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民間伝承(フォルクローレ)

民間伝承(フォルクローレ) 【カンダラッチの物語】

 皓々と夜空を照らす月明かりが、地平線のゆるやかな弧をくっきりと描き出している。天蓋は深く透みきった蒼、こちら側の大地は漆黒の闇。果てしのない平原がどこまでも続くように見えるけれど、不思議といつかは、次の街に着く。

 明日はヴェルマの街に着くな。

 一座の雰囲気がうきうきと華やいでいるのが、アイシャにもわかる。けれども本当に城壁が見えてくるまで、アイシャはいつも少し不安だ。

 指先に息を吐きかけると、温まる前にしっとりと濡れた。アイシャは躰が冷えてきたのに気付き、天幕に戻る。天幕のなかは、獣脂を燃した灯から出る煙で、白く霞んでいる。この(けもの)くささは、生まれたときからアイシャには慣れた匂いだ。

 交易路を行き来する旅芸人の一座の宿営である。座長はアイシャの伯父だ。交易路に点在する都市(まち)を巡って、芸を見せて稼ぐのはもちろんのこと、香辛料や工芸品なども少しは商ったり、頼まれて品物を運んだりもする。

 アイシャは、賑やかな天幕の中を見回して、織機で絨毯を編みつけている祖母の横に腰を下ろした。

「明日もきっと晴れよ、お婆ちゃん」

「そうかね、それはよかったねえ」

 祖母は、ほとんど目が見えていないという。にも関わらず、祖母が織りあげる絨毯の模様は緻密で鮮やかで、アイシャの不思議の一つだった。仕入れた糸をそのまま売るより、よほど高価く売れるのだという。また、祖母の絨毯は、絵巻物のようになっていて、何かのお話が編み込まれているのが特徴だった。

「ねえお婆ちゃん、今日はどんなお話を織ってるの?」

 それは、アイシャが祖母に話をせがむときの決まり文句だった。祖母は絨毯を編む手を止めて、ゆっくりと歌うように言った。

「そうだねえ・・・・、アイシャもよく知ってる、あるお菓子にまつわる話さ」

 


 昔、乾燥地帯(ステップ)の懐深く、ナザフという国に、ナスール王という王がいた。

 王の後宮に、シュリーディヤという姫君がいた。もともとはカリスタンという小さなオアシスの王族の姫君で、王が征服の戦利品として持ち帰ったものだ。彼女は大層美しく、星も恥じらうほどと評判だった。

 さて、小さいながらも勢いのあるナザフの国を治めるナスール王だったが、心配事が一つあった。

シュリーディヤ姫がいつも俯きがちで、(つい)ぞ王に微笑みかけることがないのだ。他国から高名な医者を呼び寄せ、診せたが、「お躰に異常はございません、気鬱の病でしょう」と言われた。

王は姫の機嫌を取ろうと、(めづら)かなものをあれやこれやと買い与えた。交易の路を通じてもたらされる、砂漠の奥地に産するラピスラズリ、月の光を編んだように(すべ)らかで軽い紗、熱帯雨林の国に産する希少な香木。けれどもそのいずれも、姫の気鬱を晴らすことはできなかった。憂いを含んでうつむくなよやかな姫は、消えかかった繊月かはたまた露に濡れた(はす)のごとくで、ナスール王は何とかして微笑みを見たいものだと切望していた。

 王は姫に尋ねた。

「何がほしい、おまえの笑顔を見たいのだ」

 シュリーディヤ姫は力なく首を振った。

「王よ、お気持ちは嬉しいのですが、私がほしいものは、もうこの世では手に入りませぬ」

「何を言う。お前のためならば、地の果てからも手に入れてみせよう。遠慮無く言ってみよ」

「王よ、お怒りにならないでください。私の故郷カリスタンには、ハルヴァとよぶ特別な菓子がございます。それは、カンダラッチと呼ばれる職人によってのみ作られ、その技法は門外不出の秘法とされています。あれを、もう一度食べたいのです」

 ナスール王は、カンダラッチである者は名乗り出るよう、国中に触れを出した。その一方で兵士(つわもの)たちには、草の根分けても探し出せと命じた。

 果たして、一人の若者がナスール王の前に引き出された。王は自ら閲見し、若者に質した。

「貴様はカンダラッチか」

「然様でございます、ナスール王」

「妾のもとめる、ハルヴァという特別な菓子というのを、つくることができるか」

「残念ながら、作ることはできません」

「何故だ、貴様はその特別な菓子を作る職人なのだろう」

「恐れながら、勇猛なるナスール王、この国では材料が揃いません。ハルヴァをつくるためには、ウシュア(かずら)の肥大した茎根が必須なのです。ウシュア(かずら)(すぐ)れて清らかなオアシスの水辺に自生するものですが、恐れながらカリスタンのオアシスは泥が流れ込み、ウシュア葛は枯れ果ててしまいました」

