クランチチョコ~恋の魔法~
真美たちの幼馴染の竜也の場合。
どうやら教育実習の先生がお相手のようです。
いきなり押しかけ作ったチョコの行方は?
そして…竜也の恋は?
-悪い。俺でも作れるチョコレート教えてくれ。ついでに作りたい-
土曜日の午後に一方的に俺は真美にメールを送った。
-分かったよ。材料はうちにあるのを分けてあげるからね。
月曜日の放課後うちにおいでよ。誰にあげるのかな?-
早速の返信でホッとする。前日って…あいつ自身は平気なのか?
平気だから誘われたわけだし…気にすることないか。
俺はベッドにごろんと横になる。壁に貼ってあるのは大きく引き伸ばした写真。
俺が強引に片思いの彼女の隣で映ったものだ。ちょっと照れてる顔がいい。
俺自身の経験からして、恋はするものだと思っていた。
周囲を見ても、そんな奴らが多かったからだ。
俺も皆見たくそうやって恋をするものと思っていた。
けど…現実は違った。恋は落ちるものだったんだ。
月曜日…俺は真美達と一緒に帰宅する。真美の横は当然哲がいる。
「昨日は、歩美先輩が来て、今日は…たつか。俺達の時間を奪うなよ」
「黙れ、このバカップルの片割れ」
俺は手厳しく言ってのける。今となっては校内名物と言える位の
バカップル振りで誰も…二人に近付かない。いや、近づけない。
「で、真美。俺は何を作るんだ?」
「玄米フレークとチョコレートでクランチチョコってどう?」
「それいいね。サンキュな」
早速、準備に取り掛かる。そうじゃねぇと哲に殺されかねない。
「竜也は…ちょっとお鍋にお湯を沸かして貰っていい?
私はひと手間加えるから」
そういうと真美はチョコレートを削り始める。
「こうすると早く湯煎で溶けるのよ」
「ふぅん、お前は支度しなくていいのか?」
「私は…明日でいいの。今日はチョコを削ったり、粉を計る位ね」
相変わらず、料理の手際はいいな。
哲と婚約した真美はどんどん綺麗になっていく。ゆるぎないからだろうか。
「竜也は佳代先生と連絡取ってる?」
「何で?」
「だって、竜也…佳代先生好きでしょう?」
「あぁ、だから連絡取らなかった」
「だと思った。佳代先生…心配してたよ。竜也の事」
「どうして?」
「竜也が教職に進むって私が言ったから」
なぜ?彼女がそんな事を気にしないといけないんだ?
俺が自分で決めたことで彼女は関係と思うんだが。
「佳代先生なりに気になってるんだよ。竜也の事好きだと思う」
「嫌われてないのは自信があるぜ」
…でもな、彼女に最後にメールを出したのは正月だ。
それから電話もメールもしていない。
「どうして、距離を取ったの?」
「自分に自信を付けたくて、必死に勉強したのにさ、実力テスト」
部活をやりつつ勉強を両立するのは難しい。総合順位は少し前進したが、
俺はまだ満足していない。
「竜也…3位じゃ満足じゃない…か。物理と化学はトップだったのに」
「その前に鳥飼と真美がいるよな」
「そういうことか、じゃあ頑張りなよ。私は現状の成績を維持だけだから」
「お前ってサラリと嫌味なことを言うよな」
「だって、千葉大の体育だよ?哲が難しいなら、日体大でもいいもの」
「そこまで極端でなくても…。本当にいいのか?」
「うん、私は無職にならない程度でいいの」
これ以上、その話をしても溝は埋まる事はないだろう。
「佳代先生の予定知ってるの?」
「あぁ、明日は塾のバイトだろ?」
「違うよ。明日は大学のゼミが振り替えなのよ。はい、これね」
真美は俺にメモを手渡す。そこには彼女の所属するゼミと教室名。
「いいのか?俺が聞いても?」
「これは佳代先生からの伝言。ゼミの終わりが14:30だから会いたいって」
「分かった後で…連絡する」
真美は知らないふりして知っているから怖い。でもその気遣いが嬉しい。
「さあ、ちゃっちゃと作ろうか。哲待っててね」
真美はリビングで不貞腐れてる哲にも声をかけた。
「たつ、さっさと作って出て行け」
お前…年上の俺にそのセリフはねぇだろうがよ。
「はい、おしまい」
「サンキュな」
「ちゃんと…佳代先生に電話しなよ?待ってるんだから」
「分かったよ…じゃあな」
出来上がったチョコを片手に俺は真美の家を出た。
