異世界へ⑪
「うー」
「うんうん綺麗だねえ」
「むぃむぃ」
「うん、青いね~」
移動してきた面には圧巻の光景が広がっていました。
なんと辺り1面青い花で埋めつくされていたのです。隙間なくびっしりと咲く、水仙のような花弁が微風に揺られているさまは、海の水面のよう。
しかもこの花弁、裏側のふちの部分だけが白いんです。そのお陰か、少し強めの風が吹いてひるがえると細波のように白い波が生まれるんです。
奥の山脈から流れてくる吹き下ろしの風がひゅうひゅうと鳴るだけなので、あとは静かなものですね。
これで波の音があれば完璧なんだけど、それは無理っていうものよねー。
何処までも続く深く青い水面と、時折現れる白い細波が遠浅のような海を錯覚させてくれます。
「生きてて良かったー」
思わず口に出してしまうくらいには感動的な光景なんだ。
これを見られるなんて、あたしは幸せ者だよ。
でもちょっと待ってほしい。
あたしが面を越えてきた場所が4m×4mぐらいしかないんだ。
さっきは動転していて気付かなかったけれど。
つまり、こちら側の大地のほぼ8割を青い花畑が占めているんだよ。残りは遠くに見える山々だけ。
このスペースであたしたち(シュネメスティラントロゥさん含む)がくつろぐには少々、いやいや、ずいぶんと狭いわ。
「これレジャーシート敷けないね……」
「うーうー」
あたしが残念そうに呟くと、しゅーちゃんが「自分に任せろ」と胸を叩いた。
「むいぷい」
「うー!」
しゅーちゃんはあたしの腕の中にいたしーちゃんを引っ張り出す。
ここからここまでと2人別々に範囲を決めて、不思議そうに見詰めるあたしに背を向ける。
「どうする……ええええっっ!?」
左側に陣取ったしゅーちゃんが左の翼を、右側に陣取ったしーちゃんが右の翼を花畑に向かって追い払うように振った瞬間だった。
花畑全体が大きくうねった途端に、緑の草原スペースが拡大しちゃったのです。
なんかの天変地異により海岸線が後退した光景みたい。
広がった草原は半径50mぐらいの扇状。さっきの倍なんて感じじゃないわ。
唖然とするあたしを余所に、しゅーちゃんとしゅーちゃんは胸を張ってふんぞり返っていた。
「ちょぉいと神子様方? ハルカ様がぁ呆然としておるぅんですが、これは怒られるパターンなぁのでは?」
「「ううっ!?」」
スフちゃんのひと言に2人がびびくぅっと硬直する。
まあ、確かに。
あたしとしても、花をどかしてまでここに居座りたいと思った訳じゃないし。
さっきまでいた面側に移動しても構わないかな、とは思っていたし。
「ふ た り とも?」
「「ひぅっ!?」」
たぶん笑みを浮かべていると思うあたしの顔を見たしーちゃんたちがひしぃっと抱き合う。
「人の物に手を出す時は、ちゃんと持ち主に許可を取る事って教えたよね? ね?」
「あぅあぅ……」
「へぅ……」
涙を浮かべてあたしを見上げる2人。
視界の端っこで体色を青くさせて、バイブレーション並みに震えるシュネメスティラントロゥさんがいたけど、なにやってたんだろう?
できれば20までに終わらせたい、異世界編。
理由は携帯の丸数字がそこまでしかないから(オイ