 オアシスを軍馬で踏み散らした当の本人であるナスール王は、気分を害したように眉を顰めた。

「ではもはや手に入らぬと申すか」

「……さて、私はこの眸で見たわけではありませんが、ウジュハーンの王城には聖なる川の源があり、そこにはウシュア葛があると聞いております。しかしウシュア葛はかの国では聖なるものとされ、持ち出すことはできぬと。」

 ウジュハーンは北方に古くからある城砦都市である。草原交易路の終着点であり、隊商はそこで荷を積み替え、天山山脈越えをするか、南方に向かう。

「持ち出せぬとあれば、奪うしかあるまい」

 ナスール王の胸に、ウジュハーンの王城深く、いにしえから蓄積された財が去来した。

「よくわかった、カンダラッチよ。ではそのウシュア(かずら)の茎根があれば、その菓子を作れるというのだな。私がその茎根をもたらした暁には、カンダラッチよ、作れぬでは済まさぬぞ!」

 王はただちに軍馬を集め、ウジュハーンへと旅立った。カンダラッチの若者は、行方をくらますことができないよう、王宮の一角に繋がれた。


 3月ののち、ナスール王がウジュハーンの王城を攻め落としたという知らせが、王宮に届けられた。その早馬は王の命令と、命令を果たすのに必要なものを持たされていた。

 カンダラッチの若者は、早馬が持ち帰ったウシュア葛の茎根を使って、王の帰還までにハルヴァを作り上げられなければならなかった。

 若者は王宮の厨房で、ハルヴァづくりにとりかかった。彼は王の料理職人を退けて、一人で作業にあたった。

 それから七日の後、王の軍旗は王宮の城門に到達した。

 ナスール王は祝宴もそこそこに、カンダラッチの若者を呼び出した。

「カンダラッチよ、貴様の言うウシュア葛の茎根は持ち帰ったぞ。シュリーディヤの気鬱を晴らす、特別な菓子はできあがったのだろうな」

「王よ、お申し付けのとおり、ハルヴァはこちらにございます」

 カンダラッチの若者は、足のついた銀盆に薄絹で覆いをかけたものを持参していた。ナスール王はその絹を取り去るよう命じた。カンダラッチの若者は拝伏したまま王に願い出た。

「寛大なるナスール王よ、お願いがございます。ハルヴァはそもそも神と王に献げるもの。ぜひ、シュリーディヤ様にも直接献上させていただけますよう。」

 ナスール王は出鼻を挫かれて、機嫌を損ねたが、宰相の取りなしもあり、カンダラッチの若者の願いを聞き容れることにした。

 家臣達が居並ぶ大広間に場所を変えて、ナスール王はシュリーディヤ姫を伴って現れた。といっても、家臣の目に触れぬよう、紗幕で覆われた天蓋に隠れてのお出ましである。噂に名高い、緑溶けこむオアシスの水面のごとき瞳も、月光も色褪せる白い膚も、星々の輝く夜空をうつしたと讃えられる黒髪ひとすじさえ、男たちの想像を掻きたてるだけで、完全に隠されている。

 カンダラッチの若者は、ハルヴァを載せた銀盆から、覆い絹を取り去った。小姓がそれを王の目の前まで運ぶ。

 生まれて初めて目にするその食物に、王は拍子抜けし、むっと眉をしかめた。それは砂漠の砂を固めた餅ような姿をしており、わざわざ兵を起こし、3月もの遠征を経て作らせる価値のあるものとは、とても思えなかったのだ。

 しかし、シュリーディヤ姫の気鬱が慰められるならと、半信半疑ではあったが、ナスール王は銀盆から砂色のハルヴァを一切れ切り分け、手ずから姫に運んでやった。

「さあ、シュリーディヤ、そなたのもとめたハルヴァとはこれか」

 天蓋の中で、姫は白い緞子のクッションに躰を預け、水仙のように顔をうつむかせていたが、王の差し出したそれを見て、エメラルドの瞳に輝きを浮かべた。

「まあ、何と嬉しいことでしょう。再びこのハルヴァに会えるなど。感謝いたします、ナスール王」

 姫は面紗(かおぎぬ)を外して、ハルヴァを口に運んだ。珊瑚のような唇がそれを含み、しゃりしゃりと小気味よい音をたて、半かけが姫の喉に消えた。

「王もどうぞ、お召し上がり下さいませ」

 シュリーディヤ姫はそっと微笑んで、残りの半かけを王に勧めた。姫の華やいだ様子に、ナスール王はおおいに胸をかきたてられるとともに、この見たこともない菓子、ハルヴァに興味が湧いた。

