不二家のハートチョコ ~義理チョコルンバ~
ある都市の職場の風景です。今時は社内で義理チョコはないのかな?
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
オフィスのデスクに着くにはちょっと大きい紙袋をデスクに一度置く。
「今日はバレンタインですので、おやつにどうぞ。一人一個は当たりがあるので
食べた人はメモに判子押して下さいね。いいですね?」
籐の籠にこぼれそうな位の一口サイズのキューブチョコ。
当たりは…不二家のハートチョコだ。
「お礼は…何がいいんだ?」
「そうですねぇ。この中からお願いしますね」
私は直属の課長にメモを見せる。経費削減で購買が出来なくなったけど…
欲しい文房具の一覧。高いものでも200円。安いと50円だ。
私のいる部署は15人の男性社員に女性は私一人だ。
他の部署よりはお金をかけれない事実はあれども…アイデアで勝負だ。
どうだ。オジサン共。参ったか。
多分…今の私はドヤ顔しているんだろうな。まぁ、いいか。
この会社、昔は姫路が本社だったから…笑ってくれるだろう。
「よぉ…考えたなぁ。偉い子だなぁ」
初めてのお使いが無事に出来た幼児のように部署のおじさん達にいじられる。
しまった。おじさん達のツボに入ったらしい。失敗した。
他の部署のおじさん達までが見学しにやってきた。
あんたたち、今日は何しに会社に来たんですか?遊びですか?遠足ですか?
私は仕事がしたいんです。さっさとどきなさいってば。
「ほらほら、うちのお嬢ちゃんの機嫌が悪くなったぞ。俺…知らねぇっと」
「課長のその一言が無駄に多いんです。全く…これだからおじさんは」
大人げない課長もどうだかと思うけど、その喧嘩に乗ってしまう私も…
どうなんだろう。
「俺はおじさんじゃねぇ」
「トレッキングを趣味にしていらっしゃるから体力あるのは分かります。
だからって、帰りのルートに我が家をトイレ休憩所にするのは迷惑です」
「山ちゃん、そんなことしてんのか」
直属の上司は山口課長。部署内で一番下っ端。通称山ちゃんだ。
「たまたまパチ屋があってトイレ借りるかと思ったら…いたんですよ。
生垣の手入れを親父さんとしてたよな」
「えぇ、してましたよ。してましたとも」
「嫁は助かってたらしいけどな。今度から気をつけます」
「もう…いいです。先週もうちに寄ったんですって?」
「そういえば、お前どこに行ってたんだよ」
「どこでもいいでしょ?年頃の娘の動向を聞くってセクハラですよ」
「セクハラ?こっちは心配してやったんだろうが。男のおの字がないからなぁ」
山口課長の嫌味に部署のおじさん達が声を殺して笑ってる。
私にだって彼氏位いるわよ。でも…言ったら…厄介すぎるから死んでも言わない。
最後の手段を使って黙らせるか…。私は席をたって…事業部長の元に。
「おじさんたちが五月蠅くて仕事になりません。どうにかして下さい」
「いいけど…僕もあの籠から貰えるの?」
「当然ですよ。お食べください」
「ほらっ、お前達さっさと仕事しろ。女の子の邪魔をするんでない」
ようやくオフィスが静まる。正しくは私の部署だけ。
他の部署は今義理チョコの頒布会だ。
「山ちゃんはいいなぁ。籠に入っている間は食べれるから」
隣の部署の小谷部長はうらやましそうに言う。
「そうか?でもこのお返しリスト見ると切ないぞ」
人が必死になって角が立たないお返しリストを考えたのに…。
課長は部長にリストを見せた。
「これは…結局職場で使うものやな。ホンマ切ないわぁ」
「部長、冷やかしはいりません。さっさと仕事に戻ってください」
部長は肩をすくめてデスクに戻って行った。
9時始業の職場なのに…もう10時になっている。
1時間無駄にした…自給にしたら…もっと切なくなるからやめよう。
でも…後8時間したら…彼とデートだ。それだけが今日の私の支え。
おじさん達には一袋198円のキューブチョコが5袋と一枚80円の不二家の
ハートチョコ15枚密かにお金掛っているんだから。
私は小さな自己満足をしながら、業務に集中するのだった。
お願いだから、お返しは…早く頂戴ね…エヘ。
現実にはお返しもらってません。
今から貰っても困りますけど…。
最後は…ちょっと切ない「値引きチョコ」
なんとなく分かりそうでしょう?