彼女が俺の連絡を待っていた。それだけでも嬉しい。
叫びたいほど嬉しい。でも叫んだら変質者だよな。
自重しないと。
「…久しぶり…竜也君」
「先生、明日空いてる?どうかしたの?」
真美に促されて、俺は彼女の携帯に電話した。電話越しの彼女の声は
緊張しているみたいで、声が上ずっている気がした。
「もう…先生じゃないわ…」
「佳代さん、明日大学に迎えに行ってもいいですか?」
俺はなけなしの勇気を出して、聞いてみる。
「分かったわ。15時に大学の正門で待っててね。明日は…」
「俺達は午前中だから…私服で行くよ。安心して。佳代さん」
「それじゃ、明日。おやすみなさい」
「お休み…竜也君」
連絡事項を伝えるようなシンプルな電話。
本当はもっと伝えたいことがある。言いたい事がある。
でも…今日は我慢する。その代わり明日伝える。
彼女よりは年下だけども、彼女と共に歩みたい。
だって…明日は聖なる日なんだから。
14:45.彼女の大学の正門の前にいる。
やっぱり…時間前集合は基本だよな。男として。
ガキっぽくならないような服を着て…正門にもたれている。
手には黒い紙袋。真美がシンプルな方がいいだろうということで
包装まで見繕ってくれた。本当にこういう時は助かる。
「…お待たせ。竜也君」
「久しぶり…佳代さん」
息を切らしている彼女を見つめる。俺に会う為に走ってくれたのか?
「走らなくってもいいのに…」
「だって…正門にイケメンがもたれかかってるって皆が言ってて…
もしかしたら竜也君かもと思ったら…走ってた」
プチン。俺の中の何かが弾け飛んだ。この人はそういう言葉で
俺をけしかけるんだ。いつも。そして今日も。
俺は彼女に向かい合う。今だ。今しかない。
「佳代、俺と一緒にいよう。好きだよ」
「竜也君、何で…今…」
彼女は焦っている。心成しか顔が赤い。
「ねぇ、答えてよ。俺は君が好きなんだ。俺は嫌い?」
ひかれただろうな。学校での俺のイメージねぇもんな。
学校では冷静でしっかり者のthe☆委員長だものな。
「恋は落ちるものだって教えてくれたのは佳代だぜ。俺を救ってくれよ」
俺は必死だった。神様に縋ってもいいと思った位だ。俺…無宗教なのに。
「降参。竜也には敵わない」
そう言って彼女は俺を抱きよせた。俺の胸に彼女の頭が当たる。
初めての衝撃に俺はクラクラする。
「私しか救ってあげられなそうだから、救ってあげる。大好きよ」
そう言って、俺に向かって、この上ない笑顔を見せてくれた。
「ずっと笑っててくれな?佳代?」
「竜也…恥ずかしいから…移動しようよ」
彼女に言われ、俺達は慌ててその場を離れた。
「ねぇ、そう言えば俺の事竜也って言ったよね」
公園のベンチで座っている彼女に俺は問いかける。
「そうだったかな?どうだったっけ?」
この人はまだ…そうやってはぐらかす。
俺は彼女の隣に腰掛ける。紙袋から木箱を取り出す。
「はい、佳代。俺の気持ちが籠ってますから」
「本当?初めてだわ。男の子から貰うのって」
「まぁいいから」
そういって、木箱を取り返して箱を開ける。クランチチョコを1つ取る。
「ほら…口開けて」
俺は彼女を促す。渋々口を開けたので、すかさずチョコを放り込んだ。
「ちちんぷいぷい・・・もっと俺の事を好きになぁれ」
子ども染みたお呪い(まじない)をかけてみた。
「ちょっと…竜也…」
彼女は噴き出す瞬間だが、気にしない。
「ダメか?じゃあ、俺をメロメロにする女になぁれ」
言った後、すぐに彼女を抱きよせた。
「俺だって男ですよ。まだ…狼にはならないから…安心しろよ…佳代」
耳元で囁くと、彼女の顔がみるみる赤くなっていった。
「そんな顔すると、可愛い唇食べちゃってもいい?」
「竜也の…バカ!!!」
こうして暫く俺達はどこかのバカップルをバカにできない攻防を
公園のベンチで繰り広げたのだった。
ちちんぷいぷい…ずっと一緒にいますようにby佳代
年上の女性に本気でアタックするという設定を重視しました。
皆がこんなに上手く言ったら…ちょっと怖いけど…。
一応、全年齢ということで、ほんのりと色気をだしておきました。
(ちなみにこの苦情は受け付けます)
さて、次のお相手は誰?(まだ出てないのは…天然なあの子…?)




