俺、落とされる。
俺はVRMMOは初めてだ。
アバター、確かこのゲーム内の自分自身の姿。髪や瞳の色などをある程度変更させることができるらしいのだが……。
……変える必要が分からない。そもそも俺は一応戦闘などには興味があるが、本来は妹を心配した母の代わりに来ているのだ。無理して変える必要はない。
とはいえそのままでもまずそうなので、髪の色をもう少し黒めに設定する。
設定が終わると、無機質な音と共に、ウィンドウが表示される。
『確認しました。それではゲームを始める前に名前を設定してください』
俺は自分の名前から一文字とって『セイ』と入力した。まあ、もう一つ名前には由来があるのだが……。
『それではゲームを始めますか? Yes No』
NOを押した。
『やめるのですか?』
流石にプログラム相手に洒落は聞かなかったか……。NOを押す。
『それではゲームを始めますか? Yes No』
同じ文面だった。NOを……、…………、……いや、YESを押す。
『ご健闘を祈っています』
しかし、何も起こらなかった。
「? いや、祈ってないで早――」
俺は突っ込みを言いきることができなかった。……真っ逆様に落とされたのだ。
「幸先が悪い……」
どうやら俺はどこかの広場に落とされたようだ。体中が痛い、なんとなくヒットポイントを確認したら、8割も減っていた。……プログラムは完全に殺る気だ。
「まあ、難しいことを考えるのは止めよう」
そんなことより、合流することが先決だ。
「おーい」
どうやらあちらから来てくれたようだ。
「よう、サク。元気か?」
「やあ、……ってそんなことより大丈夫? 結構高いとこから落とされたみたいだけど?」
彼の名前はサク。咲、と書いてサクと読む、俺の数少ない友人だ。因みに分かるとは思うが男である。性格は会って早々他人の心配をするくらい良いやつだ。彼もこの世界に魅せられてしまった物好きである。何故、『AQUA・WORLD・ONLINE』をしている人が物好きなのかは後に説明しよう。
「ああ、8割ほど削られた」
「そう、8割ほど……って、ええ!? セイ君、十分に危険域だよっ!? 街の中ではプレイヤーは基本他人に攻撃できないけど、災害は別だからね? 早くこれで回復して!」
そう言って何かを握らせる、どうやら回復系のドリンクらしい。
俺はドリンクを飲みながら、ふと、別のことを考えていた。……あれは災害扱いなのか。
「ところでお前をサクと呼んで大丈夫なのか? 確かネットで本名はNGだった気がするが」
「そこは問題無いよ。僕のプレイヤーネーム『桜』だから」
それはそれで別の問題が発生するような気がするのだが……、
「また女性と間違われるぞ」
そう言うと策は何故か明後日の方角を見て、
「……気にしないで」
と返された。どうやらこっちの世界でも苦労しているらしい。
「さあ、セイ君も回復したみたいだし。ついてきて、こんなところじゃA・W・Oの醍醐味は分からないから」
ここはどうやら、大通りからかなり外れた位置にあるらしい。
「さあ、ここがはじまりの街『アストライア』の大通り! とっても綺麗でしょ? なんかここにいるとログアウトを躊躇っちゃうんだよね」
その景色で、俺はA・W・Oの世界が一瞬、架空のものではないと思わせた。
まだまだ妹は登場しません。