異世界へ⑩
「こんなものでよろしいでしょうか?」
「あ~、ごめんね。ありがとう」
シュネメスティラントロゥさんが持ってきてくれたのは2種類の葉っぱ。それぞれを2枚ずつだった。
腕のないシュネメスティラントロゥさんは、4枚ある翼のうち1枚でくるむようにして保持してた。器用だなあ、あの翼……。
「……ナニコレ。柿の葉のようだけど、匂いはアケビっぽい? もう1つは紅葉みたいだけど、スイカのような匂い?」
この世界でスイカは樹に生るものなのかな?
本当は散歩がてら森まで赴こうと思ってたんだけど。厚意を無碍にするのも失礼なので、実物を拝むのはまた今度にしよう。
葉っぱは試験管の中へ、巻きながら折り曲げないようにして入れておく。念のため底には水で湿らせた綿をいれてあります。これも創樹で作りました。なんて便利なのかしら。
「ハルカァ様。この地のぉ見所と言えばあちらぁだと思いますえ」
「え、あっち?」
スフちゃんは翼で指し示したのは、この島の地平線といえばいいのかな? 草原がすっぱりと途切れている方向でした。
「え!? もしかして違う面?」
「ええ、あちらァを下った所ですえ」
「ええええっ!?」
つい驚いて声を上げちゃったけど、やっぱり違う面まで行かないといけないのかな……。
忘れがちだけどこの大地は、エメラルドグリーンの空間に浮かぶサイコロ型の島なんだよね。
スフちゃんによると1辺が300Km程もある巨大な正方形だというが、これでも比較的中サイズらしい。スケールの度合いが違いすぎるよう。
しかし面を跨ぐというのは避けて通れない道ぃ?
しゅーちゃんたちが起きるまで心の執行猶予あるよね?
今のうちからしっかりと深呼吸してよう。
「ぷ~ぷぃ」
「むぃ」
「うっわー……」
という訳で断崖絶壁にやって来ました。こ、こっわぁ……。
いえ、草原は続いているんですよ。断崖絶壁の壁面に。
「大丈ぉ夫ですえハルカ様ァ。落ちることなぁど絶対ありゃあしまぁせんえ」
と、自信満々なスフちゃんは進行方向に立っています。あたしから見ると縦の壁面に貼り付いてる蜘蛛かなんかのよう。
シュネメスティラントロゥさんはあたしの背後で、何か生じた時に引っ張りあげてくれる役目です。
しゅーちゃんはあたしの左腕に、しーちゃんは右腕にくっついている状態です。
最初は運んで移動すると言ってくれたんだけど、こんなことがある度に荷物になるのは申し訳ないので、自力で行動すると主張しました。
1歩踏み出せば向こうの面の重力に捕まると分かって(手を伸ばして確認した)いるんだけど、断崖絶壁に足を踏み出すのは勇気が要ります。
頬をぴしゃりと叩いて気合いを入れる。
これは記念すべき第1歩。後で笑い話にするためにも、勢いは必要よ。
「よしっ! 女は度胸‼」
お婆様直伝気合い注入。表情が強張るのを感じながら足を1歩前へ。
「━━━き、気合い、入れ、ても、怖い、もの、は怖い……」
「あ~ぅ」
「むいっ!」
隣の面には無事に辿り着けました。
ええ、簡単でしたとも。行動だけなら拍子抜けするほど。
でも緊張感とか緊迫感とか精神力とかを多大に消費し、地面に倒れ込んでしまいました。
「あー。羽毛布団みたいな草の感触がきもちい~」
数歩行ったところでばったりと倒れたので、しーちゃんはやれやれと肩をすくめています。
しゅーちゃんは半泣きになってあたしにしがみついています。
ごめんねしゅーちゃん。心配掛けて……。
気力が戻るまでちょっと待っておくれ。
気が付けば70話を越え、PVも340万になっていました。
読んで下さっている皆様には感謝感謝です。
いつもありがとうございます。