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チョコチップマフィン~気持ちを込めて作りましょう~

新任教師の恵美は地方赴任する彼(弘樹)にプロポーズされて悩んでいます。

そんな時に、バレンタイン当日にチョコチップマフィンを調理実習で作ることに。

生徒たちを見守りながら…恵美が起こした決断は?

「今度の調理実習は男子も含めてやりますからね」

「なんでですか?」

「じゃまだからいりません」

私は溜め息をついた。そういう苦情が出ることは十分に分かっていた。

「今度の実習日はいつ?白川?」

私はとりあえず、目のあった生徒を指名する」

「えっと、2月の14日…ってバレンタイン当日?」

「そう、…で、各クラス2時間ずつクラス単位で行います」

「恵美ちゃん、それってどうよ?」

新卒の家庭科教師の私は生徒から恵美ちゃんと呼ばれる。

背も低くて、童顔じゃ仕方ないか。もう開き直るしかない。

この学年は2クラスしかないから、同日でどうにかこなす事ができる。

「1組は3・4時間目で2組は5・6時間目になるから」

「今回は教科書では蒸しパンなんだけども…先生方からレンジを借りて

チョコチップマフィンに変更ね。どうかしら?」

「はーい、頑張ります」

「だから、1年生は当日はチョコレートを持ってこない事。いいわね」

一応、釘はさしておかないとね。教師として。

でも、先生にあげるチョコは持ってきてもいいんだよ。

大人って汚いよねぇ。本音と建前使い分けるんだもの。

「男子は何をするんですか?」

「男子は固めるプリンでも作って貰おうか?」

「いいの?大丈夫なの?」

「なんとかなるわよ…多分…じゃあ、解散ね」

私は今週の1年生の授業を終わらせた。



「大丈夫なんですか?山中先生?」

「少なくても小学校でやった調理実習の範囲なんで大丈夫でしょう」

「チョコレートの持ち込み対策はどうでしょう?」

「職員に対しては持ち込むなとは行ってませんが、気がついた子がいるかですね」

「それはちょっと困るなぁ。意外に楽しいのに」

職員室の中では、同僚とチョコレート対策の話になっていた。

学校に持ってくる必要ってあるんだろうか?個人で放課後持っていけばいい。

校内に持ち込むことでアピールするのもいいが、面倒くさくないのだろうか?



「せんせ…山中先生!」

ヤバッ。ボーっとしていたみたいだ。

「すっ、すみません」

「1年目で、積極的に授業してばかりいたら疲れますよ」

「ありがとうございます。教頭先生」

「あなたが、教職になるとは意外でした」

「そうでしょうか?」

確かに中学時代の私だったら…教師にはならなかった。

高校の時の顧問の先生の存在が今の私に繋がる。

「高校時代にいい恩師に恵まれたもので…」

私は足早に職員室を出て、家庭科準備室に移動する。



「先生、今日もできました」

「山中は丁寧に作業するね。家庭科の先生に向いてそうね」

「そうですか?私人に教えるの嫌いですよ」

「いいのよ。家庭科はそれで。見て盗む位でいいのよ」

私にもできそうな位に簡単に先生は言う。左手に輝く石がついている指輪。

「先生…結婚決まったの?」

「お陰さまでね」

「幸せになってね」

「山中…最後になるかもしれないけど…教えてあげるわ。

家庭科は使う人を思いながら作ると上手にできるのよ。忘れないでね」

「はい…忘れません。ありがとうございました」

春…先生は結婚という転職を果たした。



準備室にあるオーブンを温める。

授業前に仕込んでいたマフィンと焼いてみようと思ったのだ。

チョコとブルーベリー&クリームチーズ。

本当はいけないんだろうけど、先生方の差し入れということで

試運転させてもらうことにしたのだ。

温めたオーブンにマフィンを並べて焼き始める。

甘い香りが準備室に充満する。私が一番幸せを感じる時間。

当日の子供達は…どんな思いを託して作るんだろう?

憧れの先輩に…仲の良い友達と…片思いの彼…。

想像すると微笑ましくてニヤニヤしてしまう。


けれども…私はいつから女の子のイベントに参戦しなくなったんだろう?

気が付いたら…参戦しなくなっていた。正しく言うとその日に全力疾走じゃないだけ。

ちゃんと用意はするけど、本命なのに…ガチなものを用意しないといった具合だ。

学生時代から交際していた彼とは…ちょっとぎくしゃくしている。

仲が悪い訳ではない。彼の転勤についていく…勇気がないのだ。

1年目で今の職を止めたくはない。折角楽しくなってきたところだ。

それを彼に伝えても…いいのだろうか?

