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チョコチップクッキー ~火曜日の大勝負~

5年前にチロルチョコを貰って大喜びだったあきらの今年の様子です。

事実もありますが…フィクションも盛り沢山です。


「かあちゃん、クッキーって難しい?」

「市販のクッキーの素を使えばそうでもないけれども。作ってみる?」

「うん」

1月のある土曜日の午前。いきなりクッキーを作りたいと言う長男。

次男は夫と夫の実家にお泊まりに行っている。

「どんなのがいいの?」

「チョコレート入れたいんだ。一人で作れる?」

「そばで見てるから自分で頑張ってごらん。素を使うから簡単だよ」


「じゃあ、スーパーに行きますか」

私は長男を連れて、スーパーで買い物。

「かなり材料が必要なんだね」

「そうよ。知らないって意外と恥ずかしいでしょ」

「今日、弟がおばあちゃんの家に行ってくれてよかった」

…確かに、四次元胃袋持ちの次男がいたら作業にならないのは事実。

こりゃあ、13日も隔離確定なのかなぁ…。それでいいんだろうか?

あきらはウキウキしながら歩いている。どう見ても地に足が着いてないよ。



あっという間に、バレンタイン前日。次男は幼稚園のお遊戯会の振り替え休日で休み。

年末の休日出勤の代休で仕事を休んだ夫と一緒にTDRだそうだ。

ちなみに9時までは帰ってこないように言い渡してある。

「あなた…あきらの恋路を邪魔したくないでしょう?」

「で、明日はどこに行くつもりだよ?」

「天気が悪いから、学区はずれのSCに二人を連れて行くことになってるよ」

「ふぅん…なんかムカツクな。で、あいつも作るんだ」

「まぁ、いいじゃない」

子供が寝た昨日の夜にそんな会話が夫婦であったことも内緒だ。

「おれも行ってくる」

「あきら…必要なものは用意しておくから早く帰っておいでね」

「分かった」

あきらはランドセルと背負って学校に行く。とはいっても徒歩5分。

あきらが戻るまでに全ての準備をする為に、私は家事を進めることにした。



「さあ、こないだの様に作ろうか?」

「うん」

時間短縮の為に、バターは既に室温に戻してある。

「ねぇ、かあちゃん。生地にココアって入れてもいいの?」

「いいけど…ココアは今から用意するから最初は普通のチョコチップクッキーにして」

少々のリクエストには答えてあげよう。

一度作ってあるから、作っている姿には迷いはない。

あっという間に生地は天板に並べられた。

「焼いている間にココアを買ってくるから、ココアを混ぜる前まで進めていいよ」

私は新しいボールを用意してあきらに手渡した。

「いい匂いだね。女の子っていつもこうしてるのかな…いいな」

そんなドリーム万歳の発言をするあきらを私は苦笑いで見る。

えっと…皆が皆…そうとは限らないよ。



「できた」

結局、ココア生地のチョコチップクッキーまで作り終えた。

メーンはハート型で最後の残りはドロップクッキーにした。

「後は冷めてから袋に入れるんだけど…選びなさい」

「明日…彼女喜ぶかな?」

「そうね、気持ちは詰まってるからね」

「そうだよね」

はにかみながら、ラッピングをしているあきらはデレ以外の何物でもなかった。



「かあちゃん、少し離れててね。頼むから」

「はいはい」

放課後のSC。天気が悪いので、双方の親が立ち会うことになってしまった。

「ごめんね…あきらの家だと遠いのに」

「いいんだよ。みゆの家に近い方がいいだろう?」

親同伴なのに…あきらにしては甘い言葉を紡いでいる。ごめん…虫唾が走る。

「すみません…息子が無理な事を言いだして」

「いいんですよ。私なんか全く知らなくって」

みゆちゃんのお母さんは恐縮してばかりだ。

「みゆ…好きだよ。一緒に食べよう?」

あきらは彼女に自分が作ったクッキーを手渡す。

「あきら…今日は女の子が渡す日でしょう?」

「違うよ…みゆ。今日は恋人のお祭り。だから俺も…頑張ったんだ」

「えっ、作ったの?」

「だって…みゆ俺が作ったもの食べたいって言っただろ?」

「私…買ったのに…」

「それを買う時は俺の事だけ考えてたんだろ?嬉しいな」

あきらは最大級の笑顔をみゆちゃんに向ける。

それにしても…どんなに彼女を甘やかしているだか。

見ているこっちが胸焼けしてくる。

「何か…あてられっぱなしですね」

「すみません…うちの息子が」

今度は私が恐縮してしまう。



「あきら…受験するの?」

「うん…どうしてもやりたいことがあるんだ」

みゆちゃんはちょっと悲しそうな顔をしている。

「みゆも受けるか?って簡単に言えないしな。私立だし」

「パパは受けてもいいって。公立は不安だって…」

「そうだよな…地元じゃな…。みゆの家は隣の学区との選択地域だろ?」