 これほどまでに人を感動させる食べ物とは、いったいどんな味なのか。

 ナスール王は残りの半かけに齧りついてみた。

「おお、おおぅ・・・・・」

 これまで食べたことのない美味に、ナスール王は思わず呻いていた。

 それは天山山脈(トゥルルガル)の雪のようにさくさくと軽く、儚くも口の中にとろけ、そして、数多の堅果(ナッツ)、数々の香辛料の風味が複雑なタペストリーを成して神秘的に広がっていくのだった。そしてそれらが一体となった幻妙な甘い蜜が喉を降る。

 永い歴史を重ねた国には、斯様に幻妙な洗練された食物があるものか。

 ナスール王は、一口でこの食べ物、ハルヴァの虜となった。

 天蓋の紗幕の外では、家臣達が心配そうに王の現れるのを待っていた。ナスール王は気性が激しく、もし若者の献上した菓子が気に入らなければ、この場で首を刎ねるかもしれない。また、それだけでは足りず、寵姫であるシュリーディヤ姫の機嫌をとる、あらたな何かを探す羽目になるかもしれなかった。

 姫の天蓋から姿を現したナスール王の満足げな表情に、ほっと安堵したのは、カンダラッチの若者よりもむしろ、居並ぶ家臣だったかもしれない。

 ナスール王は壇上に立ち、カンダラッチの若者を見下ろして言った。

「よくぞ拵えた、カンダラッチよ。妾も気に入ったようだ。特別に褒美をとらせよう。何がほしい」

 寛大な王の言葉に、ざわざわと家臣達がざわめいた。王はよほど機嫌がよいらしい。

 それなのに、若者はこのように言った。

「武勇誉れ高きナスール王よ。このたび私の作りましたものは、ハルヴァのなかでも、最も平凡なものでございます。料理の出来映えは素材に左右されるもの。西のジェフティには、大いなる堅果(シャイスターン)と呼ばれる堅果(ナッツ)がございます。これは琥珀と等しい値で取引される希少なもので、それを使えば、ハルヴァはより力強く、ナスール王にふさわしき美味になりましょう」

 若者の奔放な物言いに、家臣達はさらに落ち着きを失いどよめいた。ナスール王は3月の遠征を経て、帰国したばかり。ウジュハーンの王城を征し、多くのものを持ち帰ったとはいえ、国庫(くにのたくわえ)は消耗し、兵は疲れていた。

 家臣も宰相も、王が言下に退けるものと思っていたが、その見通しは裏切られた。

「ジェフティは砂漠の奥地。砂漠を越えてそれを得てこいと申すか」

「シュリーディヤ姫と王に喜んでいただきたく」

 若者は臆することなく言い返した。

 ナスール王の気分はこれまでになく高揚していた。3か月を要したとはいえ、ウジュハーンは王の手に落ちた。かの王城を埋めていた金細工の数々、それをおのれのものとしたときの胸の震えは、幾度でもまざまざとよみがえる。

 ジェフティは砂漠の西の淵に点在する都市同盟であり、商人の街といえどその潤沢な富はウジュハーンの比ではないといわれている。東西南北の交易路の交差点とあって、大粒の真珠、玻璃の杯、象牙、黄金虎の毛皮など珍宝貴宝も数多(あまた)取引されており、、ナスール王は早くもそれらを我が物とする光景に胸躍らせた。

 また、初めて目にした、シュリーディヤ姫の晴れやかな微笑みが眼裏から消えなかった。いまだ頑なな姫の心が(ほと)びるなら、少々の犠牲は厭わぬ気持ちになっていた。

「よかろう、カンダラッチの若者よ。そなたの頼むとおり、ジェフティの持つ大いなる堅果(シャイスターン)を得てこよう!」


 そうして、ナスール王は家臣や宰相の諫めもきかず、再び兵を集め、西へと出立した。砂漠を越えての遠征は非常な困難がともない、その三分の一にものぼる兵を失ったが、1年の後には、ジェフティの都を攻略したとの知らせが届いた。

 また、王の留守中に、シュリーディヤ姫は一人の子を出産した。サヘルと名付けられたその男児は、庶出の王子の一人として後宮で育てられることになった。

 さて、戦勝を知らせる伝令と共に、大いなる堅果(シャイスターン)を山と積んだ荷車が一足先に戻った。例のごとく、カンダラッチの若者は王の帰都までにハルヴァを拵えなければならなかった。若者は王の命令通り、王が宮殿に到着するまでに大いなる堅果(シャイスターン)を用いたハルヴァをつくりあげた。

 王は母后と正妻に戦勝の報告をし、持ち帰った宝物の幾つかを贈り物とした。そうして義務を果たすと、すぐにもシュリーディヤ姫を見舞った。

 姫は子どもを産んだ疲れからか、なおほっそりと儚げであり、王は心配で身を引き絞られんばかりだった。しかし、姫は気丈に王の戦勝を言祝(ことほ)いだ。

「王が砂漠の果てから私のために大いなる堅果(シャイスターン)を持ち帰られたというのに、伏せっているわけにはまいりません。皆様の前でいただかなくては、誉れを汚すこととなりましょう」