そのことで彼を失う勇気も持てずにいた。



「いよいよですね。先生」

「皆さんのお陰です。ありがとうございます」

「そうそう、忘れてました。先生の授業は地域の方々が参観されるそうですよ」

「あぁ…はい。分かりました」

そんな重要な事、当日に言わないで下さいよ。教頭先生…この狸爺め。

仕方ない、開き直るか。私は準備室に籠ることにした。


「いいですか?これから始めますよ。手が開いている人は何か手伝えることがあります。

何もしない人は実習の意思がないとみなしますよ。それと、一人で勝手に行う人も

協調性がないと判断しますからね?今日の結果は期末テストに加算します」

「そりゃねぇよ」

「ひでぇ」

「はい、今言ったのは?減点したい?それじゃあ、開始」


生徒達が各自決めた役割通りに進めていくだけなのだが…そう上手くいかない。

今回の実習が来年度のクラス編成の資料になることも生徒達は知らない。

クラスが円滑に進む為に…敢えて行っているという。

確かに、家庭科ならちょっとしたアクシデントも起こしやすい。

それをどう対処するか…そこだけが重要なんだ。

初めて20分。グループ差が出てきた。一番早いグループは不要な食器を同時に

洗っていく。バターを練ったりとかの力仕事を男子に任せたようだ。

問題のある班は…どうやら二つ。ワンマンに仕切りたい子が振り回しているグループと

男子が全く協力しないグループ。



子供達だけ作らせる訳にも行かないから…あらかじめ用意しておいた

試作で作って好評だったブルベリー&クリームチーズのマフィンをオーブンに入れる。

子供達の分を作るので一つ当たりは子供達のサイズより小さい。

焼いている間…私は子供達の様子を観察していた。

言い争いながら、着実に進むグループ。グダグダで収拾不能なグループ。

無駄な動きが一切ないグループ。振り回されてぐったりなグループ。

私は自分が学生時代の頃の実習を思い出して…ついクスリ微笑んだ。



「恵美ちゃん、思い出し笑い?」

「ねぇねぇ。恵美ちゃん学生時代もチョコってあげたの?」

「どうだったかしらね?」

「でも…先生彼氏とデートしてたじゃん。俺見たぜ」

あらら…隠すことはないんだけどね。厄介だなぁ。

恋バナ披露するだけのエピはないんだ。

「どんな彼氏?」

「大人だから言えませ~ん。それよりも作業進めなさい」

「はぁい」

クラスの中が少しだけざわついている。そんなに彼氏がいるのは珍しいか。

職場恋愛じゃないし、別にいてもいなくてもいいと思うんだけどな。



ふと、視線を感じる。私はゆっくりと振り返ると彼がいる。

あれ?何で…ここにいるの?今日は地域の人がいるのは納得出来るけど…

なんで?私は軽く混乱していた。

「私が彼を招待したんですよ」

「校長先生」

校長先生に連れられて一旦家庭科準備室に入る。

「どういうことですか?」

「彼にプロポーズされても返事をしてないそうですね」

「プライベートのことですから、今受け入れても退職できません」

「そうですね。あなたは自分の立場を分かって返事をしてないことは

十分理解してますよ。それに楽しそうに授業をしているし」

「なぜ、彼がいるのかが問題です」

「校長権限で私がご招待しました。山中先生の授業を見てもらいたくて」

「あなた方はまだ若い。だから、相手の立場を理解して貰った方がいいかと

思いまして…」

「分かりました。ありがとうございます。生徒達の元に戻ります」

「山中先生」

「はい?」

「あなたのままでいいんですよ」

「はい、ありがとうございます」

私は生徒達の元に戻った。



2クラス分の実習は概ね好評だった。作ったマフィンを早速意中の人に

プレゼントしている子もいた。

「先生お菓子って作るの大変なんだね。知らなかった」

「今まで貰ってた事にも感謝しないとな」

どうやら、私の目的は達成できたようだ。

「皆?どうだった?女子はレポート書いて提出。男子は感想文を書いて

先生まで提出してくださいね。それと…バレンタインは本来は恋人の為の

お祭りです。だから…男の子が女の子にプレゼントしてもいいんです。

好きな人に渡そうとして作った子たちは…おいしくなれって気持ちと

大好きって気持ちが込められてるよね」

「もちろん、そうでしょう」

「そうね、友チョコ組もおいしくなれって気持ちは入ってるでしょ?」

「うんうん」

「感情を籠めないで作ったものはそれなりのものにしかならないの」

「なんで?」

「一人で食べるのって味気ないでしょう?違う?」

「そうかもしれない」

「だから…人にあげるものを作る時はその相手の事だけを思って…

作ってみて。ちゃんと気持ちは伝わるからね。覚えていてね」

「はい、ありがとうございました」

そして、私の授業は終わった。



「はぁ、緊張した」

家庭科室で一人で後片付け。後で有志の生徒達が手伝いに来るけど…

こんな日位は早く帰らせてあげたい。バレンタインだもの。

カチャカチャ音を立てながら食器を洗う。私自身も…結論が出た。