「うん…のんちゃんが一緒に隣の学区に行こうって言われた」

「まだ…2年あるんだから、受験するんだったら決めた方がいいと思うぜ」

「分かった…あきらはどこに行きたいの?」

「俺?M高校の中学部。去年出来たんだよ」

「近いの?」

「俺の家から自転車で15分だけども、みゆの家からは私鉄に乗った方がいい」

「なんで?」

「みゆの家は駅から6分だろ?学校は駅の前だから、公立よりは近いな」

「どこにいても…俺はみゆだけだと思うよ」

「うん…分かった…」

二人は顔を赤く染めたまま俯いている。



「あきら君…受験ですか」

「えぇ、公立は嫌だって言うんで」

「M…だけ?」

「多分。本人の意思は固いんで。みゆちゃんは、来年の公立の新設校ですか?」

「近所の子たちが通うみたいなので…様子見ですね」

「親になれば…悩みは尽きないですねぇ」

「本当に…」

私達は顔を見合わせた。

「母さん、ちょっと二人で買い物してきていい?」

「いいわよ。ちゃんと戻ってきなさいね」

「行ってきます」

二人は手を繋いで、元気よく走り出した。

やっぱり…若いっていいわねぇ…。



side あきら



「みゆ?いくら位使える?」

「今ね…200円位かな」

「そっか…じゃあ、決めた」

「何を買うの?そんなに高いもの買えないよ」

「知ってる…着いたよ」

俺は彼女の手を引いて雑貨屋に着いた。

「みゆ…これかわいいな」

俺は小さな髪飾りを見つけた。値段を見ると200円。買ってもいいよな。

「ゆみ…今日の記念に。いつもは皆と一緒だろ?」

「いいの?あきら?」

「学校で使ってくれたら…嬉しいんだけどな?ダメか?」

「…ダメじゃない。ありがとう」

俺は早速店員さんに頼んで買うことにした。少しかわいい袋に入れてもらう。

「あきら…ありがとう。あきらは何がいい?」

「そうだな…。鉛筆かな。そろそろ買おうかなと思ってたから」

「そんなのでいいの?」

「学校で使うものだから。算数の時には絶対に使うから」

「分かった。それじゃあ…買いに行こうね」

「その前にみゆ…プレゼント。クリスマスにあげなかったし…」

「ありがとう。嬉しい。明日使うね…」

みゆの蕩けそうなその笑顔を見る為なら何でもできると俺は思った。


I will always love you. 君以外は見えない…ずっと…ずっと…好き




side みゆ



あきらは普段はおすまし顔。あんまり表情が出ない。けれども女の子皆に優しい。

一昨年の12月に勇気を出して告白をしてから…付き合っている。

去年は同じクラスだったから良く知っている。あきらは実はツンデレなの。

皆の前ではあんまり構ってくれない。恥ずかしいから。

でも一緒にいるときには、ドラマのような事もサラリとやってのける。

今日だって…私はチョコを買ったのに…あきらはクッキーを焼いてきた。

私よりも女子力高いってどうなの?ちょっとだけへこんだけど…

-みゆが俺が作ったの食べたいって言っただろ?-

と言ったので思いだした。おねだりしたのは私の方だった。



バレンタインって、女の子が男の子にチョコを上げる日だと思ってた。

本当は違うんだって。あきらは私が知らない事を知っていて教えてくれる。

勉強はできる。体育は…体操は側転が学年で一人だけできる。

凄い努力家さんなのに、そんな所も絶対に皆には見せない。

私だけには教えてくれる。算数の時にくれる私への手紙で。

手紙には、クラスの事、週末の皆で遊びの誘いとかいろいろ書いてある。

でも…最後はいつも同じ。みゆ、大好きだよ。

他の子に見られたら…恥ずかしいじゃない。照れてしまう私を見て

あきらは喜んでるの。すごく幸せそうな顔をして私を見ている。



今日は初めて二人きりのデート。学区外は親も同伴だから仕方ないけど。

さっきから、お母さんとあきらのお母さんがニヤニヤしてこっちを見てる。

なんかやな感じ。でも、あきらはそんなの関係ないみたい。

極上の笑顔と、優しい言葉だけを私にくれる。

私はどこのお嬢様?って錯覚を起こす位。

中学は受験するんだって。でも家から近い新設校。

パパは受験してもいいって言ったから…考えてみようかな。

あきらとだったら…なんでも頑張れそうな気がする。



Love than anyone else  誰よりも一番大好きだから!!

本人から苦情がありまして…若干糖度を下げました。

実際には後ろから何度ハリセンで叩いてやりたいと思ったことか。


しかし、この勝負にパワーを使い果たして翌日知恵熱出して倒れたのは

彼女もしらないここだけの話。

今日は…彼女と児童館デートですって…地味にむかつく(笑)


今度の主役は誰かしら?

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