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表と裏の戦闘狂  作者: bed
少年消失編
1/11

日曜の朝

修正は基本、誤字脱字に対してのみ行います。内容の訂正はないので、読み直しの必要はありません。

 葉狩武(はがりたける)は眠りについた意識の中で考える。






 どうして俺はプロレスラーみたいに大きな体じゃないんだろう。今はまだ小6だけど、両親を見るにこれからも望みは薄いだろう。


 大きくなくても、去年卒業した先輩みたいにがっちりした、力士みたいな体だったらよかったのに。そしたらもっと強かったのに。


 勉強くらい頑張っておけばよかった。そしたら強くなくても、もしかしたら大丈夫だったかもしれない。


 きっとそうだ。


 きっともう少しだけ自分に自信がもてて、今頃とっくに告白してたんだろうな。


 俺には何があるんだろう。


 このまま大きくなって、朝日(あさひ)ちゃんと誰かの結婚を祝って、子供の生まれた幸せな家族を遠くでみつめて、最後はひとりで死ぬのかな。


 嫌だ。


 あ、でもあのときの刈谷一郎(かりやいちろう)みたいになれるなら、そんな人生でも我慢できる、かも。






 葉狩武は畳にしかれた布団の上で朝をむかえた。


 武は普段、先程のよくわかんないポエムが全く似合わないくらい元気な少年だ。


 武は目が覚めるなり1秒の躊躇もなく布団から飛び起きると、1秒の休憩も挟まずに着替え始めた。


 武の着替えは2秒で終わる。最初の0.5秒で上と下のパジャマを同時に脱いで、残りの1.5秒で半ズボンと半袖を同時に着る事ができるからだ。

 『世界に誇る日本人』、みたいなタイトルのテレビ番組に職人枠で出演できるレベルの神業である。まあこんな技、全然世界に誇れないし、どちらかというと日本の恥に属するものだが。


 まだ5月中旬なのに、武の私服は全て半袖半ズボンに衣替えされている。というのも武の通う旧代小学校には、『寒がりな男=豚』という意味不明な常識が存在しているからだ。豚になんの恨みがあるのか知らないが、とにかくそういうことになっている。一応そういう決まりではあるが、実際に真に受けているのは低学年くらいであり、最高学年にもなって真に受けているのは、武を含めた一部のバカだけである。


 着替えを終えた武はようやく一息ついた。


 この部屋は武が勉強、遊び、睡眠を行っている、いわば『たけるのへや』で、なんと畳1枚分もの広さがある!

 いや、武は勉強しないから正しくは、遊び、睡眠のみか。


 少しボケっとしたあと、今度は着替えたときとは逆に、物凄くとろいスピードで布団をたたみ始めた。やってられっかこんなん、みたいな不満オーラが体から溢れてくる。

 それでもなんとか畳んで押入れに片付け終わる。


「まぶっ」


 カーテンを開けた瞬間、小さなガラスの小窓からいつもより強く差し込んできた朝日を浴びて、武は思わずそう呟いた。

 関係ないかもしれないが、独り言って結構みんないったりするんだろうか。気になる。


 鋭く差し込んだ朝日が、武の狭くてボロい和風の部屋を暖める。

 武の部屋は押し入れを除けば本当に畳一畳のスペースしかない。入り口は長辺の片側についている襖である。そして向かったもう片方の長辺に押入れ、入り口入って左の短辺に先程の小窓がある。


「......。」


 武は少し黙って外を見たあと、小窓の下にある小さい机に視線を落とす。この机は、ある男がこの狭い武の部屋の為だけに手作りしてくれたものだ。棚すらないがかなり丈夫にできていて、武が上に乗っても壊れることはない。

 ちなみに椅子は寝ている間、ひっくり返して机の上にあげている。こうしないと布団がしけないからだ。


 武は例によって机の上に上がっている椅子の足を掴むと、自分の真上を経由させて畳の床においた。もちろんこの椅子も手作りだ。


「ほら武、そろそろ起きろ」


 そう言って武の父、孝平(こうへい)が入り口の襖を開け顔を覗かせた。

 武ももう12才なのだからもっとあのシーンを警戒して入ってくるべきではないだろうか。


「お、なんだちゃんと起きてたんか」


 来たばかりの孝平だったが自分の息子の生存を確認すると


「早く飯食いにこいよ~」


と言い残してすぐに去っていった。武は一度も父親の方を見なかった。


 孝平が出ていった後、壁に立て掛けてある、机の上のノートを手に取った。


『新聞、切りぬき』


と表紙にマジックで書かれている。


 武は一旦椅子に座り、ノートをパラパラとめくりだす。そのなかの切りぬき全てがある男に関するものだった。


『連続殺人犯、刈谷一郎』


 半年前に捕まるまで10年もの間、殺人を繰り返した男。死刑待ったなしの凶悪犯。

 そして武の命の恩人であり、この部屋の机を作った人物である。



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