彼に見られながらの授業は緊張したけれども…この仕事は止めたくない。

私が教えられるのは教科書だけじゃない。他にも…もっと教えたい事がある。

ドタドタと廊下を走る音がする。後で注意しないとなぁ。



「恵美ちゃん、ありがとう。恵美ちゃんのお陰だよ」

1組の女の子が目を潤ませながら抱きついてきた。

「こら、廊下は走らない」

「ごめん…先輩が目の前で食べてくれて今まで一番おいしいよって」

そうか、それは嬉しいね。

「良かったね。じゃあ、お付き合いするのかな?」

「とりあえず、お互いを知ることから始めます。私だけの片思いだから」

「時間…いっぱいあるしね。おめでとう」

軽く手を拭ってから、生徒の頭をポンポンと撫でる。

「私…恵美ちゃんが家庭科の先生で良かった。恵美ちゃん、先生辞めちゃうの?」

「どうして?」

「だって…校長先生と話してるの…聞いちゃったの」

「今は…辞めないわ。あなた達が卒業するまでは辞めれない」

「じゃあ、彼氏は?」

「待ってくれない人なら…私にはいらない」

「恵美ちゃん…キツイなぁ」

「そうかな?でも…これが私の愛し方だから」

「大人って難しいね」

生徒は複雑そうな顔をする。10歳離れていると難しいだろうね。

「そのうち分かるわよ。彼を待たせてるんじゃないの?帰りなさい」

「恵美ちゃんも頑張れ」

「うふふ…そうね」

生徒は教室から出て行った。再び一人になる。



「終わったか?」

聞きなれた声が聞こえる。私はその声の方向に向き直す。

「弘樹。まだいたの?仕事は?」

「お前に有給があるのと同じ。有給取った」

「どうぞ」

私は家庭科室の椅子をすすめる。

「お前の先生姿…かっこいいな」

「そう?」

私は彼にコーヒーを入れたカップを渡した。

「インスタント…なんだけどね」

「サンキュ」

教室の中は…私達二人だけ。

「久しぶりだな。家庭科室」

「うん。そうね」

「恵美に初めてチョコを貰った時を思い出した」

「丁度…今日の生徒達と同じだよな」

「私も、気持ち次第で感じが変わる事を知って欲しかったの」

「あれから10年か」

「うん…弘樹…私…」

勇気を振り絞って…10年前に彼に告白して以来かもしれない。凄く緊張している。

「恵美…休みには俺の元に来いよ」

「えっ、弘樹…」

「辞めるなよ。でも籍は入れようぜ。俺の赴任は1年だから」

「それって…」

「俺の奥さんとして、1年ここで待ってくれ。結婚しよう」



「恵美?返事は?」

「いいの?私で?かわいくないよ?家事しか取り柄がないんだよ?」

「そんなことないだろ?人の心に伝えられるだろ?恵美がいいんだ」

「…分かった。私…弘樹を待ってる。一年単身赴任してね」

「言ったよな?じゃあ、これ書いて」

彼はすぐに婚姻届を出した。

「今すぐに?」

「そうだよ。10年前に恵美からの告白で付き合いだしたんだ。結婚記念日は

今日じゃないとだめなんだ。書いたらすぐに出してくる」

「親は?」

「さっき…先に話しておいた。恵美に任せるって。気にするな」

仕方ない。こうなったら腹を括ろう。まさか別れようとしていたのに…

入籍するなんて、こんなサプライズあってもいいの?

「書けたわよ。誰に署名頼むの?」

私は素朴な疑問をする。

「大丈夫。お二人にお願いしてある。お願いします」

家庭科室に校長先生と教頭先生が入ってくる。

「私達でいいんでしょうかね」

「是非、お願いします。妻の事お願いしますね」

「山中先生、いいんですか?」

教頭先生が私に確認する。教頭先生はかつての私と弘樹の担任。

全てを知っている人になる。

「先生…弘樹以外の人は考えられない」

「そうですか。おめでとう。書けましたよ」



パーン!!!

「おめでとう」

「恵美ちゃん、ドレス縫うの?」

「私達も見たいなぁ」

私が主に教えている1年生と家庭科部の生徒達が入ってきた。

何も知らないのは…私だけだった訳?

「教頭先生?」

「いいじゃないか。雨降って地固まるってことで」

「見つけちゃった。中学時代の恵美ちゃんと彼氏さん」

生徒が古いアルバムを開いた…そっ、それは…。

「いやぁぁぁ」

「恵美、愛してるよ」

弘樹は囁いてから、私の左手にダイヤのついた指輪をはめた。

一斉に黄色い声が上がる。私の顔が一気に火照る。

「もう放さないからな」

彼が後ろから抱き寄せる。私…彼の罠にかかったかもしれない。



I always love my honey. もう、おれのものだからby弘樹


初の社会人ものです。無理な設定の突っ込みは…辞退させて下さい。

先生と会社員の恋は…難しそうですよね…なんとなく。

調理実習の結果は…皆上手くいきましたってことで。


今度の主役は、ムーンライトで登場した委員長竜也の出番です。

(良い子の為の説明:彼は段取りが上手いしっかり者です)

彼はどんなチョコを用意する?そしてお相手は?

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