魅せられた人々2
サクのがっくりと落とした肩。その肩に手を置いて俺は励ました。
「サク、ドンマイ」
~数分前~
「サクさん、貴方を一日お借りします」
ミストさんは小さくほほ笑んでそう言った。
「ど、どういうことですか」
それにしても俺は二人の話には入れない。サクに任せておけば安心だと思うが。
サクはパニックに陥っていた。どうやらPTを組む程度だと思っていたらしい。
「話すと長くなりますが、まず私は女性限定の協同組合に入っています」
「素材アイテムはそこで手に入れたんですか?」
「はい。貴方は察しがよいですね。お名前は?」
「セイと言います、これからよろしくお願いします」
「セイさんは礼儀正しいですね。話を戻しましょうか、その中に女性の防具や服を作っている華、という人がいます。その人がですね、サクさんを見て『わたくし、サクさん以上に女装が似合いそうなプレイヤーを見たことがないですわ! ミスト、貴女は専属の防具師で羨ましいですわね。……サクさんを一日ほどお借りできないでしょうか? 私が専属なら思いっきり可愛くして差し上げますのに』だそうで」
恐る恐るサクの顔を窺ってみる。サクは……今にも死にそうなほど青い顔をしていた。
「なのでいっそのことサクさんを組合に連れて行きまして、好きに着せ替えをさせてあげれば組合の絆も熟練度もあがって万々歳です。……サクさん、どうしました?」
「ミストさん、逃げるのって有り?」
サクの顔は刻々と青くなっていく……。
「私は別にかまいませんが、華さんから逃げられると思いますか? あの人、一度狙いを定めたらどこまでも追っていきますよ? 私も参加しますし」
「ミストさんっ!?」
サクの顔はもう目もあてられなくなり、そして……、諦めた。
「……もう、良いです」
「交渉成立です。ではまたいずれ連絡しますね」
「もう、死にたい」
「ここでなら死んでもいいが、生き返るぞ? デスペナルティがつくぞ?」
さっきから落ち込んでいる策を励ましながら、俺たちは武器屋に向かっている。
ある程度落ち着いたサクが俺に聞いてきた。
「セイはどんな武器を使いたい?」
「別にいつでも変えられるんだろ? とりあえずは無難に剣だな。片手剣でも両手剣でもどちらでもいいから。ところで武器を作っているのはどんな人なんだ?」
サクは立ち止った。怖くて顔が見れない。
「なあ、まさか武器屋の人も女性だったりしないよな」
「……、……そうだけど?」
「(いやな予感がする)……いや、なんでもない」
一抹の不安を感じながら、俺たちは武器屋に向かった。
「サクくん、いらっしゃい! 今回は珍しく友達を連れてるねっ。あの話あたしたちも参加させてくれるなら、サービスするよ~。……え? 『なんでそんなこと知っているんだ!?』だって? やだなぁ、そんなの嬉々とした華さんがあちらこちらに話しまわっているに決まっているじゃないですかぁ。……? あれ、サクくん?」
サクの精神的HPは0を突破していた。……ミストさん、華さん、もうやめてあげてください。
「もうそれでいいから、出来るだけ良い剣を見つくろって」
「はいはい~。おそらくミストさんの防具と同じくらい時間がかかると思うから、それまでぶらぶらするかログアウトして待っててよ」
「ありがとうございます。ところで名前を教えてほしいのだが……」
「あたしはルビー。まあ、これからごひいきに」
「俺はセイ。これからよろしく」
「あたしも一応、経験値あげてるから暇なときにPT誘っても良いよ、……高いけど」
相変わらずサクの知りあう女性は一癖あるなぁ、と思いながら俺たちは武器屋を後にした。
この後、アイテムのプレイヤーショップでも色々あったのだが……そこは察してくれ。
サクはなぜか主人公じゃないのに、主人公補正|(特に女性)を持っていますね。
次回からはセイ君も積極的にしゃべりますよ。