一話
文体ががらりと変わります。
というか、場面転換です。そして前の子と彼女は別人です。
神埼衣里菜は屋上に続く螺旋階段を、足早に登っていた。リズミカルな足音がただ響いて、そのほか物音などは一切聞こえなかった。
だからこそ彼女は、高をくくっていたし、油断していた。あろうことかその屋上に先客が居ようなどとは考えもしなかったのだ。
それは彼女にすればごく自然な考えで、今は授業中で、さらに天気は雨。こんな日に立ち入り禁止の屋上に、好き好んでくる物好きなど、二人も居るはずがない。彼女はそう思っていた。
雨のせいもあって、湿ってどことなく不気味な雰囲気漂う階段は、確かに常人が寄りつきやすい場所ではない。衣里菜本人は恐怖心など涌きもしないが、それでも他人からしたら、私を含めて不気味なことこのうえないんだろうなと、無責任に思ったりはした。
長い階段をやっと登り終えて、衣里菜は、ちょっと立ち止まった。
柄にもなく、鼓動が、早まった。ああ、この感じなんだか恋に似てる。と、大仰に胸に手をおいた。
衣里菜は錆び付いたドアノブにそっと手を添え捻った。爪で黒板を強く引っかいたような嫌な音がして、重い扉がひらく。
足を一歩踏み出し、吹きつける雨と風に感動したところで、彼女はみてしまったのだ。まさに今屋上から飛び降りようとしている、少女の姿を。