 それを聞き、ナスール王は広間にクッションを敷き詰めた天蓋をしつらえさせ、シュリーディヤ姫とともに、カンダラッチの若者にハルヴァを献上させた。

 若者は家臣と宰相の見まもるなか、うやうやしくハルヴァを献上した。彼が大いなる堅果(シャイスターン)を用いて作り上げたハルヴァは、上質の紫檀のような艶やかで深みのある色合いを呈していた。

 ナスール王は銀盆に載ったそれを、手ずから天蓋の紗幕の中のシュリーディヤ姫に運んでやった。

「まあ、何と美しい、虎目石のよう」

 桜桃の唇がさくりとそれを含んだ。王の見つめるなか、姫はしゃりしゃりとそれを咀嚼し、その蜜液を細い喉で嚥下した。姫は陶然と目を瞑り、それを味わってから、

「無上の喜びでございます、ナスール王。」

 と、目元をほころばせて礼を述べた。その風情は、オアシスに射した木漏れ日が風に揺れ、水面が煌めくさまを思わせた。

 王は期待に満ちて、自らもそれを食べてみた。

 えもいわれぬ美味が王を襲い、王は目眩がするほどに衝撃をうけた。

 その絶妙な食感、水晶を薄く剥離して重ね合わせたような軽い歯触りと、沫雪のとけるように口中に広がる妙味。前のものよりも遙かに力強く風味絶佳であり、もはや以前のそれは画竜点睛を欠いた代物と言わざるを得なかった。ナスール王は、この前は、未だかつてない美味と賞賛したものが、まったく色褪せた土器のごときものだったと知った。

 しばらく言葉を失っていた王だが、感に堪えないように嘆息した。

「なんという、なんという素晴らしい美味なのだ。よくぞこのようなものが・・・・・」

 王は天蓋の紗膜を跳ねあげて、カンダラッチの若者の眼前に仁王立ちになった。

「全く素晴らしいぞ、カンダラッチよ。これでシュリーディヤの躰も恢復に向かうだろう。この働きにふさわしい褒美をとらせよう。何がほしい。望みのものを何なりと言うがよい」

 ナスール王の鷹揚な、そして放埒な言いように、居並ぶ家臣も宰相も、不安を覚えた。先年も同じような場面に出くわし、兵の三分の一を失う戦にそのまま引きずり込まれたのだ。兵だけではない。財貨も、鉄も、糧食も、何もかもが蕩尽されていた。

 彼らは恐れ慄きながら、若者が何を言い出すのかみまもった。

「偉大なるナスール王。すべては王がジェフティを攻略され、大いなる堅果(シャイスターン)を得てこられたがため。私の手柄ではございません。・・・・ですが、一つだけお願いを申し上げてよろしければ。

 勇名並び無きナスール王よ、南方のアグラの深き森では、摩訶果樹(マハースラタ)と呼ばれる香料が採れるのをご存じでしょうか。無論、常に採れるわけではありません。熱さ、湿度、その他様々な条件が重なって、はじめて得られるものです。その香料はあらゆる花、あらゆる香味の特長をそなえており、それを用いた食べ物を食せば、天上の花園に遊ぶ心地がすると言われております。」

 居並ぶ群臣達から、落胆と苦吟が漏れた。彼らは互いに顔を見合わせ、しきりに何かを押しつけ合った。しかし、誰も王を直接諫めようなどと勇気のある者はいなかった。

ことシュリーディヤ姫に関して、王の機嫌を損ねようものなら、牢獄行きか、砂漠に追放されるのは覚悟せねばならなかった。

 宰相は見かねて、王に申し出た。

「王よ、アグラは肥沃で広大な亜大陸に古くから栄える大国。ラージャンと呼ばれる王が何代にもわたって支配し、その都はすべて白く輝く大理石でできているとの噂。それを攻略しようなど、夢にも思われませぬよう。」

 ナスール王はぎろりと宰相を一瞥した。

「だが宰相よ、アグラの(ラージャン)は、それゆえに我ら神踏山脈(ティノス)の北の民を蛮族と蔑視し、軽んじているというではないか」

 宰相は、むむ、と黙りこんだ。

「なにも攻め滅ぼそうというのではない。都を叩き、我らの力を見せつけ、その摩訶果樹(マハースラタ)とやらを差し出させればよいのだ。」

 宰相はなおも抵抗を試みてみた。

神踏山脈(ティノス)の高き峰々は、・・・・・隊商はともかく、軍馬の通れる路ではありませぬ」

 神踏山脈(ティノス)は、西の天山山脈(トゥルルガル)と並んで、天を支える大いなる山脈である。神々の住まうところ、精霊の王とあがめられ、幾つもの小数部族がその裾野を護っている。

