使えない」

「表力自体は俺以外にも使える人がいるってこと?」

「ああ、そして表力使いのほとんどは自分が特別な力を持っている事を本能的に隠したがる」

「なあ~んだ。俺だけじゃなかったのか」






 武は濡れた手で目のまわりを拭い、辺りを見回す。誰もいないのを確認し、右手を頭の高さまであげると、今度はその手を胸の高さまで振りおろした。


 その瞬間!


バサッ


音をたてて武の右手から白い何かが現れた。布だ。武の身長より遥かに大きい布が武の右手に握られている。

 武はその布で平然と顔を拭く。


「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」


武は顔を拭くときめっちゃうるさい。1回擦るたびに鼻で変な呼吸をするからだ。


 拭き終わると、巨大な布を丸めて洗面台の上に掲げた。

 すると布は、今度は音もたてずに消え去った。布に付着していた水だけがペチャペチャと落ちる。


 今の白い布、あれこそが武の表力である。サイズ、形状、色の変更はできないが、あの白い布を無から新たに作り出し、そして同様に消滅させることができる。

 この事は武と刈谷しか知らない。武も例に漏れずずっと隠してきたからだ。本当のところ、実は刈谷一郎にも教えるつもりはなかった。だが彼にはそれが手にとるようにわかっていたのだった。






「何で俺が表力使いってわかったの?」

「表があれば裏があるのさ」

「は?」

「この世には表力のほかにも、裏力(りりき)という力が存在している」

「その力を使うと相手が表力使いかどうかわかるん?」

「ああ、裏力は表力と違って誰が持っていようと使える能力は同じでね、表力使いを見抜くのはそのうちのひとつだよ」

「裏力っていっぱい能力あるの?」

「合計3つ。

直接視認した相手が表力使いかどうかわかる怪視(かいし)

直接視認した相手が魔法使いかどうかわかる闇視(あんし)

自分自身の正確な自立時間がわかる霊触(れいしょく)だ」


 聞けば聞くほどわからない事が増える説明に、この当時8才の武はうんざりしてきた。それを察してか、解説役の刈谷はこう付け足した。


「とにかく今日はこれだけ覚えておけ。魔法使いにあったら走って逃げろ」

「え!なんで!?」

「話すと長くなるからまた今度な。次あったとき裏力のマスター方法教えてやるから、それ使って相手が魔法使いってわかったらすぐ逃げるんだぞ」

「裏力って俺でも使えるんだ」

「表力が先天性なのに対して裏力は後天性だからな。習得方法がわかれば誰でも使えるようになる」

「うん。じゃあ次回は裏力の修得方法と」

「と?」

「魔法使いと自立時間とかいうのについても教えてね」

「ああ、また来週な」






 朝食を食べ終わる頃には9時半になっていた。

 友達と遊ぶ約束もしていなかったため、あてもなく外をブラブラするはめになる。友達がいない訳ではない。決して友達がいない訳ではない。


 様々な大型店やマンションやらが立ち並ぶ大通りを歩く。脳内では好きなバトルアニメのオープニングテーマが流れている。

 大型書店の駐車場の前を通りすぎようとした武の目に、とある看板が写りこんだ。


 『1000円以上お買い上げで、あの(はた)美代子(みよこ)先生の占いがうけられる!!』


 畑美代子は4年ほど前からテレビにちょくちょく出演している、トークもできる占い師である。むしろトークが売りで占いがおまけみたいになっている。


 本を買う気などさらさら無かった武だが、自然とそこで足が止まっていた。心なしか駐車場にはいつもより車が多い気がする。

 武は少し迷ったあと、駐車場を突っ切って店の入り口に向かった。






「はい、げんきだしてね!!さようなら」


 畑美代子はまた一人の占いを終えると一息ついた。

 地方のイベントはあまりやる気が起きない。来る客も全体的にイモ臭いし、笑いのツボが少しずれていて掴みにくい。


 彼女は近い未来しか占えない。いや、正確には占いではない。対象者を直に見ることにより、その人の次のあらゆる行動の可能性を百パターンほどに区分けし、そのなかで一番高い確立のパターンを一瞬で導きだしているのだ。だからあまり遠い未来は見えないし、絶対にあたる訳でもない。

 そしてそれが彼女の表力だった。彼女自身は表力という名前を知らないし、自分以外に力を持った人間がいることも知らない。


 持参したペットボトルを一気に飲み干す。束の間の自分だけの空間と時間を味わう。


「すいませーん」


 元気に、でも少し遠慮がちに小学生らしき男の子がやって来た。かわいいなと思った次の瞬間、


『後悔する』


そう頭に浮かんだ。

 何度もいうが彼女の能力は占いではない。あくまで一番可能性の高い行動を導きだすだけだ。しかし彼女の頭にはこの少年の未来が、なぜか言葉で流れて来るのだ。


『この少年は絶対に後悔する』


 言うべきではないのかもしれない。この少年をいたずらに怖がらせるだけだ。いつもやってるみたいにこの少年もおしゃべりで元気にして、必要なら励ましてやればいい。そしてそのまま帰ってもらうんだ。

 そう言い聞かせるのだが、頭を流れる言葉には強い強制を感じる。


『この少年は今日帰宅してはいけない』


 美代子はそっと口を開いた。

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