四話
それでも衣里菜は、言葉を何かしら紡ごうとした。しかし、少女は衣里菜の言葉など聞く気も無いようで。一息つくと衣里菜に一際鋭い視線を向けた。
「……そうでしょう? 私が何しようと、あんたには関係ない。別に私が死んだところであんたには何の迷惑もかけていないし、もちろんあんたにとって有益なこともないのかもしれないけど、少なくとも無害じゃない!! というか、それとも、私を助けることで優越感にでも浸りたいの? 馬鹿みたい。それがその人の助けになるとでも? ……あんたがしてるのはただの他人の決心を踏みにじる最低の行為なの。あんたの尺度で私の人生を測らないでほしいわ。はっきりいってただの迷惑。あんたの偽善行為に私を利用しないで」
「あ……」
衣里菜は、うずうずとある衝動が、爪先から這い上がってくるのを感じた。ああどうしよう、押さえられない。そっと下向く。ーーーーーーああ、にやけちゃう!!
そんな衣里菜の様子をどう受け取ったのか、少女は少し満足そうな顔で衣里菜を一瞥した。そして、そのまま歩き出す。今日今からもう一度飛び降りる気はないらしかった。またあの嫌な音をたてて、彼女は出ていった。いつの間にか雨は上がり、強い風が、二人を揺らす。少女の制服は、まだ乾ききってはいないだろうに。
一人、残された衣里菜は、下を向いたまま肩を震わしははじめた。
「……な、に、あいつっ!! あははっ」
笑いが、止まらない。……面白い玩具を見つけた子供の顔で衣里菜は振り返る。きっと、あの少女はまさか衣里菜が自分を笑っているなどとはおもってもいないだろう。
「ーーーーみーつけたっ」
よもや、気に入られているなんて。