「西のジェフティを経由すればよい。ジェフティから南に伸びる南西行路を使えば、神踏山脈を迂回し、アグラに侵入できよう」

 そこまで王の決意が固まっておれば、もはや誰も異を唱えることなどできなかった。長期の遠征が予想されるため、出立は三月の後と定められた。国中の若者がかき集められた。また、麦や干し肉、武具(もののぐ)の数々が王都に集められた。

 出立の前夜、ナスール王はシュリーディヤ姫を抱きしめて言った。

「そなたの微笑みが私を動かすのだ」



 王を先頭にして、軍馬が砂塵の向こうに消えてから、1年が過ぎ、2年が過ぎ、ようやく3年が過ぎて、王宮によい知らせがもたらされた。ナスール王の軍勢は、ジェフティを経由し、神踏山脈(ティノス)を迂回してアグラの国境を通過。南方特有の熱さや湿度、熱病などにも苦しめられたが、戦いで勝利を得て、都に肉薄した。アグラの(ラージャン)は王宮を逃げ出し、ナスール王は王都を手中にしたとのことだった。王はアグラの(ラージャン)と講和を結び、多くの財宝と南方行路からあがる利権の一部、そして国境沿いの幾つかの街を手に入れて帰途についた。

 シュリーディヤ姫の子は、4歳になっていた。

 伝令は、例の通り、摩訶果樹(マハースラタ)を一足早く持ち帰っていた。カンダラッチの若者は──成長してもう青年と呼べる歳になっていた──、王の騎馬が宮殿の城門に姿を見せるその前に、摩訶果樹(マハースラタ)を用いてハルヴァを作り上げた。

 王はアグラの王宮から、数多くの宝物を持ち帰っていた。戦勝の報告に加え、その宝物からとびきりの首飾りや指輪の数々を母后と正妻に贈ったが、シュリーディヤ姫には、母后と正妻には告げずに、星屑のような金剛石を縫いつけた薄絹と親指ほどの大きさもある、一対の真珠の耳飾を与えていた。そして、カンダラッチの青年を召し出した。

 カンダラッチの青年は、やはり銀盆にハルヴァを載せて、王の召喚(めしだし)をうけた。王と紗幕で覆われた天蓋が並ぶのも、いつものことだった。青年に引き続いて銀盆が大広間に運び込まれたときから、居並ぶ人々は何かふわふわと、よい心持ちになるのだった。

 王は小姓に銀盆を運ばせた。覆い絹を取り払われたハルヴァは、虎目石のような深みのある色合いに、きらきらと水晶の結晶のような煌めきが見えた。

 王はいつものように手ずから天蓋のなかにそれを運び、シュリーディヤ姫に与えた。姫がそれを口に含むと、馥郁と香りが広がり、天蓋のなかは、ばら、蓮、ジャスミン、チュベローズなど数々の花が咲き乱れたようだった。

 姫は悦楽に揺蕩う蝶ののごとく、うっとりと目を瞑った。王は姫の肩を抱き、もう一かけ食べさせた。姫は王に躰を預け、

「もはや何も申せませぬ、王・・・・」

 と嘆息した。

 金剛石を数多縫いとりした薄絹が姫の躰に輝きを添え、大粒の真珠が耳に揺れるのを見ると、ナスール王は自分の判断にこの上ない満足を覚えるのだった。

 王は自らも一切れ、食べてみた。

 予想を裏切ることなく、そのハルヴァは王を天上の花園へと誘った。香りは華やかでありながら、舌には甘み、辛み、香ばしさ、そして微妙な苦みが万華鏡のように心地よい刺激をもたらすのだ。

家臣達は、ナスール王が天蓋から出てくるのを、長いこと待った。ただ菓子を試食するにはあまりにも長く、最後には宰相が、姫付きの女官に様子を覗うよう命じたとき、ようやく王が天蓋の紗幕を跳ね、姿を現した。

 王の頬は上気し、眼は爛々と妖しい輝きを帯びていた。家臣達は今度こそ不幸が訪れたかと委縮した。

「・・・・・完璧だ、私は確かに天上の花園に遊んだぞ、カンダラッチよ」

「王の艱難辛苦がこのハルヴァをもたらしたのでございます、ナスール王」

 ナスール王は大きく頷いた。揃えられた材料で、この美味を作りあげたのはこの青年の功績だが、それを為しえたのは、王みずから戦に戦を重ね、四方を伐り従えて、材料を手に入れたからだ。

