二重奏
さーちゃんを困らせてから更に数日が経ちました。相変わらず赤ん坊たちは服を嫌がって着てくれません。これはやはり長い目で見るしかなさそうです。
あたしの部屋となっている離れには、使用人が寝泊まりする部屋と炊事場、浴場にトイレなどもセットで建てられています。渕華さんと望さんは、交互に数日おいて泊まり込んでいる、とのこと。直ぐ下に実家あるのにご苦労様です。
なんとか赤ん坊二人の世話も慣れてきました。しーちゃんはちょっとツンデレ? 負けず嫌いと言うべきか。しゅーちゃんはマイペースかな? 勧めて断られそうな案件は先ずしゅーちゃんに受け入れてもらい、しゅーちゃんが見せびらかす事によって、対抗意識を燃やしたしーちゃんが真似をする。と、いう図式が出来上がっています。
とは言えあれから何かやってもらう事が増えた訳でもなく。ちょっとお願いして、部屋の中では飛ばないようにしてもらったくらいかな。やっぱり赤ん坊と言えばハイハイだよね! 人間の赤ん坊であれば、首が据わるようになってからなんだけど。生まれて数週間しか経ってないように見えても、足腰しっかりしてるし、問題なし。
やり始めたのはやっぱりしゅーちゃんが先で、こうやるんだよーってあたしが実演。翼をちょっと小さめにしてからあたしの後を追うようにちてててて――って、早っ!? でも笑顔だしコミカルだし、かぁわぁいーいー!! あたしの膝上まで上がってきたのを抱きしめて、頬をすりすりしながら「可愛いー!」を連呼してると、「チッ、しょーがねぇなー」みたいな感じでしーちゃんもトテトテと。
「うーん、しーちゃんもしゅーちゃんも可愛いぃ! 最高! ステキ!」
「遥様……」
「壊れてる壊れてる」
望さんと渕華さんが呆れたように笑っていたけど、二人共しーちゃんとしゅーちゃんを猫可愛いがりしてるじゃないか。あんまり触れられないみたいだけど。この辺は前にルシフェルさんが言っていた「普通の人族が~云々」に該当するんだろう。少しの時間でも密着していると、渕華さんや望さんでもだんだん気持ち悪くなってくるらしい。
あと、ご飯に関してはよく判らないので、朝昼夜に卵だけで味付けしたお粥だの、すりリンゴだの用意してもらって、手ずから食べさせてます。
「はい、あーん」
「あーぶ」
「むー」
食が細いのか、二人で小さなお椀ひとつ分食べるのがやっとみたいだけど。
そんなある日のこと。
あたしがトイレから戻ると、二人で座布団を積み重ねて遊んでいた場所に、しゅーちゃんだけがぽつーんと残っていた。
「あ、あれ? しーちゃんは?」
「あぷ~」
しゅーちゃんが黒い翼で庭の方を指し示したんでそっちを見ると、庭木の向こう側に白い翼が見え隠れしていた。
「しーちゃん! どうしたの?」
縁側まで行って呼び掛けると、びっくりしたのか飛び上がってこっちを見る。おいでおいでーと手を振ったら、ばっさばっさと翼を動かしてあたしの胸に飛び込んで来た。右手に青い何かをぶら下げて。
「ちょっとしーちゃん、何を捕まえて来……」
「ちょっ、離してぇ、離してぇな坊ン様っっ!?」
「ぷー! ぷ」
「…………は?」
しーちゃんが尻尾を掴んでぶら下げている、鼻の頭だけ白い真っ青な子猫がもがきながら悲鳴をあげた。よく見ると、肩口のあたりにちんまりとした白い翼と黒い翼が一枚ずつ生えている。……始族? 終族? どっち?
「めっ! だよ、しーちゃん。離しなさい」
「むーぷー」
パッと尻尾から手を離された青猫さんは畳にボテと落下した、顔面から。……うわ痛そう。そこへハイハイでしゅーちゃんが近寄って行く。慌てて起き上がった青猫さんは、お座りをして頭を下げた。
「これは終族の坊ン様、ご機嫌うるわひにゅう……」
「こ、こら! しゅーちゃん!?」
挨拶を言い終わらないうちにしゅーちゃんがヒゲとあごを引っ張り、青猫さんは「ひぎにゃー!」と悲鳴をあげた。あたしが軽くポンとしゅーちゃんの頭を叩くと手を離し、その表情が歪んでポロポロ涙を流し始める。
「ひゅぐっ」
「しゅーちゃん。人(?)の嫌がることをしたらダメでしょ! しゅーちゃんが同じ事されたら痛いでしょーに」
言い聞かせてみたんだけど、しゅーちゃんはそのまま本泣き。途端にしーちゃんまでつられたのか「びえええええぇぇ―」と泣き出しちゃう始末。
「あわわっ、ちょっ、しーちゃんを怒ったんじゃないでしょー。ああもぉ、しゅーちゃんも!」
「ぉぉお、坊ン様たちに手をあげるとは、怖いもの知らずな姐さんやわぁ……」
ごめんなさい猫さん、話は後にして。
息抜きなのに日間ランキングで100位以内に入ってました。
読んで頂いた方々、ありがとうございます。
猫の言葉使いは適当、書き分けを放棄し(ry