煩悩の形
文才なくても小説を書くスレで、お題を貰って書きました。 お題:煩悩
「お正月になると108つの鐘を撞くじゃん?」
「ああ、撞くね」
秋の風の話題からどうしてここまで飛んだのか。
央葺とコイツの名字を読んでいたのは誤りで、かつての首相平沼騏一郎が複雑怪奇と評した奥州にちなんで、コイツは音読みで読むべきだったか。
「アレって煩悩を払っているんだよね」
とてもにこやかに話すので、またコイツは一人なのに姦しいことになりそうだという予感がする。
「一説ではそうだね」
「どうしてそう、ばっさり切るかなあ」
ふくれっ面を演じる余裕もなく、とても素直に意気消沈しているところを見ると、自分の対処は間違っていなかったんだと思える。
「どうもこうも。そもそもなんで、そんな話に……」
「いや、もうすぐ夏も終わりなら、後半年もしない内にお正月だよねって」
「飛びすぎだ」
腕を伸ばしてぺいっと指先で額をつつくと、うわっと叫んで僅かに歩幅を乱したようだ。
「なにすんだよ、もー」
とか言いつつも、しっかりと追いついてこようとしているので安心して先に進む。
「ね、聞いてる?」
「聞いてるよ」
言ってない部分も察しているからこうして無視しているんだよ。
そう言ったらどこまで凹むことになるんだろうか。試してみたい気もするし、それをしてこなかったからコイツが増長している部分もあるんだろうけど。
「まあ、煩悩を払うとしてさ……」
また再開しようとする図太さも、本当に迷惑と言えばやめると分かっている内は、なんとなく好ましく思ってしまう。
「払わないなら、煩悩に囚われてるってことだよね」
「違うよ」
チョキンと話の節がハサミで切られたかのように止まった。
「えー」
「えー、じゃなくて。違う」
賢者タイムとか色々あるのに、何で理解できていないかなコイツは。
とか確かに呆れているってのに、だいぶ凹んで歩いてみせるコイツの背中にどうして声をかけようとしているんだろうか。自分で自分が度し難い。
「そうだったら、どうだったのさ」
「いや、煩悩いっぱいなんだから、バッチコーイって」
「馬鹿」
予想できていただけに、自分でも容赦ないと思えるくらいスッパリとセリフをぶった切ってしまった。
「煩悩ってのはまともな知恵がはたかない諸々の悩み事ってことだよ」
凹んでいるのを無視して、さも普通の会話のように続ける。
「悩み事ってのは深まるときもあれば、晴れるときもある。お正月の除夜の鐘は意識的に払おうとしているだけで、解決するのも乗り越えるのも仏頼りじゃなくて自分の気持ちの持ちようのことだよ」
だのなんだのと言いつつも、結局のところは凹むと予想できていたのに予想通りに凹ませてしまった、その罪悪感を誤魔化すのに口を動かしているだけのこと。
「……悩んでくれてないの?」
なんて振向いて情けないことを言うから、思わずその広い背中を手で突き飛ばした。
「いっつも悩んでるよ」
言葉遣いが男っぽいところとか、理屈っぽいところとか、ナヨっちいコイツのこととか。
だから、早秋のシチュエーションの話題をふったのに、コイツときたら複雑怪奇なほどに安直な話題に変換してくる。
「じゃあさ」
「駄目」
せっかく女子っぽい努力をしたのに無視したんだ。
確かにコイツが見抜いたとおり煩悩塗れですが、しっかりと女の子扱いして欲しいって煩悩を晴らしてくれるまで、コイツの煩悩に付き合ってやんない。
盛りのついた男子と、それが分かってた女子の話。
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452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/28(水) 16:14:39.37 ID:ezB0PuDi0
お題下さい
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/28(水) 19:30:22.19 ID:hbOLIxx70
「煩悩」で
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/28(水) 19:49:59.74 ID:ezB0PuDi0
ありがとうございます