 そしてそれは、領土の拡張という恩恵となって国に還元された。

「よくぞ言った、カンダラッチよ。褒美を与えたいところだが、そなたのことだ、この美味をさらなる高みに押しあげる秘術を、知っているのではないか?」

「英邁なる王よ、仰るとおり、存じております、存じております・・・が・・、」

 珍しくも、カンダラッチの青年は言いよどんだ。宰相も家臣も、また青年がとんでもないことを言い出すのではと気を揉んだが、王の下問とあっては、遮るわけにもいかない。

「何だ、カンダラッチよ。遠慮することはない。私はこれまで、おまえの出す難題を見事果たしてきたではないか」

 青年は深く叩頭した。

「はい、・・・・・では、仰せに従いまして。天下に比類無きナスール王よ、これは、私も伝え聞くところでしか知りませぬ。東方の絹の国(セリカ)を治める皇帝には、専用の花園があり、皇帝が神より与えられたという青い蜂が飼育されております。この青い蜂が、青い花から採集した蜂蜜、これを加えた食べ物は、不老不死の霊力を授かると言われております」

 大広間は、しんと静まりかえった。

 絹の国(セリカ)はこの大陸の東方を治める大国。その支配者は王ではなく皇帝と尊ばれ、周辺の国々は威を恐れて朝貢こそすれ、戦いを挑むなど考えも及ばぬ、想像の埒外にある妄言だった。

 宰相は逆に安堵した。このカンダラッチの青年は調子に乗りすぎ、度を超した。さしものナスール王も無謀な言い種を一蹴し、立場をわきまえさせるものと確信した。

「不老不死の霊力か・・・・」

 ナスール王は鼻で笑った。カンダラッチの青年は、平身低頭した。

「我らが祖より伝えられた、最後の秘事でございます。」

 家臣達が固唾を呑んで見まもるなか、ナスール王はカンダラッチの青年の眼前に降り立ち、ひれ伏す青年の、露わになったうなじを見据えていた。

「青い花から採れる蜂蜜。そなた、扱えるのだな?」

「技法は、伝授されております」

 ナスール王は、衣の裾を翻して、玉座に戻った。

「宰相よ!聞いたとおりだ、軍備を整えよ!我が軍は絹の国(セリカ)の都目指して、進発する!」

「お待ちなされ!ナスール王!」

 宰相は叫んだ。

「埒もないことを仰るな!巨象に挑む蟻のごときものですぞ!」

 王の軽挙妄動を慎ませるのは宰相の役目、これまで黙って見過ごしてきたが、絹の国(セリカ)に楯突こうなど、ことが大きすぎた。

 ナスール王は、玉座に胡座をかいたまま、肩肘をついて宰相の諫めごとを聞いていた。宰相はさらに言い募った。

「ウジュハーン、ジェフティ、アグラ。その者の言葉に踊らされて、どれほど戦を重ねるおつもりか。民は疲弊し、国庫に銀の一匙も残っておりませぬ。絹の国(セリカ)に弓引こうなどと愚かな考えはお捨てなされ!」

「領土は広がったではないか。兵は新たな領土から徴発すればよい。蓄えが尽きておるなら、税を上げよ。」

 ナスール王は傲岸に言い放ち、すっくと立ち上がった。腰の半月刀を引き抜き、その白刃に家臣達の顔を映しながら、大広間を悠々と歩いた。

「確かに最初、この者の申すことは無謀であると感じた。しかし、結果はどうだ、我が領土は広がり、天山山脈(トゥルルガル)から神踏山脈(ティノス)まで版図を広げる、大国となった。アグラとて、干戈を交えれば安易に我が軍門に降ったではないか。」

 半月刀の先端が宰相の喉にぴたりと添えられた。

「卑屈になることはない、絹の国(セリカ)相手といえ、ただ膝を屈する必要はないのだ。軍備を整えよ、これは王の命令である」

 家臣達は一斉に平伏した。新たに領土に加えられた地域からも、多くの男が兵士として徴発された。小麦は兵糧として召し上げられ、納められた税はただちに矢刃甲冑へと換えられた。

 軍備が整うまでのあいだ、ナスール王は何度かハルヴァを作らせて、シュリーディヤ姫とともにそれを味わった。母后や正妻には、「カリスタンの王族にのみ伝えられるもの」と言って、ひとかけらも与えなかった。また、その技法が盗まれぬよう、カンダラッチの青年のための厨房をつくり、王の料理職人を遠ざけた。王はハルヴァを、シュリーディヤ姫と自分だけのものにしたかったのだ。

 半年後、王と王の軍勢は、軍旗を高々と翻して、砂煙とともに宮殿を発っていった。交易路を東に進みながら、北のウジュハーンの兵と合流し、街々から兵糧を徴発しての進軍となった。

 良い報せはなかなかもたらされなかった。国境を侵すものの、深くは食い込めず追い返される。戦いは、一進一退を繰り返し、いつしか5年を過ぎていた。

 さて、この戦いの時、宰相は王都ナザフに残されていた。戦が簡単には終わらぬことが瞭らかであり、留守中の政務をあずかるために残ったのである。宰相は、名をタリムといい、ナスール王の正妻の父であった。

 宰相タリムは、王のかわりに執政し、戦費と兵士を前線に送りながら、終わりも見えず勝ち目もない戦いに、もう我慢ができなかった。タリムは都に残った家臣達と結託し、娘である王の正妻を説得して、ナスール王の追放と、正妻の子、すなわち宰相にとっては孫にあたるアリーフ王子の即位を宣言した。シュリーディヤ姫と、姫の生んだ子は捕らえられ、牢に閉じ込められてしまった。

 この知らせは、中央平原を越えてナスール王のもとへ届けられた。王は絹の国(セリカ)との戦いを放棄し、急ぎとって返し、自らの領土のなかを破竹の勢いで進んだ。王が戦いを続けたせいで、都を守る兵もほとんど残っていなかった。宰相の差し向けた兵は王の蹄の下に、木っ端微塵に打ち砕かれた。

 宰相タリムは、這々の(てい)で王宮を逃げ出した。王宮を奪い返したナスール王は、追討軍を遣わして、宰相タリムを捕らえ、見せしめのため、煮立てた水銀を両眼に流し込むという残虐な方法で処刑した。

 また、正妻の子であるアリーフ王子は全身の皮をはがされ、王都郊外の木に縛り付けられて、鷲とハイエナのえさにされた。王の正妻は、自らの空中庭園の端まで追いつめられた。彼女は捕らえられる前にこう言った。

「哀れこのうえなきナスール王。あの女と菓子職人に唆されて戦で国を空けつづけ、その間にあのなよやかな柳腰が何をしていたのか知らないのか。子の父親が誰であるか、あの女に尋ねてみるがいい」

 そうして王妃は、空中庭園から身を投げて死んだ。

 王は急ぎ、シュリーディヤ姫のもとへかけつけた。姫はすでに牢から救い出され、後宮の彼女の宮殿に戻っていた。

 シュリーディヤ姫はハルヴァを銀盆に盛って、ナスール王を迎えた。

「お帰りをお待ち申しておりました、ナスール王」

 シュリーディヤ姫の美貌は、流れた年月を感じさせぬ美しさだった。しどけなく薄絹を巻きつけたほっそりとした肢体、星の輝く闇夜を写しとった黒髪、深く底知れぬオアシスの碧を宿らせた瞳、輝く月のごとき白い膚は、永遠にその輝きを留めおくことを約束された、精霊のようだった。

「王子は、サヘルはどこだ。あのカンダラッチの青年も。真っ先に牢より解き放ったはずだ」

「その前に、ハルヴァをお召し上がり下さいませ。疲れが取れ、気持ちがやすらぎましょう」

 王は、従順なシュリーディヤ姫が問いをはぐらかしたことに不満を覚えながらも、差しだれた菓子を乱暴に口に放りこんだ。

 ハルヴァは、かつてのとおり、想像を絶する神秘的な美味で魅了したが、どこか苦みが残った。

「シュリーディヤよ、そなたの願いどおり、こうして食べたぞ。答えよ。サヘルはどこだ。なぜ姿を見せぬ。あのカンダラッチもまた、行方が知れぬというではないか」

 シュリーディヤ姫は泰然と王に真向かい、穏やかな笑みさえ漂わせて、言った。

「王よ、彼らは王宮を出ました。私も、どこにいるか、存じませぬ」

 シュリーディヤ姫の豹変ぶりに、王は怒りのあまり、目の前が真っ白になるのを感じた。王は気付けば、手近な紗幕を引き裂いていた。

「それはどういうことだ。私は王都を回復した。もはや姿を消す必要はなかろう。・・・・それとも、」

 王は半月刀を引き抜き、シュリーディヤ姫の喉元に突きつけた。

「そなたら、謀り合って私を誑かしたか。北のウジュハーン、西のジェフティ、南のアグラ、果ては東の絹の国(セリカ)と。その菓子を囮に私を唆し、東奔西走させたか。あるいは戦場に追い遣り、私が戦で命を落とすことを狙ったか」

 シュリーディヤ姫は、数多の命を喰い破ってきた刀の、ぎらりとぬめる輝きにもおびえなかった。姫は悲しげに眸を細めた。

「王よ。王妃様よりお聞き及びなのでございますね。あなたの寵愛ゆえに、いますべてを明かします。サヘルの父は、あなた様ではございませぬ。ハルヴァを作り続けた、あのカンダラッチの若者でございます。」

 王の喉から獣のような咆吼がほとばしり、宮殿を(ふる)わせた。


「カンダラッチは私たちカリスタンの王族よりも旧く、ハルヴァの製法を伝えて参りました。ハルヴァは神への捧げ物、王はカンダラッチと結びつくことで王権を保って参りました。カリスタンを失ったいま、私の成すべきことはカンダラッチの秘技を後の世に引き継ぐ後継者を生み育てること。サヘルは無事10歳を迎え、秘められた技術を伝えることのできる年齢に達しました。いま召し上がったハルヴァは、サヘルが初めて拵えたもの。もはや私の目的は全うされました。いかなる刑に処されても文句はありません」

 ナスール王は部屋を歩き回り、うわごとのように繰り返した。

「殺してやる、殺してやる、ただで死ねると思うでないぞ。そなたも、あの若者も・・・・・、カリスタンのオアシスは塩で埋め尽くし、二度と草木も生えぬようにしてくれる」

「それは適いませぬ、王よ」

 姫が、そう言い切った刹那、慌ただしい跫音がなだれこみ、張り詰めた緊張を乱した。


「大変でございます、王!」

 ナスール王がシュリーディヤ姫と過ごしているときは、妨げてはならないという不文律があったが、それを破るに足る理由があったのだろう。息せき切って駆けこんでいた伝令は、房室(へや)に入るなり片膝をついて、王の許しも待たずに叫んだ。

「ウジュハーンに反乱あり!草原の民が叛旗を翻し、騎馬の軍団となって続々と集結、王都に向かっております!」

 ナスール王はゆっくりと振り返った。床に(こうべ)を向けたままの伝令が、もし視線をあげたなら、王の虚ろな眼差しに、肝を潰しただろう。

 シュリーディヤ姫の裏切りに、己の心を地獄の業火で灼きつくした王は、燃え残りの(おき)がちろちろと揺らめくだけの何かになり果てていた。

 王が何言かを発する前に、駆け込んできた者があった。

「王よ、一大事でございます、ジェフティが傭兵軍を傭い、駐留の部隊と代官を殲滅!街道を東へ進んでいると!」

「王!アグラが国境を破り、ジェフティの傭兵隊と合流、ナザフに進軍中との報告です」

「セ、絹の国(セリカ)が、征西の軍を差し向け、乾燥地帯(ステップ)を渡っていると・・・・・」

 王は、半月刀を握る手をだらりと下げた。房室(へや)の入口に、折り重なるように詰めかけた伝令を一瞥し、また、シュリーディヤ姫を見た。

「そなたの処遇はあとだ、」

 王は色を失った声で言い、伝令を散らすように追いやって、房室(へや)から姿を消した。


 こうして、ナザフは四方を敵に抱えることとなった。ナスール王はすぐにも兵をあつめ、出陣しようとしたが、度重なる戦で兵士となれる若者はほとんどいなくなっていた。形ばかりの反撃は、水に濡れた紙のごとくあっさりと打ち破られ、王都は七日ののちに陥落した。各地に派遣されていた行政官や駐留の兵士は、逃げ帰ることもままならず、とらわれて残酷に処刑された。

 ナスール王の国ナザフは、急速に拡大した領土が、その重さに耐えきれず捥げ落ちるように崩壊し、風の中に消え失せた。王は、戦いのさなかに流れ矢に首を貫かれ、落命したという。

 シュリーディヤ姫の行方はわからない。混乱に紛れて姿を消したとも、王宮に雪崩れこんできた兵士に殺されたともいわれている。

 

     *


 アイシャは頸を傾げた。

「ねえ、お婆ちゃん、ハルヴァって時々売ってるお菓子でしょ?祭で食べたことあるよ?」

 アイシャは街道を行き来する旅芸人の一座にくっ付いて、人生を送ってきた。おのずと、街の特産や名物に行き会う機会も多い。

 祖母は再び絨毯に糸をかけ始める。

「言い伝えではね、カンダラッチの若者が作るところを王様の料理人が盗み見ていて、真似して作りはじめたというよ」

「・・・・じゃあ、本物じゃないの?」

 アイシャは唇をとがらせた。掃除や洗濯、水汲みやロバの世話、荷物の番などこまめに手伝えば、ちょっとした小遣いが稼げる。街に着いたら、小遣いを握って街の市場を巡るのがアイシャの楽しみだ。手に入れたものが紛い物だったら、ちょっと寂しい。

 祖母はアイシャの頭をなでた。

「本物のハルヴァが売られていることもあるかもしれないよ。だって、カンダラッチの若者とその子どもは、生き延びたんだもの」

「ふーん・・・・」

 アイシャたちの次の目的地は、城砦都市ヴェルマだ。都市の独立記念を祝う盛大な祭が催される。

 カンカンと、鍋底を打ち鳴らして、父親が就寝の時間を報せた。

「みんな寝床を作れ、灯りを落とすぞ」

 男も女も作業を終えて、めいめい片付けをはじめる。けれども、盲いた祖母は、暗い中でも絨毯を編むことができる。

「おやすみ、お婆ちゃん」

 アイシャは祖母の傍らで毛布にくるまる。

 明日はヴェルマに着く。ハルヴァを見つけたらどうするだろう、そんなことを考えているうちに、眠りの闇がアイシャを包み込んだ。


ハルヴァというお菓子は実在です。「旅行者の朝食」(米原万里著)に書かれてありますので、興味のある方はぜひお読みください。

ストーリーについては、完全にフィクションです。そういう話がバックグラウンドにあればいいなあと書いたものです。

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